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第32回 『梅雨空の向こうには』

木村カナ(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 「天文学の父」ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で天体観測を行った1609年からちょうど400年目にあたる今年(2009年)は世界天文年。ちなみに7月20日はアメリカのアポロ11号の月面着陸成功40周年。7月22日には日本全国で部分日食(一部の地域では46年ぶり!の皆既日食)を見ることができるそうです。

 7月7日、七夕の夜からは、柏原麻実『宙(そら)のまにまに』(講談社)のテレビアニメの放送が開始されます! 『宙のまにまに』は高校の天文部を舞台とするピュアな青春ラブコメ。いつでも元気ハツラツ、ハイテンションなヒロイン・明野美星(あけの・みほし)は星空が大好きな女の子。天文部が部員不足で同好会になるのを防ごうと、彼女が必死でがんばるのは、星を見る喜びと感動をみんなと共有したい!と思っているからです。主人公で美星の幼なじみの大八木朔(おおやぎ・さく)は、昔も今も美星にふりまわされっぱなし、入学早々、天文部に入部するはめになってしまいました。本当は目立たず静かに、読書をしていたかったのに......とずっとぼやきっぱなしの朔。でも、美星たち天文部のゆかいな仲間に囲まれた朔の高校生活、にぎやかでモテモテで充実していて、とっても楽しそうです!

 宇宙に関する話題が満載の7月はもうすぐ、だけど、関東地方は目下、梅雨のまっただなか。昨日も今日も夜になるとどしゃぶりの雨が......。でも、その梅雨空の雲の上には、星々が、宇宙が、いつでも広がっているのです。大宇宙に思いを馳せたくなる、そんなまんがを今回はご紹介したいと思います。

『宇宙兄弟』(小山宙哉/講談社)

宇宙兄弟
●小山宙哉・著
●講談社
●モーニングKC 既刊6巻
●定価:各580円(税込)
モーニング連載中

 2006年の夏に未確認飛行物体を目撃した12歳と9歳の南波(なんば)兄弟。そしてそれから19年後の2025年。日本人初の月面着陸を行う予定の宇宙飛行士になった弟の日々人(ひびと)は、NASAでの記者会見で「僕より先に月面を踏むはずだった人が今この場にいないのは残念です」と発言します。一方、兄の六太(むった)はといえば......上司に頭突きを食らわせて会社をクビになり、現在無職。

 兄として常に弟・日々人の先を行こうとしていた少年時代の六太。日々人が宇宙飛行士になって月に行くんなら兄ちゃんは火星に行く、というあの日の約束......日々人からのメールによって、いつのまにかすっかり忘れていたその約束を思い出した六太にJAXA(ジャクサ)からの通知が突然届きます。母が黙って出した履歴書で、新規宇宙飛行士選抜試験の書類選考を六太は通過していたのでした。宇宙に行きたい......! 子どもの頃、日々人とともに思いえがいていた夢をようやく取り戻した六太。あの南波日々人飛行士の兄、という周囲からのプレッシャーを乗り越えて、彼は過酷な選抜試験を通過することができるのでしょうか......!?

 3巻から5巻までで描かれている3次審査は、完全閉鎖環境の中で、5人チームで2週間生活する、というもの。宇宙船内での生活を疑似体験しながら、監視カメラの映像を通じて、宇宙飛行士としての適性をチェックされる試験です。宇宙に行く覚悟はあるのか? 完全に閉ざされた宇宙船の中で仲間とうまくやっていけるのか? どんなトラブルも冷静に処理することができるか? 現在の宇宙飛行士の選抜でも実際に行われている試験だそうなのですが、ウワーッ! 想像しただけで息苦しい! 『宇宙兄弟』と同様に、主人公が宇宙飛行士をめざすまんがである山田芳裕『度胸星』(小学館)でも、閉鎖環境での生活の試験のエピソードが描かれていました。地上での擬似的な閉鎖環境とはいえ、そこではチームのメンバーそれぞれの本性があらわになります。さてさて、六太は......? 1巻では弟の日々人に引け目を感じてばかりで、かなりのダメ人間っぽかった六太ですが、この3次審査のエピソードを通じて、彼本来の人間的な魅力がようやく理解できたような気がしました。

 子どもの頃に芽生えて、大人になってから再び共有された南波兄弟の宇宙への夢が、どうか叶いますように! 六太と日々人をこれからも末永く応援していきたい、そんなまんがです!

『プラネテス』(幸村誠/講談社)

プラネテス
●幸村誠・著
●講談社
●モーニングKC 全4巻
●定価:680~700円(税込)

 人類がすでに月面都市に住み、月や火星の資源をエネルギーとして活用している2074年。地球の周囲に漂う大小のデブリ(人工の宇宙ゴミ)を回収する宇宙船「DS-12号」の乗組員であるハチマキ、ユーリ、フィーの3人を中心とする物語が『プラネテス』です。

 SF文学賞である星雲賞コミック部門を受賞し、アニメ化もされた本作は、幸村誠の初連載作品です。それどころか「PHASE.1 屑星の空」がデビュー作、さらには、それが生まれて初めて描いたまんがだった、という事実を知ったときの驚き!(「まんがのチカラ 幸村誠先生」インタビュー参照) いちばん最初からこんなにも完成度が高い作品をいきなり描ける......才能があるってそういうことなんだなあ、と思い知らされました。

 「ここも宇宙だよ」。自分探しの旅を続けていた若き日のユーリが出会った、ネイティブ・アメリカンの老人が言った言葉です。地球とそれ以外の宇宙があるのではない、地球も宇宙の一部である......。『プラネテス』という作品は、未来の宇宙空間での出来事を描いたサイエンス・フィクションであるばかりではなく、人間と世界の関係を考えた深遠な物語でもあります。

 木星往還計画の乗組員に志願したハチマキが野望に向かってがむしゃらに突き進む、ふと立ち止まってしまってどん底まで落ちこんでいく、DS-12号の新人クルーのタナベと心が通じ合う......彼のそうした心のプロセスはとても普遍的な感情だと思います。

 「愛し合うことだけは どうしてもやめられないんだ」

 『プラネテス』の結末、見開きいっぱいの宇宙空間にかぶせられたこの言葉が、はるかな過去の10世紀のヨーロッパを舞台とする、現在連載中の『ヴィンランド・サガ』へと引き継がれていきます。

 また、『プラネテス』に描かれているデブリの危険性は、将来の宇宙世紀の問題ではありません。人類が宇宙空間へと活動の場を広げていくのは確かにまだ先のことでしょうが、既存の人工衛星その他が今後次々とデブリと化していくことが、深刻な危機となる可能性がすでに指摘されています。

 科学技術が進歩して、わたしたちと宇宙との間の距離がどんどん縮まっていけばいくほど、そこはもう地上から完全に切り離された夢の場所ではなくなっていきます。夜空の星を見上げ、遠い遠い宇宙について考えながら、今ここにいる自分に思いをめぐらす。そんな不思議なスケールのリアリティーが、宇宙を描いたまんがにもあらわれつつあるのかもしれません。

 それでは、また次回!

2009年06月29日