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『萩尾望都先生』 その3

萩尾先生は、デビュー後『ポーの一族』をはじめ『トーマの心臓』、『メッシュ』などのヒットまんがを立て続けに発表し、さらに現在においても第一線で活躍されています。傑作を生み出し続ける先生の"原動力"とはいったい何なのでしょうか。各作品にまつわるエピソードを交えつつ、その"原動力"の正体が明らかになります。

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「妄想」が作品作りの原動力?

――無事、商業誌デビューに成功してから約3年後、ついに出世作『ポーの一族』を描かれるわけですが、デビュー作がかわいらしい内容であったのに対し、『ポーの一族』はかなりシリアス色の強い作品ですよね。これは何か心境の変化があったということなんでしょうか?

『ポーの一族』

萩尾:いえ、そこで初めてシリアスな話を描いたというわけではなく、単にそれまで描いたシリアスな作品がほとんど没になっていただけです(笑)。

当時、私は講談社のなかよしから、小学館の少女コミックに発表の場を移していたんですが、そのときの担当さんが山本順也さんという、ちょっと面白い方だったんですよ。で、その人が、どんな作品でも良いから持ってきなさいというので、当時暖めていた『ポーの一族』『メリーベルと銀のばら』『小鳥の巣』(パーフェクトセレクション『ポーの一族 I』に掲載)のプロットを持って行ったんですね。それぞれ、100枚くらいになる予定の内容で。

そうしたら、山本さんから「おまえはまだ長編を描くのは早い」って言われちゃって。

――100ページって、ベテランの作家さんでも厳しい枚数ですもんね。

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萩尾:そうなんですけど、でも、やっぱり描きたいわけですよ。それで、16ページとか32ページとかの依頼を受けたとき、勝手に『すきとおった銀の髪』や『ポーの村』(パーフェクトセレクション『ポーの一族 I』に掲載)のような、番外編的なものを描いちゃいました(笑)。それで山本さんが折れて、というか呆れて、1つの話を30ページ×3話に分割したものを3本、合計9ヶ月かけてやっていいということになったんです。もう、寄り切り押し倒しって感じで(笑)。

――『ポーの一族』をそこまでして描きたかった理由とは何だったんですか?

萩尾:エドガーのキャラクターをものすごく気に入ってしまって、描きたくて、描きたくてしかたがなかったんですよ。孤独な美少年って良いじゃないですか。

――読者の反応はどうだったんですか? 一般的には単行本化で人気が爆発したと言われていますが。

萩尾:『メリーベルと銀のばら』の最終話がアンケートで2位になったんですよ。ただ、それまでは順位を教えてもらえませんでしたね。たぶんひどかったんだと思います。必ず雑誌の最後に載ってましたし(笑)。

――先生の描きたかったエドガーは読者に気に入ってもらえたんでしょうか?

萩尾:いやー、気に入ってもらえるようになったのはもっと後になってからですね。最初は怖いとか、気持ち悪いとか、冷たいとか、さんざんでしたよ(笑)。私はこの冷たさが良いと思っていたんですけど、やっぱり怖いのか、とか思わされましたね。

――ちなみにエドガーと言うと、最後のシーンでどうなったかは、読者にゆだねられています。これは、あえてそういうふうにしたということですか?

萩尾:描き逃げみたいですよね(笑)。でも、お話がきれいに終わってしまうと、そこで全てが止まってしまう感じがしませんか? 私はなんとなくまだどこかにいるのかもしれないな、っていう終わり方が好きなんですよ。キリアンはどうしているんでしょうとか、エドガーはどうなったんでしょうとか、そういうのを考えているのが好きなんです。だから『ポーの一族』は、ああいう終わり方にさせてもらいました。

――先生としては、エドガーはどうなったと考えているんですか?

萩尾:たぶん、生きてどこかにいると思いますよ。

――おお、やっぱりそうなんですね! ちなみに、終わらせ方といえば、『メッシュ』の最後も素晴らしいですよね。

『メッシュ』

萩尾:あれは叙情的に終わらせたつもりなんですけど、よくよく考えてみると、次の電車で追いかければいい話ですよね。

――先生がそんなこと言わないでくださいよ(笑)。

萩尾:小説の『日本沈没』(小松左京先生)でも、ヒーローとヒロインが最後に別々の場所に行ってしまいますよね。この後、巡り会えるかどうかも分からない感じで終わってしまうんです。2人が、この先どうなったのか、ひたすら想像しませんでしたか?

私は、「どうすれば2人は巡り会えるんだろう」とか「思い出だけで生きていくんだろうか」とか、妄想がどんどん広がっていっちゃうんですよ。そして、それをまた楽しんでいるんですね。私の作品に、ああいう終わり方の作品が多いのは、自分がそういう妄想が好きだから、かもしれません。

――なるほど、それが先生の作品を楽しむコツの1つかもしれませんね。

萩尾:ちなみに『メッシュ』を描いたのは、当時、自分の中に、ものすごく大きな怒りがあって、それをとにかく整理せねばならないと思ったからなんですよ。

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ですので、最初は前後編で終わる短編作品のつもりだったんです。ただ、描き終わってみたらキャラクターがきれいに立ち上がったので、これは続きを描けるだろうということで長くやらせてもらうことになりました。

テーマとしては、“いかに和解し合えない親の元で生きていくか”といったところでしょうか。『トーマの心臓』は、ユーリがいかにしてトーマと和解するかだったんですが、それとは根本的に異なります。最後のシーンで、ほんの少しだけお父さんのことを理解するんですが、だからといって、全てが分かったわけじゃない。それはそんな簡単なことじゃないんですよ。

――なるほど。あのエンディングにはそういう気持ちが込められているんですね。『トーマの心臓』のほうは、どのようにして生まれた作品なんですか?

『トーマの心臓』

萩尾:『トーマの心臓』は、フランス映画『悲しみの天使』(ジャン・ドラノワ監督)を観たのがきっかけですね。これは外国の寄宿舎を舞台にした、ヨーロッパ系のかわいい男の子を主人公にした話なんですが、上級生と下級生が、男の子同士で好き合っちゃうんです。ところが、ちょっとした誤解から下級生の子が上級生に裏切られたと思って、投身自殺してしまうんですよ。映画はそこで上級生が泣き崩れて終わってしまうんですが、私はそこでまた妄想が始まって「この子は、今後どうやって生きていけば良いんだろう」って考えてしまったんですね。

――それを、まんがという形にまとめたのが、『トーマの心臓』ということなんですね?

萩尾:彼(『悲しみの天使』の上級生)が何とか生きていける方法があるはずなので、それを見つける話を描きたくなったんですよ。今、『悲しみの天使』はDVDで売っているので、ぜひ観てみてほしいですね(『寄宿舎 ~悲しみの天使~』というタイトルで発売中)。すんごいかわいらしいですよ!

――そういえば、『ポーの一族』でも、寄宿舎を舞台にしたエピソードがありますよね。やはり、ああいうシチュエーションが「妄想」をかき立てるんですか?

萩尾:寄宿舎って、一種の閉鎖空間じゃないですか。そういうのが好きなんですよ。学校とか、刑務所とか。さすがに刑務所を舞台にした作品は描いていませんが、映画などは刑務所作品だからという理由で観たりしています。最近だと『プリズン・ブレイク』(FOX制作)とかすごく面白かったです。ほかには、若い頃のショーン・ペンもよく刑務所ものに出てましたよね。もちろん、刑務所ものならなんでも良いというわけではなく、あくまで美青年か美少年が出てくるのが前提ですけど。

――……先生は美少年、美青年が好きなんですね。

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萩尾:はい!(笑) この世ならぬものというところに、とても惹かれます。

――「この世ならぬ」といえば、先生の作品は、全体的にそういう空気がありますよね。舞台設定からして「現代」ではないことがとても多い。何か理由がおありなんですか?

『半神 自選短編作品』

萩尾:私、40歳くらいまで、日本を舞台にした作品を描くのがすごく苦手だったんです。たぶん、両親に対する葛藤を解決できていなかったからなんでしょうが、現代の日本を舞台にした話を考えていると、家族関係とか、家族問題とか、どんどん深刻になっちゃうんです。それがイヤで、ずっと海外を舞台にした作品を描いていた面があったと思います。

それが克服できたかな、吹っ切れたかなと思ったのは『イグアナの娘』(パーフェクトセレクション『半神』に収録)を描いた頃(1992年)かな。

――ご両親に対する葛藤というのは、具体的にはどんな背景、理由があったのですか?

萩尾:具体的に何かあったというより、日本の因習というか、「女の子はこうでなきゃ」とか、「社会人はこうでなきゃ」とか、そういう規律や規制に対する反発ですね。父も母もそういう面のある人だったので……。

『イ���アナの娘』以前は、日本を舞台にした話を描こうとすると、反抗的な内容がパッパッと思い浮かんでしまい、それがキャラクターのセリフや行動のあちこちにでてしまっていたんですね。でも、人の文句を読んでも面白くないでしょう? それをちゃんとしたエンターテインメントにすることができなかったんですよ。

――なるほど。そういう理由があったんですね。近年の作品で、急に現代日本を舞台にした作品が増えた理由もよく分かりました。
 次は『11人いる!』について教えてください。これは未来の宇宙を舞台にしたSF作品ですよね。当時、現代日本を舞台にした作品が描けなかったとはいえ、SFというのは、少女まんがとして珍しかったのではないですか?

『11人いる!』

萩尾:いや、私の子供の頃は少女誌にもけっこうSFまんがが載っていたんですよ。それに、私自身、すごくSFが好きだったんです。学生時代、帰り道にあった貸本屋で毎日1冊、SF小説を借りて読んでいましたね。どれもすごく面白くて、SF作家の人はなんでこんな話を思いつくんだろうって思ってました。

『11人いる!』は、その頃に思いついた作品なんですよ。もっとも一番最初に思いついたのはタイトルで、具体的な設定、特に11人のキャラクターについては何も考えていなかったので後が大変だったんですが(笑)。

――『11人いる!』と同じく、『スター・レッド』も、同じくSF作品ですね。なお、パーフェクトセレクション収録の長編作品では、この作品が唯一、女性が主人公となっています。先生の作品としても、女性が主人公というのは珍しいですよね? 何か意図がおありだったんですか?

『スター・レッド』

萩尾:いや、特に理由はないですね。週刊少女コミックに連載するということだったので、女の子にしただけです。むしろ、私の作品として珍しかったのは、先を考えずに始めた作品だったということですね。編集さんが突然やってきて、「3日後に予告を入れてください」とか言われて、あわてて考えた物語だったんですよ(笑)。

――それは意外ですね。そうすると、緻密に張られているようにみえる伏線も……

萩尾:全て、後で拾い集めたものでございます(笑)。ですので、今読み返すと、「荒い」んですよ。でも、先が読めないから勢いはありますよね。

――そういわれてみると、週刊少年まんが的なライブ感みたいなものがありますよね。そういう意味では、男性読者にも読みやすい作品かもしれません。主人公はかわいい女の子だし。

萩尾:そうかもしれませんね(笑)。

――ここまで、パーフェクトセレクション掲載全作品(短編のぞく)についてお話をお伺いしてきたわけですが、この先、先生が描いてみたいテーマみたいなものはおありですか?

萩尾:ありますね。SF系でいくつか、歴史物でいくつか書きたいテーマがあります。歴史物については、イタリア、フランスにちょっと興味のある人がいるんですよ。その人の話をいつか描いてみたいですね。ただ、言って描けなかったら恥ずかしいので詳細は内緒ということにさせてください。

――では、密かに楽しみにさせていただきます(笑)。さて、それでは最後の質問です。先生は小説や絵本などをお書きになっています。また、先生の作品の多くが映画やドラマ、舞台など、まんが以外の分野に提供されています。そんな萩尾先生が考える「まんが」の良いところってなんですか?

萩尾:なんでもできることですね。2次元の画面って、ちょっとシュールな空間だから、本当になんでも、やりたいことができるじゃないですか。また、コマ割も自由自在で、読者の目をいくらでも引きつけられる。表現手法としてとても面白いと思います。

反面、目がぼけてくると、限界を感じますね。そろそろ描くのがきつくなってきました。毎日が老眼と腱鞘炎との戦いですよ。私としては、年金がもらえるまでがんばろうと思っているんですが、60歳からもらえると思っていたら、65歳に伸びちゃって……ちょっと困ってます(笑)。

――じゃあ、先生にまんがを描き続けていただくためには、年金の支給を遅らせていただくのがいいわけですね!

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萩尾:いやいや、それは困ります。はやく年金生活に入りたいんだから(笑)。

萩尾望都プロフィール

萩尾望都(はぎおもと) 1949年、福岡県生まれ

1970年代を中心に活躍を始め、現在の少女まんがスタイルを確立したとされる、通称「24年組」作家の象徴的存在。1969年、なかよしにおいて『ルルとミミ』でデビュー後、1972年、別冊少女コミック誌上で『ポーの一族』を発表。その圧倒的な構成力の高さから、女性だけでなく男性のファンも数多く獲得した。『トーマの心臓』『メッシュ』など、代表作多数。現在も、フラワーズ誌上において新作を継続して発表。


2008年04月21日