まんが☆天国 TOP > まんてんセレクション >  第33回 『妖怪が見える少年』

まんてんセレクション

第33回 『妖怪が見える少年』

木村カナ(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 いやはや、気がつけばすっかり真夏......!
 夏といえば妖怪や幽霊が登場する怪談がつきものです。鳥肌が立つような怖い話に涼を求めるのは、夏ならではのお楽しみ。ご先祖様の霊魂がこの世に戻ってくるとされる「お盆」という行事がある日本の夏には、この世とあの世、生きている人と死んでいる人の区別、人間とそうでないものの境界線があいまいになってしまいます。強い陽射しが照りつける白昼、うだるような熱気の夕方、寝苦しい夜......そのある一瞬に実在しないはずの何かが視界をよぎる。いわゆる霊感というものをまったく持ちあわせていないわたしでも、そんな奇妙な感覚にふっととらわれることがあります。それは、暑さで頭がぼうっとなっているせいだけなのでしょうか......?

 今回は他の人には見えない異世界が見える男の子が主人公のまんがをご紹介したいと思います。主人公の少年と妖怪の関係を描いた2つの人気作、似通った設定もあるにはあるのですが、全体の雰囲気や読後感はまるで別物。この夏のあなたの気分にぴったりなのは、はたしてどちらの作品でしょうか......?

『百鬼夜行抄』(今市子/朝日新聞出版)

百鬼夜行抄
●今市子・著
●朝日新聞出版
●眠れぬ夜の奇妙な話コミックス 既刊18巻
●定価:795~800円(税込)
ネムキ連載中

 今年、連載15年を突破したロングセラーホラー『百鬼夜行抄(ひゃっきやこうしょう)』の主人公、飯嶋律(りつ)。祖父譲りの霊力の持ち主であるその身辺では、不思議な出来事が日常的に起こります。時には自身の生命が危険にさらされるなんてことも。

 そんな彼が住まう、他の人から見たら「お化けが出そう」な自宅は、律にしてみれば、いつだって物の怪でいっぱい。つまり本物のお化け屋敷! たとえば一緒に住んでいる父親は、実はすでに亡くなっていて、その死体には、律の祖父から律を守護するように命じられた式神の青嵐(あおあらし)が宿っているのです。

 つり目で耳が尖った、和服姿の長髪の男性になるときもあれば、天かける龍のような姿に変化することもある青嵐は、他の妖怪をパクッと一口で食べてしまうほどに強大な妖怪。普段は気ままに振る舞っているのですが、律のピンチには必ず駆けつけるという、律儀で有能な護法神の一面も備えています。

 律が5歳のときに亡くなった祖父、飯嶋怜(りょう)は、蝸牛(かぎゅう)というペンネームの怪奇幻想小説家で、異世界をはっきりと見ることができる人物でした。そして、異世界の住人たちと交流していただけではなく、術を用いて彼らをコントロールできる、強い霊能力の持ち主であったとされています。

 飯嶋家の跡取りであり、怪異に囲まれて育った律は、妖魔や死霊が引き起こすトラブルにはすっかり慣れっこ。どんな事件に直面してもさほど動揺しません。なぜならば、こちら側とむこう側は決して理解しあえない別世界であり、自分にできることは少ないということが、もうわかっているから。それは晩年の祖父が幼い律にくりかえし言い聞かせていたことでもあります。律のそうしたクールな視点を通じて、端正な絵で描かれているのが『百鬼夜行抄』。おどろおどろしくて怖いだけではなくて、切なかったり悲しかったり、時にはユーモラスだったりする、独特の作品世界を作り上げています。

 『百鬼夜行抄』は、A5判の単行本が18巻、後発の文庫版が10巻まで発売されていますが、これから買い揃えるのならば、最新作を収録して先に発売される美麗なカラー表紙のA5判がオススメ! だって、文庫版で買いはじめてしまったわたし自身が、もっと読みたい・早く続きが読みたい、しかし途中から単行本版を買うのもなあ、だからと言って単行本版を1巻から買いなおすのもなあ、って、ずっと悩んでいるんですもん......!

『夏目友人帳』(緑川ゆき/白泉社)

夏目友人帳
●緑川ゆき・著
●白泉社
●花とゆめコミックス 既刊8巻
●定価:410~420円(税込)
LaLaLaLa DX連載中

 テレビアニメ版も好評を博した『夏目友人帳』の主人公、夏目貴志(たかし)。早くに両親を亡くしている上、子どもの頃から妖怪の存在をはっきりと見ることができる彼は、周囲から誤解されやすく、つらい思いをしてきました。彼が持つ古びた帳面「友人帳」は若くして亡くなった祖母レイコの遺品。そこに判読不能の奇妙な文字で書かれているのは、生前のレイコが勝負を挑み、打ち負かした妖怪たちから巻き上げた彼らの名前。そうして名前を奪われている者は持ち主の命令には絶対服従、という契約書の束が「友人帳」なのです。

 ある日、招き猫に封印されていた妖怪をたまたま解放してしまった夏目。生前のレイコを知るその妖怪から、自分が受け継いだ「友人帳」の意味を教えられた夏目は、招き猫の姿の妖怪を用心棒に、名前を持ち主の妖怪たちに返すことを決意します。

 この招き猫、通称「ニャンコ先生」が、不気味なかわいらしさで大人気! その正体は上級妖怪である斑(まだら)なのですが、招き猫を寄り代にしているときには、ブサかわいい猫として、夏目以外の妖力を持たない人間の目にも見えます。ところが、そのキュートな外見に反して、長らく生きている斑の本性はと言えば、単なる酒好きのおっさん......!? しかし、経験豊富で博識、体から放つ光で格下の妖怪を追い払うこともできるニャンコ先生は、夏目にとってはいつでも頼もしい存在です。

 親戚の家を転々として育った夏目にとって、最後に自分を引き取ってくれた心優しき藤原夫妻や、転校先の高校で得た気の置けない友人たちはかけがえのない大切なものです。だから妖怪が見えることも友人帳のことも絶対に秘密。しかし、その一方で、ニャンコ先生をはじめとする妖(あやかし)たちとも、自分なりに向き合っていこうとする夏目。人間と妖、ふたつの世界の間で、少しずつ成長していく夏目少年の姿を、あたたかいまなざしで描いているのが、『夏目友人帳』という作品です。

 それでは、また次回!

2009年08月17日