まんが☆天国 TOP > まんがのチカラ >  『弘兼憲史先生』 その6

弘兼憲史先生 その6

<<『弘兼憲史先生』 その5

次世代へのメッセージ

■ まんが家。それは、ものすごく限られた才能の集団

-- これからまんがに親しむこどもたちや、これからのまんが界を担う若手のまんが家さんへメッセージをお願いします。

弘兼:よく「うちのこどもは勉強が苦手だけどまんがは好きで、まんが家になりたがっているが、どうでしょうか」などとおっしゃるお母さん方がいますが、わたしはかならず「それじゃだめですよ!!」っていってます(笑)まんがのもととなるアイデアは、いろいろな知識から生まれるわけです。学校の勉強もそのひとつ。勉強嫌いだからまんが描きになるという考え方は、根本的に間違っている。
自分でいうのもなんですが、まんが家って、ものすごく限られた、特別な才能を持った人たちだと思うんです。やっぱり皆、ある種の天才ですよ。ものすごい競争の中から勝ち上がってきた人ばっかりですからね。そんなに簡単にできる仕事ではありませんし、がむしゃらに努力しても、おいそれとつける職業でもない。
それでも、なるためのなにかヒントがあるとすれば、やはり、それはアイディアです。たとえばどれだけ絵が巧くても、アイデアが面白くて構成がよくなければダメ。逆に、絵は下手でもいい話が書けて、いい構成ができれば、まんが家として成功する可能性は高いです。内容の面白いまんがは、必ず世に出てきます。面白い話を考える力は努力次第でいくらでも伸ばすことができます。そのためには、ありとあらゆることに興味を持って勉強し、知識を増やすことが重要なんだと思います。

■ まんが家にもコミュニケーション能力は重要不可欠

弘兼:まんが家は外で人と会うことも少ないですし、そんなに社会性が要る仕事でもありません。才能さえあればなんとかなるので、無口な人やちょっと変わった人も多いんですが、私の場合、普通のサラリーマンとして勤めていたこともあって、まんが家としてはたぶん社会性があるほうだと思います。
学生時代は、つきあう友達を選ぶことができます。嫌いなやつとつきあう必要はないから、気の合う好きな仲間とだけ一緒にいることができるのです。ところが社会に出ると、嫌な人と隣の席で��緒に仕事をしなければいけなかったり、一番苦手なタイプが上司だったりすることがある。そういったとき社会の中でのヒエラルキーを感じながらも、相手の気持ちを理解しようと努めたり、自分の考えをうまく伝えようとしたりするコミュニケーション能力が、とても重要になってきます。
まんがは実力主義の世界ですから、人づきあいが上手くなくても、極論をすれば、ものすごく面白いまんがが描ければそれでいいのでしょう。けれども、もし同じぐらいの技量のまんが家同士が、同じ誌上で連載を競い合うときは、このコミュニケーション能力が問われることになります。
たとえば私が編集者だったとします。A君、B君の二人のまんが家がいる。A君のほうは非常にがんこで、話をしてもすぐケンカになる。一方で、A君と同じ程度の実力があるB君は、こちらのいうことも素直によく聞いてくれるし、飲みに誘えば朝まで一緒につきあってくれる。そこで、もし編集長に「連載の枠がひとつ空いたからどちらか選べ」といわれたら、迷わずB君を選びますよね。もし仮にA君のほうがB君より実力があったとしても、それでも、A君はつきあうのにうっとうしいから、B君にする、ということもあるでしょう。つまり、この程度のコミュニケーション能力は、どこの世界でも必要。人とのつきあい方が大切なのは、まんが界も例外ではないということなのです。

—— 最後に、弘兼先生にとっての「まんが」とは?

弘兼:私の場合、小説家でも、映画監督でも、とにかく何かを表現する仕事への憧れが強かったんですね。中でも、自分にとって一番表現しやすかった手段が、まんがだったんです。結局、私にとってまんがとは自己表現そのもの、なんです。
だから歳をとって、目が悪くなったり手がうまく動かなくなったりして、完成作品としてのまんがが描けなくなったとしても、ストーリーと構成を一緒に考える絵コンテ原作者という、新しい形の表現者として頑張ってみたいですね。

 

弘兼先生に、長時間にわたってお話をうかがうことができました。
ワインと料理を嬉しそうに語る少年のような表情の一方で、貸与権問題(下記参照)で尽力されたエピソードを語る際の真面目な表情の対比が大変印象的で、人間的な魅力にあふれる方でした。これからも健康に気をつけて、大人が楽しめる、上質なまんがをいつまでも描き続けていただきたいと思います。
ありがとうございました。 (後編おわり)

(取材協力:文化放送)

弘兼憲史ブロフィール

弘兼 憲史(ひろかね けんし) 1947年、山口県生まれ。

早稲田大学法学部卒後、松下電器産業本社に勤務。25歳の時にまんが家を志し、退職。1976年、まんが家デビュー。以降、代表作となる『島耕作シリーズ』『黄昏流星群』など、団塊の世代や現代社会に生きる大人たちの様々な葛藤や恋愛を中心に、多様な人間模様を描き続けている。1985年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、2000年『黄昏流星群』で第4回文化庁メディア芸術祭優秀賞、2003年日本まんが家協会大賞を受賞。 2003年、藤子不二雄A先生らとともに、複数の出版関係団体による貸与権連絡協議会(現・貸与権管理センター)の設立に参加。貸与権問題の解決に貢献している。




コラム:貸与権問題

近年、まんがの描き手と出版社の権利を守ろうという流れがあり、「貸与権」についての法律が改正されました。

現在、日本には300〜500店ほどのレンタル・コミック店があります。「この段階で状況を見直さないと、まんがを買って読むという文化がすたれ、まんが業界が衰退するとともに、コンテンツ産業全体にも影響を及ぼすことになる。それは最終的に国益にまで影響していく」と考えたまんが家有志は、この「貸与権問題」に取り組む活動をはじめました。
その中心人物として活躍され、2004年の国会において「貸与権問題」に関する参考人招致の要請も受けたのが、『21世紀コミック作家の著作権を考える会』の理事でもある弘兼先生です。先生は、各党の朝食会などにも参加し、役人や政治家に「貸与権」の必要性を説き、貸与権問題解決のため約4年に渡って尽力され、その結果、出版物に対する貸与権の適用除外を定めた著作権法附則第4条の2の廃止という、改正は認められたのです。「たとえば韓国ではレンタル・コミック店が乱立した結果、優秀な若い才能がまんが業界から離れ、他業界へ流出する現象が起こっています。日本のコンテンツ産業の核ともいえるまんがが、韓国のような状況になっていくのを、放置してはならないと思います。この現象は決して対岸の火事ではなく、このままでは日本にも必ず飛び火してきます」と弘兼先生は語ります。

現在、コンテンツ貸与承諾料の徴収および違法レンタルの摘出を行う機関「出版物貸与権管理センター(※)」が開設され、貸与権に関する様々な規定が定められ、同センターにて管理されています。

※出版物貸与権管理センターhttp://www.taiyoken.jp/

2006年12月01日