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弘兼憲史先生 その1

「まんがとは、表現者としての自分そのものですね」───まんが家生活30余年。つねに時代をリアルに捉えて、同世代の大人たちを描き続ける弘兼憲史先生。物ごころついた頃から、まんがと触れあってきた先生に、これまでのご自身のまんが人生を振り返りつつ、まんが界の今、まんがへの想いを語っていただきました。

『弘兼憲史先生』 その2>>

生活スタイル

■ 日本一早起きのまんが家!?
    〜 健康管理と一日のスケジュール 〜

---- きょうは、朝早くからの取材ですみません(*火曜日の朝9時半から、ラジオの生放送終了直後にお時間をいただきました)。

弘兼:いえいえ。毎週火曜日は6時起きですから。6時半に家を出て、自分でクルマを運転てスタジオまで来ます。もともと、まんが家の中では比較的早起きのほうだと思います。

---- 「まんが家さん」というと、夜型というか昼過ぎに起きて夜から仕事を始めるというイメージが強いですが?

弘兼:私も以前はそうでした。夜中1時から描き始めて、終わるのが明け方から朝6時、7時。眠るのが朝のワイドショーを見ながら寝酒とともに。子どもの作文にも書かれたぐらいですよ。「朝の風景」というタイトルで「お父さんは毎日お酒を飲んでいます」って(笑)。先生も、そりゃ酷い父親だなぁ、と思ったんじゃないですか。

 50歳過ぎてから、やっぱり健康のことも考えるようになりましたね。もう夜明けに寝るような不摂生はやめようと。今は原則、夜12時までに仕事を済ませます。帰宅して寝るのが2時、3時かな。その間は、ワインセラーからワインを取り出して、飲みながらDVDを見るんです。それはもう、ありとあらゆるものを観るんですが大体は映画、しかも洋画が多いですね。完全にカウチ族、まさに至福の時ですね。それから寝て、翌朝起きるのは8時ごろ。だから睡眠時間はよく寝たときで6時間、少ないときで4時間ぐらい。ずっとそのリズムなので、逆に6時間以上は眠れないですね~。朝は、8時前には起きて、9時か、遅くても10時前には家を出て仕事に向かいます。クルマに乗ってまず向かうのは、仕事場ではなく近所のファミリーレストラン。昼までネーム(注:絵コンテ。まんがの設計図)書き。それが週3日で、あと2日はこれもファミレスでですが、まんが以外のこまごまとした書き物仕事をしています。 

---- なぜ仕事場ではなく、ファミレスでネームや書き物をされるのですか?

弘兼:仕事場はいわば戦場状態でして、アイデアを考えられる状況ではないんです。そういう意味でも仕事場に入る前のファミレスでの時間は大切なんです。

で、午後1時頃に仕事場に入り、それに合わせてアシスタントが集まる。そこから仕事が始まるんですが、郵便物、FAX、留守電のチェックだけでも毎日2時間ぐらいはかかってしまう。だから、まんがを描き始めるのは午後3時。それから12時、1時頃まで。一週間のうち休みはありません! 

---- ご飯、とくに、晩ご飯はどうされているのでしょう?アシスタントさんと一緒に?

弘兼:仕事場で作ってみんなで食べるんですよ。外に食べに行ったりはしないし、店屋物もとらないですね。毎日夕方、まんがを描き始める前に近所のスーパーマーケットに買い出しに行くんです。これがいい気分転換になる。ちょっとした運動にもなりますしね

今日は天ぷらを作ろうとか、牛丼にしようとか、レシピを頭の中で考えながら。そこで材料を買い込んで帰ってきて、作り方をアシスタントに教えながら、彼らに料理を作らせる。アシスタントには、まんがを教えることは全くないのですが、料理はかなり教えてますよ(笑)。

---- お仕事の流れについて、すこし詳しくお聞かせいただけますか?

弘兼:まんが家さんによって、それぞれやりかたが違いますよね。アイデア会議の段階からアシスタントが入って作品の方向性などを決める作家さんもいれば、アシスタントはほとんど使わないでひとりで描くという作家さんもいます。

以前に大友克洋さんの生原稿を拝見したことがあるんですが、彼の場合、鉛筆の下書きをそのままコピーして版下(注:そのまま印刷にかけられる原稿のこと)になるほど、下絵の段階から相当丹念に描き込んでいる。 逆に手塚治虫さんや水島新司さんは、下書きがほとんどないんです。手塚治虫先生の仕事場も拝見させていただいたことがあるのですが、アタリ(注:ラフスケッチ)というか、頭と体を丸と線で軽くさっさと描いて、その上からいきなりペンで、アトムをグーっと描く。水島さんも近いですね。ほんとにあっという間にザザッと描いてしまう。

ながやす巧さんのようにアシスタントを全く入れず、ひとりで描く作家さんもいます。「自分の原稿は人に手を入れさせたくない」という完璧主義なんでしょうね。

で、私の場合ですが、実はアシスタントや編集者と打ち合わせはしないんです。 連載を持つまでは、持参した原稿に編集者からの意見を聞くこともありましたが、連載を持つようになってからは、まったくやらなくなりました。編集者に途中で内容を変えられたりしてね。こちらが了承してないのに。だから単行本化したときに、元に戻してもらう、というような頑固なやり取りもしました。

今は、ファミレスでひとり、アイデアを考えています。紙を二つ折りにして冊子のようにして、ラフを作っていくんです。フキダシの位置など描き込んで、台詞もシナリオも一緒に作る。構成とシナリオを全部一緒にしたラフを、一本分描くのに大体2~3時間かかります。その後、仕事場に持っていって今度は枠(注:コマ割り)を取っていく。この段階ではじめてアシスタントに、手伝ってもらうんです。まず先に枠を引いてもらう。そうして私が、フキダシに台詞を書き込んでいく。これが、改行や文字の長さにコツがいるので、アシスタントには任せられないんです。言葉のリズムもありますし、ところどころ修正もするじゃないですか。だから書き込むのは自分で。その後、鉛筆で下描き。これももちろん全部自分です。次にペン入れで、やっぱり全部自分でやりますね。そうやって、ほぼ「塗り絵」をするだけの状態にしてからアシスタントに渡す、という流れです。

ただ50歳過ぎてからは、やや視力が落ちてきたので、肩から上は自分でペン入れするのですが、服の感じや体全体、肩から下のペン入れは、アシスタントにお願いするようになりましたね。アシスタントは総勢で7人ですが、常時やっているのは5人くらい。私を含めて6人のチームという感じです。

2006年11月03日