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『萩尾望都先生』 その1

毎回、ビッグゲストをお招きして、ここだけの貴重なお話をお伺いしている「まんがのチカラ」。今回はなんと、少女まんが界を代表するベテラン、萩尾望都先生にお越しいただきました!! 現在もなお第一線で活躍される萩尾先生が、どのようにして歴史に残る数々の作品を生み出してきたか、その秘密の"原動力"を教えていただきました。

『萩尾望都先生』 その2>>

見どころ満載のパーフェクトセレクション

――昨年より刊行されていた『萩尾望都パーフェクトセレクション』がついに完結しましたね。お疲れ様でした。そこで、まずはパーフェクトセレクションが、どういう経緯で出版されることになったのかを教えてください。

萩尾:これまで『トーマの心臓』や『ポーの一族』など、いくつかの作品で大きな判型のものを出していたんですが、今はすべて絶版になっているんですね。それで担当の編集さんが、新しい大きな版で再出版しませんか、という話を持ちかけてくれたんですよ。

萩尾望都パーフェクトセレクション

――掲載作品はどのような基準で選んだのでしょうか?

萩尾:編集さんと一緒に「売れ筋は何か」で選びました(笑)。

――なるほど(笑)。判型が、文庫版や新書版と比べて大きなサイズになったことにも、何かこだわりがおありなんですか? 

萩尾:やっぱり大きい判型で読んでもらいたいという気持ちはありますね。描いている時は、雑誌に載った状態(B5サイズ)が一番読みやすいようにと考えているので。だから、大きな判型で出していただけたのは本当にうれしかったです。「パーフェクトセレクション」は、雑誌掲載時よりも小さい判型ですが、最近の印刷は質がとても良いので、充分読みやすいと思います。

――カラー原稿がそのまま掲載されていることにも驚かされました。

萩尾:私もビックリしました。こだわっていただいて本当にありがたいです。でも『スター・レッド』なんかはほとんどカラー原稿が残っていなかったので大変だったんですよ。カラー原稿を再現するために、小学館に保存されている雑誌を写真に撮って、それをパソコンで修正するという作業をしています。具体的には雑誌掲載時に入っているタイトルを取り除いて、そこに何が描かれているかを想像して埋めていくといった作業をしました。だから、元の原稿と比べて、微妙に違うところがあるかもしれないですね。

――そういった修正作業には、先生も参加されたんですか?

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萩尾:はい、やりました。まずタイトルを外して、その後を大まかに埋めたものを出力してもらいます。それをタイトルが入った状態のものと並べて、じーーっと見ながら思い出すんです。そして、全体のバランスも見ながら、少し描き足していくという作業をしました。(あるカラーページを見ながら)あ、ここはちょっとミステイクしていますね(笑)。

――そういった作業は、出力した紙に直接ペン入れしていくような感じで行なうんですか?

萩尾:いえ、Photoshop(プロ向けの画像編集ソフト)を使って、パソコン上でやってますよ。

――え? 先生はパソコンお得意なんですか!?

萩尾:いや、得意というほどではないです。原画は紙に描いて、その色を濃くしたり、薄くしたり、ちょっとした修正をしたりとか、そんな程度です。今回は、カラーページ以外にもそういう修正をしているんですよ。『ポーの一族』でもいくつかの原稿がなくなっているので、カラーページ同様、写真に撮って、それをデータ化し、消えてしまったり、つぶれてしまったところを描き直しています。

――すごいですね!

萩尾:寺田克也さん(PCを使った描画の第一人者として知られる有名イラストレーター)に教えてもらいながらやってます(笑)。

――将来的には全てパソコンで、ということも考えておいでな���ですか?

萩尾:今度集英社から出る『あぶな坂ホテル』という単行本で大幅な書き足しをしたんですが、その作業をパソコン上でやってみました。書き足しに際して、コマを切り貼りする必要にかられたんですが、それを紙の上でやると線がずれたり、印刷時に段差が見えてしまうんですよ。私はそれがすごくイヤだったんです。

ところが、パソコンで作成したデータを入稿したところ、印刷所から「これだと線がきれいに出せない」って連絡がありまして(苦笑)。私の作ったデータだと線がギザギザになってしまうらしいんですよ。色彩なんかはともかく、ペンはまだ紙に描いた方が良いみたいですね。向き不向きがあるんでしょう。

――なるほど。パソコン=万能というわけではないんですね。単行本化に際して書き足しすることは多いんですか?

萩尾:最近はあまりやっていないですね。先ほどの『あぶな坂ホテル』の場合は、収録されている『3人のホスト』という話が、本来考えていたストーリーを掲載ページ数の関係でかなりカットしたものだったんですよ。それで単行本化に際して、その部分を入れようと言うことで12枚追加することにしました。

――単行本化されるときに、元々考えていたストーリーに戻したいというお気持ちがあるんですね。

萩尾:そうですね。『スター・レッド』も2、3枚あったんじゃないかな。『メッシュ』はほとんどなかったと思います。『ポーの一族』では、ネームを描いた時に「これは入らない」というので、外したページをとっておいて単行本化したときに戻しています。

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あと、話と話の間につなぎのページを入れたりとかもしていますよ。読者はページが減ったらがっかりすると思うんですが、ページが増える分には、お得な感じがしてうれしいですよね?(笑)

後で読み返して「しまった、ここのシーンの説明が不足している」と思う部分も、書き足しています。『スター・レッド』では、火星での住民の生活の様子とかを書き足しました。雑誌掲載時に与えられたページに詰め込むためにコマを小さくしすぎたところを直すなんてこともしますね。

――ものすごい手間をかけているんですね!

萩尾:最初からちゃんとページ数を考えて構成すればいいんですよ。それが、どういうわけか、毎回計算を間違えちゃう(笑)。『ポーの一族』なんかをやっていた頃(1972~1976年)は、どう考えても無理なのに、なぜか納まるだろうと思っちゃってましたね。ところがやってみたら全然、半分も入らなかったり(笑)。『小鳥の巣』(『ポーの一族』の1エピソード)は3回連載だったのを、入り切らなくて1回多くしてもらったくらいなんですよ。

――カラーの収録となくなってしまった原稿の再現以外に、『パーフェクトセレクション』で変更された点はありますか?

『トーマの心臓』

萩尾:『トーマの心臓』に、従来の単行本では収録していなかったトビラページを入れています。この作品は単行本にする時に、トビラを全部なくして連続して読めるようにするという考えで描いたのですが、今回、編集さんのこだわりで雑誌掲載時の状態に戻すことにしました。私個人としてはちょっと不思議な印象なんですが、それはそれで面白い試みかな、と思います。

――不思議な印象、ですか?

萩尾:一般的な連載は、前回の終わりの部分をイントロに持ってきて、読者にストーリーを思い出してもらうというやりかたをするんですが、当時の私は、そのイントロ部分に貴重なページを割きたくなかったんですよ。さっきも言ったように、ただでさえ話が入り切らなくて困っているわけですから、1コマでも惜しいわけです。それで『トーマの心臓』の時は、あえて単行本で読むことを前提に、イントロ部分などを完全にカットして描きました。

――確かにそういわれてみると、パーフェクトセレクション版ではトビラが挟まることで、話の連続性が若干阻害されて、違和感を感じるかもしれません。もちろん、ファンとしてはこれまで見られなかったトビラが見られてうれしいんですが……。ちなみに先生としては、連載時に読んでもらうのと、単行本化されたものを読んでもらうのは、どちらがより望ましいんでしょうか? これまでのお話ですと、やはり単行本の方を「完成版」と受け取ってしまうのですが……。

萩尾:連載時に読むのも楽しい面がありますよね。次の話を待つ1週間、1ヶ月が楽しくありませんでしたか? 描く方としても、この“引き”で読者がわくわくしながら待ってくれるかな、とか考えるのが面白かったです。

――先生も連載中、読者がどう反応するか、やはり気になっていたんですか?

萩尾:それは気になりますよ。私は『伊賀の影丸』(横山光輝先生)が大好きだったんですが、影丸が危機に陥ったところで「つづく」になると、1週間ドキドキして待つことになりますよね。そのドキドキ感が連載まんがの宝物だと思うんです。だから、自分の作品を読んだ読者がドキドキして待ってくれるかなということは常に考えていました。

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『トーマの心臓』に、オスカーとエーリクというキャラクターが、街の外に出て行くお話がありますよね(パーフェクトセレクション『トーマの心臓 I』に収録)。その回は、崖の上でケンカして片方が落ちそうになるシーンで「つづく」になるんですが、それを読んだ読者から、その先の展開を自分で考えましたってファンレターが届いたんです。それを読んだときは、読者がちゃんと「引き」に乗ってくれたっていううれしさがありましたね。

もちろん自分が、読者としてドキドキするのも大好きです。『デスノート』(原作/大場つぐみ先生 作画/小畑健先生)や『ヒカルの碁』(原作/ほったゆみ先生 作画/小畑健先生)には毎回ドキドキさせられました。最近の作品では、『PLUTO』(手塚治虫先生、浦沢直樹先生)や『へうげもの���(山田芳裕先生)も面白いと思います。

――先生が今一番続きの気になるまんがって何ですか?

萩尾:よしながふみさんの『大奥』かな。あ、でも『のだめカンタービレ』(二ノ宮知子先生)の続きも気になります。あと、『1/2の林檎』(こやまゆかり先生)は、お昼の連ドラみたいな展開にドキドキしてますよ。この2人はこの先どうなるんだ!って(笑)。

――絞りきれないほどたくさんあるんですね(笑)。普段はどのくらいの量のまんがをお読みになっているんですか?

萩尾:家に送られて来るものは全部、時間が許す限り読んでますね。

――やはり、ライバルの作品は気になるということでしょうか?

萩尾:いや、ライバルなんてとんでもない! 私、学校で「落ちこぼれ」だったんですよ。私の生まれた昭和24年は、子供の数が一番多くて、中学・高校にかけてとにかく競争だったんです。周りの大人からも「競争! 競争!」って、耳にタコができるほど聞かされましてね。私がまんがを志したのも、まんがの世界なら競争しなくていいんじゃないか、と思ったからなんです。

しかしまんがの世界に入ってみたら、この世界にも「アンケート競争」ってものがあったんですよね。もう完全に計算違いでした(笑)。とにかく私は、ライバルとかそういうのが苦手なんです。私はまんが家であると同時に、まんが読者でもあるので、他のまんが家さんに対してもファンでありたいという気持ちが強いですね。

――そんな先生が一番好きなまんが家さんはどなたですか?

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萩尾:やっぱり一番影響を受けた手塚治虫先生ですね。私が小学生の頃は、どの本をみても手塚先生の作品が載っているんです。月刊まんが誌を見ても、学年誌を見ても、中学生向けの「コース」という雑誌にも、弟や妹が読んでいた幼児向けの雑誌にも、とにかく全部に載っていたんです。そして、それがまた、どれも面白いんですよ。それで、自分もまんがを描きたいと思うようになって、ノートブックにまねしていろいろ描くようになりました。私がまんが家を目指したのは、手塚先生との出会いがあったからですね。

萩尾望都プロフィール

萩尾望都(はぎおもと) 1949年、福岡県生まれ

1970年代を中心に活躍を始め、現在の少女まんがスタイルを確立したとされる、通称「24年組」作家の象徴的存在。1969年、なかよしにおいて『ルルとミミ』でデビュー後、1972年、別冊少女コミック誌上で『ポーの一族』を発表。その圧倒的な構成力の高さから、女性だけでなく男性のファンも数多く獲得した。『トーマの心臓』『メッシュ』など、代表作多数。現在も、フラワーズ誌上において新作を継続して発表。


「まんがのチカラ」次回予告
手塚先生の作品をきっかけに、まんが家を目指すようになった萩尾先生。しかし、まだまだまんがの情報が少なかった当時、プロデビューを果たすために、先生は大変な努力をされたそう。そして、そんな先生にとって、今の時代にはうらやましいものがあるとか。それはいったい何なのでしょうか・・・? 次回は、2008年4月14日掲載予定! お楽しみに!

2008年04月07日