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『森恒二先生』 その1

行き場のない少年たちが集う夜の街を舞台に、主人公・神代ユウが、自分の居場所を求め、守るために拳を振るう『ホーリーランド』。現在、完結に向けて大盛り上がりのこの作品を執筆する森恒二先生が、まんがのチカラに登場! 多くの読者が疑問に思っていた「神代ユウ=森先生」説の真贋や、ご本人が語る「森先生の真実」など、本邦初公開のエピソードがてんこ盛りです!!

『森恒二先生』 その2>>

リアル『ホーリーランド』な少年時代

――はじめに先生の少年時代について教えてください。おそらく多くの読者が主人公のユウを先生の少年時代に重ねていると思うんですよね。

『ホーリーランド』

森:残念ながら僕はユウのような少年ではありませんでした(笑)。子どものころから身体が大きかったのと、親の方針もあって、ずっとリトルリーグで野球をやっていたんですよ。全国大会で優勝したチームで補欠のピッチャーをやっていました。たまにファーストとかもやっていたかな。体格がいいからとりあえずベンチに入れておこう、みたいな感じだったと思うんですが。

――なんと野球少年だったんですね。格闘技はやっていなかったんですか?

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森:格闘技は大学4年生の頃、大学の有志と新宿のスポーツセンターで、キックボクシングというか、グローブ空手の同好会みたいなことをやってましたね。その頃は格闘技ブームではなかったので、本当にひっそりと。その前に2年くらい国際式のボクシングを遊びで教えてもらっていたんですけど、本格的にやり始めたのは大学生になってからです。

――どういう経緯があって格闘技に興味を持たれたんでしょう?

森:話すと長くなるんですが、僕はもともとすごくオタク気質で、家でお絵かきするほうが楽しい子どもだったんですよ。ただ、親は僕にスポーツをさせたがったんですね。なまじ身体が大きいし、体育の成績も良かったものですから、その気になっちゃったんでしょう。リトルリーグにいる子の親御さんって、そういう方が多いんですけど。

ただ僕は、将来はまんが家になりたかった。それで中学生のとき、リトルリーグを辞めたいって親に相談したんです。もちろん「まんが家になりたいから」なんて言っても通りませんから、軟式なんかやれない、みたいな理由をこじつけて。

そうしたら、高校でやるなら今は辞めていい、みたいなことになったんです。もちろん僕は高校生になっても再開するつもりなんかなかったんですけどね。それで高校入学後、どんどん親との関係が悪くなっていくんですよ。親は僕がまんがを描くことをあまりよく思っていませんでしたし。

――当時の親御さんは、どこもそんな感じだったみたいですね。

ところが同じ高校に、三浦建太郎ってヤツがいましてね。

――同じヤングアニマルで『ベルセルク』を連載中の三浦先生ですよね? 同じ高校の出身だったんですか?

『ベルセルク』

森:そうなんですよ。彼も当時すでにまんが家を目指していたので、一緒に描くようになったんですけど、彼の家はご両親がデザイナーという美術的にエリートな家庭なんですよね。だから、まんがや絵を描くことに対してすごく理解がある。僕は、高校で初めて本格的にまんがを描く友達ができたんですが、あまりに環境が違いすぎて、そこでちょっとスネちゃった(笑)。うらやましいって気持ちをうまく表現できなかったん��すよね。

でも、三浦君とはずっとまんがを描き続けましたよ。僕の家ではあまりまんがが描けないので、ずっと彼のうちに入り浸っていたら、ご両親が「そんなに両親と上手くいかないんだったら、ウチで生活したら?」とか言ってくれて、しばらく三浦君の家に住んでいたこともあるくらいです。一緒に学校に行って、一緒に帰ってきて、「じゃあ、まんが描こう」って(笑)。

ただ、まあ、いつまでもご厄介になるわけにはいきませんよね......でも家には帰りたくないわけです。僕はユウみたいなナイーブないい子ではなかったですけど、理由としては似たような感じで、下北沢をフラフラするようになっちゃったんですよ。で、そのまま何となく街でケンカをするようになっちゃった、と(笑)。

――なるほど。まずは格闘技ではなく、ケンカから入ったんですね。まさに、リアル『ホーリーランド』。やはりユウのように連戦連勝だったんですか?

森:子どものころからずっと身体を鍛えていましたし、もともと体格も良かったので、けっこう勝てちゃうんですよね。ほかではあんまりほめられないし、成績も良くなかったので、ケンカに勝てるってのがうれしかった。それでだんだんケンカが好きになっていっちゃって(笑)。ただ、その辺のヤンキー君なんかとやる分には勝てても、格闘技をやっている子には負けちゃうんですよ。それで格闘技に興味がわいてきたんです。

――なるほど! ちなみに一番最初に負けた格闘技は、なんだったんですか?

森:柔道ですね。素行が悪くて柔道部を退部させられた子に完敗しました。今でも、それがすごくイヤな思い出として残っていますよ。とにかく1人だけ圧倒的に強いんです。全く別次元で。

分かりにくいたとえかもしれませんが、時代劇でチンピラ同士がワーッってケンカしてる中に、侍が出てきてパニックで大騒ぎになるイメージですかね。そのくらいの差があった。だから当時は本当に柔道が怖かったですね。それでユウの最初の強敵を柔道家にしたんですよ。

――ユウがボクシングを始めたのはなぜでしょうか? やはりそこで先生がボクシングを選ばれたからだったりするんですか?

森:そうですね。当時、世田谷のスポーツクラブみたいなところに行けば、大学生のお兄さんが国際式ボクシングを教えてくれるって話を聞いたんですよ。それで殴り方を教えてもらおうって(笑)、通うようになったんです。

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幸いなことに(?)、僕が通っていた高校はトレーニング施設がすごく整っていたので、毎朝一番に学校にいってジムワークできたんですよね。毎日毎日サンドバッグを叩いていると、だんだん殴り方が分かってくるもんなんです。しかも毎朝やっているのを見た空手部の顧問が、「こうやって蹴るんだ」とか「こうやって受けるんだぞ」とか、稽古を付けてくれて......。もちろん顧問の先生は僕がそれを何のためにやっているのかなんて知らないんですけども。体鍛えるのが好きなヤツなんだなくらいに思われていたんじゃないかな(笑)。

そんなこともあって強くなって、晴れて柔道部にリベンジしました。さんざんつけ回して勝ったのは1回だけ、トータルでは負け越してるんですけどね。

――『ホーリーランド』で、ユウが一度は負けて、再戦して勝利するという流れは、そのリアルな体験から生まれているんですね。やっぱりユウのモデルは先生なんじゃないんですか?

森:いや、僕はあんないい子じゃなかった(笑)。ケンカも巻き込まれたっていうより、自分から首をつっこんでいたところがありましたしね。

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ユウのあのナイーブな感じは学校の友達をモデルにしたんですよ。僕の経験を参考にしたところもありますが、雰囲気的なところについては、全く僕ではありません。

ちなみにユウには、三浦君の要素も入っているんですよ。僕の思う「超常的なヤツ」ってのが三浦君なんです。彼のすさまじい集中力とか、周りが見えなくなる感じとか、そういうところに「天才」を感じるんですよね。

――ユウ以外の登場人物で、実際の友人をモデルにしたキャラクターはほかにいますか?

森:実はほとんどのキャラクターが友人をモデルにしています。特に『ホーリーランド』は僕の経験をベースに描いているので、序盤はわりとそのままのキャラクターが多いですね。たとえば伊沢は、大学時代の先輩がモデルです。

――あんなかっこいい人が実在するんですか!?

森:伊沢のモデルになった先輩は、当時からものすごく"完成された感じ"の人で、僕が悩んでいた時期に一緒に遊んでくれた人なんです。今は広告代理店に勤務していて、すごく有名なコマーシャルをプロデュースしたりしてましたね。

あと、シンのモデルは幼なじみです。いつも明るくて、周りを笑わせてくれるような子がいたんですよ。どちらかというと僕は暗かったので、彼の存在がすごくうれしかったんですよね。それでシンのモデルにさせてもらいました。

――『ホーリーランド』は、本当に先生の人生が凝縮されたような作品なんですね!

森:さすがに全てがそのままではないですけど、少年時代に思ったこととか、悩んだこと、あとケンカに引き込まれていくプロセスが、同じような感じですね。ちょっと絡まれてその子を殴っちゃったら、その翌々日ぐらいに仕返しに来られて、みたいな。

実際のケンカも、やったりやられたりっていうことが始まりだったので、『ホーリーランド』でもその辺のプロセスをそのまま描いています。あんなに大がかりに暴れ回ったわけじゃないですけどね(笑)。

――街の雰囲気も、作品と同じような感じだったんですか?

森:今からは想像できないと思いますが、あの当時は、9時を過ぎるとゲーセンには、ヤンキー君しかいなかったんですよ。下北沢には大きなゲーセンのチェーンが2つくらいしかなかったので、だいたい会うヤツも決まってくる。

そんな狭い世界だったんで、情報も早いんですよ。「あいつとあいつがやり合ったらしいぜ」とか、「あいつは強い」とか「いや弱い」とか。

ユウが2巻で吉祥寺に移���するじゃないですか。あれは僕の経験そのままなんですよ。あまりにつけ狙われて、たむろする場所を吉祥寺に変えたんです(笑)。僕も柔道部の子をつけ狙ってましたが、同じように僕も狙われていた。

――今からはちょっと想像できない話ですね。そのへんの「ギャップ」を、あえて修正せずにそのまま出してきているのは、それでも受け入れられるだろうっていう狙いがあったんですか?

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森:そうですね。ヤンキーの存在や、ケンカを通じて友達になっていくっていうプロセスなども含め、担当さんが「ファンタジーとして読んでもらえるだろう」って。あと、僕が下北に行かなくなって久しいもので、現状を知らなかったってこともあります。久しぶりに行ったら、すっかりおしゃれタウンになっていて、驚きましたよ(笑)。

『ホーリーランド16』
『ホーリーランド』
『ヤングアニマル』連載

森恒二プロフィール

森恒二(もりこうじ) 1966年、東京都生まれ

2000年、ヤングアニマルにおいて『ホーリーランド』で連載デビュー。それまでの精神論一辺倒だったケンカまんがに、リアル格闘技まんが的なエッセンスを盛り込み人気を博す。2005年には石垣佑磨主演で深夜ドラマ化。原作者がアクション監修を行なったことが話題になった。現在『ホーリーランド』は単行本16巻まで刊行中。なお、ヤングアニマルで『ベルセルク』連載中の三浦建太郎先生、『拳闘暗黒伝セスタス』連載中の技来静也先生は高校時代の同級生。


「まんがのチカラ」次回予告
子どもの頃からまんが家を目指してきた森先生が、ある事を契機にまんがが描けなくなってしまいます。友人であり、ライバルでもある三浦建太郎先生が、まんがの世界で、その頭角を現し伸びていくのを感じながら、どん底へと落ちていく森先生。そしてさらに思いもがけない事件が先生を襲って・・・。次回は2008年3月17日掲載予定! お見逃し無く!

2008年03月10日