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『荒木飛呂彦先生』 その5

個性溢れる名作揃いだった週刊少年ジャンプ誌上においても、特に際立つ個性を備えた作品として話題になった『ジョジョの奇妙な冒険』。ここではその誕生にまつわる、荒木先生ならではの「こだわり」について語っていただきました。

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ジョジョの奇妙な冒険 -荒木飛呂彦は屈しない-

―― 『バオー来訪者』の終了から約2年後、ついに『ジョジョの奇妙な冒険』(1986年~)が始まりました。

荒木:『ビーティー』で「知性」を、『バオー』で「肉体」を描いたので、次は「心」かな、と。当時の少年まんがって「強い人」=「ケンカの達人」だったじゃないですか。僕はそうじゃなくて、もっと心の強さみたいなものを描きたかったんです。

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当時はバブル経済のただ中だったんで、まんがもバブリーでイケイケな話が多かったんですよ。トーナメント方式とかで、どんどん敵が強くなっていく。でも頂上まで行ったら本当に最強なのか、「真の強さ」って本当にそこにあるのかって部分にすごく疑問があった。

僕はその答えが「心」にあるんじゃないかと思ったんです。そして、そういうキャラクターを描きたい、と。

―― それが、ジョジョであったり、ディオであったりするわけですね。でも、『ビーティー』の時もそうだったわけですけど、本流に逆らうのは大変なことだと思います。当時の編集部からは、「もっと分かりやすくて強そうな敵をバンバン出せ!」とか、そういう要望はなかったんでしょうか?

荒木:それはもちろんありましたよ。ただ、僕は「他人が描いていないことを描く」ということを一番大事にしていたので、そこは譲りませんでした。まんが家としての価値観を「人気」だとか、「売り上げ」だとかに置いていると屈しちゃうと思うんですけど、自分の中で進むべき道が見えていると、周りに何を言われても気にならなくなりますね。

―― アンケート結果にこだわっていなかったんですね。

荒木:いや当然、1位を取れたらうれしいですよ。でもそれは目的じゃないですよね。全く売れないのはイヤですけど、誌面に載っていれば良いのかな、と。

それに、"トーナメントもの"はストーリーとしてやばくないかって思っていたんです。それをやって描き尽くしたまんが家さんたちが、次の作品の時にパワーを失っている感じがするんですよ。それもイヤで。

―― そういう意味で言うと、『ジョジョ』は、新しい部が始まるたびに全く違う方向になって、新鮮な面白さとパワーがある作品ですよね。ところで、『ジョジョ』の主人公が変わっていくという、当時としては(今でも?)かなり珍しいアイディアは最初から予定していたものなんですか?

荒木:そうですね。『エデンの東』(ジョン・スタインベック)とか、アメリカの小説に主人公が代替わりしていくってのがよくあるんですよ。連続大河ドラマっていうんですかね。そういうのが好きだったんでやってみたかったんです。

―― なるほど。ではディオも最初からジョースター一族に関わっていくキャラクターという予定だったんですね。

荒木:『ジョジョ』の構想の中に「先祖の因縁」ってものがあって、第1部で死んだはずのディオが現代に蘇るっていう展開は最初から考えてました。自分には何も責任がないのに、先祖からの因縁で命を狙われるってすごいコワイじゃないですか。そういうのを描きたかったんですよ。

―― 逆に、連載中に偶然生まれたキャラクターや設定というのはありませんか?

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荒木:実は「スタンド」がそれですね。第2部が終わる直前に、「もう波紋は終わりにして、第3部は新しいので行こうよ」って編集者に言われて。それで慌ててひねり出しました(笑)。

スタンドは超能力を目に見えるように描くとどうなるか、っていうアイディアなんですけど、最初はなかなか概念を分かってもらえなくてね。「なんだそれ」って。こっから(背後の空間を指さして)守護霊みたいなのが出てきて敵を攻撃するんですよって言っても分かってもらえない(笑)。

そうこうしているうちに締め切りも近づいてきたんで、とりあえず描いて、それを読んでもらったんですが、それでもなかなかね......。それを、どうやってわかってもらおうかってのが、第3部の始まりでした。

―― でも、だんだん認知されていって、今では定番の表現方法になっていますよね。

荒木:そうなっちゃいましたね~。

―― しかし、こうしてお伺いしていると、随所に「編集者」の存在が出てきますよね。荒木先生にとって「編集者」とはいったいどんな存在なのでしょうか?

荒木:お笑いの相方って感じですかね。とても大切ですよ。1人じゃ絶対にまんがは作れませんから。編集者との打合せは大事です。

ちなみに、これまで10人以上の編集者と仕事してきましたけど、新人編集者だと萎縮して意見を言わないことがあるんですよね。だからそういうとき、僕、ちょっと怒るんですよ。なんでも良いから言えって、言うのがあなたの仕事だよって。

―― 編集者の意見によって作品が変わるって事はあるんですか?

荒木:それはもちろん。その人の好みも入っちゃったりするし。たとえば、ジョジョの第3部でディオを倒しにエジプトに行くじゃないですか。あれは、編集者がエジプト好きだったからなんですよ。僕は、ああいう、なんていうんですか、汚い? そういう場所はイヤだったんですよ。それを編集者がむりやり一緒に行こうよって。僕は行きたくなかったんですけどね(笑)。

―― 今までの担当編集者の中で一番印象が強かった人と言うと?

荒木:皆さん、それぞれ個性的でしたが、やはり圧倒的なのは、デビュー当時からお世話になってる椛島さんですね。僕のまんが家としての方向性はその人とのやりとりの中で決まっていったと思います。

椛島さんが担当したほかの作家さんの作品とかを見ると分かるんですけど、ジョージ秋山先生とか、宮下あきら先生とか、みんなちょっとヤバいですよね(笑)。

―― 強烈な作品をお描きの方ばかりですね。ただ、逆に言うと、そんな椛島さんだからこそ、荒木先生の力を引き出せたのかも知れませんね。

荒木:こういう感じにはなってなかったかもしれませんねえ(笑)。だから椛島さんには感謝していますよ。

(次回更新予定: 7/30(月)頃)

荒木飛呂彦プロフィール

荒木飛呂彦(あらきひろひこ) 1960年、宮城県生まれ。

『武装ポーカー』で第20回手塚賞準入選。1983年、週刊少年ジャンプ『魔少年ビーティー』で週刊連載デビュー。その後、『バオー来訪者』を経て、『ジョジョの奇妙な冒険』を連載開始、同誌で15年以上続く長期連載として人気を博した。また、それと平行する形で、歴史上の偉人にスポットを当てた『変人偏屈列伝』の原作も担当(一部は作画も担当)、その独自性のある展開や演出には熱心なファンが多い。現在は、ジョジョシリーズ第7部に相当する続編『スティール・ボール・ラン』をウルトラジャンプで連載中。


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2007年07月23日