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『中村光先生』 その3

モーニング・ツーにて大人気連載中の『聖☆おにいさん』。その冴えたギャグは、ネームの段階では冴え過ぎて一般人の理解を飛び越えてしまうほど! 今回は、そんな作品がいかにして作られるのか、そしてこれからどのように展開していくのかを、お話いただきました。

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『聖☆おにいさん』はこのままずっと“まったり”

――前回までで、中村先生のデビューから『聖☆おにいさん』誕生までのお話をお伺いしました。そこで次は『聖☆おにいさん』連載開始後のお話をお伺いしたいと思います。
 まず、『聖☆おにいさん』初回掲載時のお話を聞かせてください。まったく読者層の違う雑誌に掲載されたわけですが、どんな反応がありましたか?

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中村:反応は全然ありませんでしたね。1話目のころは自分でもあんまり自信が持てませんでした。変なもの描いちゃったかなって……ネガティブな性格なんもんで。

――でも人気はどんどん上がっていくわけですよね。どこかで「イケる!」って手応えを感じたりはしなかったんですか?

中村:いや、本当にネガティブな性格なので、手応えを感じたことはないんですよ。ただ、3話くらい描いたところで、濃いネタの方が喜んでもらえているような印象は受けました。それまでは、キリストやブッダの知識がない人にも読んでもらえるように浅めの内容にしていたんですが、そう思い始めてからは濃いネタを積極的に盛り込むようにしています。それは素直に楽しかったですね。本筋と関係ない背景とかに、小ネタをギュウギュウに詰め込むのが大好きなんですよ(笑)。

――以前からのファンの反応はいかがでしたか? 従来の『荒川アンダーザブリッジ』と比べ、同じギャグまんがとしてもかなり作風が異なる印象を受けるのですが。

中村:好きと言ってくださる方も多いですが、「ストーリー性がないので苦手」と言う方もいますね。『聖☆おにいさん』は純粋な読み切りギャグまんがとして描いていますから。

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前回お話ししたように『荒川アンダーザブリッジ』を描き始めたころは、ストーリーまんがを描きたいという気持ちが強かったんです。でも最近は、ちょっと考え方が変わって、ギャグまんがをこれからも描いていきたいという気持ちになっているんですよ。

あと、やっぱり恋愛描写は苦手だな、と。『荒川アンダーザブリッジ』では恋愛要素を入れてほしいという注文があったりするのですが、正直、ちゃんと描けている自信がないんですよね。少女まんがをあんまり読まないので、どうすれば良いのかもよくわからない。

 だから『聖☆おにいさん』は、これからもこのままだと思いますよ。いきなり聖戦が起きたり、ラブコメになったりってことはないです(笑)。

――このまま2人だけのまったり生活が続くんですね。そのまったり感が『聖☆おにいさん』の魅力だと思うので、私もこのままのお話が続いてほしいと思います。ちなみに、ああいった冴えたギャグはどうやって思いつくんですか? 全部1人で考えているんですか?

中村:基本的には一人でファミレスとかに行って、ヘッドフォンで外部をシャットアウトしてウワーーッっとネームを考えていくタイプですね。

――脳内で組み立てていくような?

中村:「脳」というより「手」ですね。ペンをもってガシガシ描いていると、手が勝手に動いて、考えていなかったような展開が生まれたりするんですよ。ほかのギャグまんが家さんがどうかは知りませんが、私はそんなふうに絵から入っていくことが多いです。

――そうして描き上がったネームを、担当編集さんはどれくらい直すんですか?

担当編集:部分的な修正がほとんどです。中村先生はこういう人なので、やっぱりちょっと普通じゃな��ところがあるんですよ(笑)。そういうところを、普通の人に通じるように直すくらいです。

中村:何ですか、それ!(笑)

担当編集:たとえばこの間、ブッダの質感に関連したギャグで、和菓子の「すあま」をネタにしたものがあったんですが、あれって地域限定なんですよ。編集部内でリサーチすると5人に1人くらいしか知らない。そういうのを指摘して直してもらうって感じですね。ちなみにこのときは「はんぺん」に直してもらいました。

はんぺん 「奈良の大仏」に似ている(本人がモデルなので当然ですね)と言われてダイエットを始めたブッダ。しかしブッダは今のままが良いと思っているイエスは……。

――中村先生としては、こうした編集者の指摘はどう受け止められるんですか?

中村:私は特に自分を客観視できないタイプなので、いろいろ指摘してくれる編集者の存在はありがたいですね。すあまのような一般常識的なものはもちろん、作品が面白いかどうかの意見もすごく参考になります。

――せっかく描き上げたネームを修正するのって、大変じゃないですか?

中村:私は直すのは全然苦痛じゃないので、それは気になりませんね。むしろ、何も言ってもらえないと「どうしようもないほどつまらなかったんじゃないか」って不安になるくらいです。また直してもらえると思うと、逆に好き放題描けるという点もありますね。「こんなふうになっちゃったので、直してください!」って(笑)。

――なるほど、そういう考え方もありますね!
 さて、次に『聖☆おにいさん』のこれからについて教えてください。まずキャラクターについてですが、この先、レギュラーキャラクターを増やすことなどは考えていませんか?

中村:今も時々出ているアナンダなど、ゲストキャラは少しずつ増やしていきたいですね。ただ、レギュラーにはならないんじゃないかな。たまに友達が来たみたいな感じでやっていくと思います。

――そのゲストキャラに『荒川アンダーザブリッジ』のキャラクターが出たりすることは……ありえませんか?

中村:作中ではありませんが、『荒川アンダーザブリッジ』最新刊の帯にブッダがこっそり出てます。あと店頭用のポップでも『荒川アンダーザブリッジ』のキャラと『聖☆おにいさん』のキャラが絡んでますね。それは描いていてちょっと楽しかったんですけど、やっぱり別々の世界なのであまり一緒にはしたくないかな。本編でからむことはないと思います。

――なるほど。ちなみに、『聖☆おにいさん』はどれくらい続けようと考えていらっしゃいますか? 続けようと思えば永遠に続けられる内容だと思うんですが。

中村:やりようによってはいくらでも描けますよね(笑)。

――ちょっと気の早い話ですが、その後に描いてみたいテーマやモチーフはありますか?

中村:今は、この作品と同じように、あまり事件が起こらないようなまんがが良いかなと考えています。ただ、さっきの話と矛盾しますが、時々、ものすごくストーリーまんがを描きたくなることがあるんですよ。

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ですので、単発ギャグの『中村工房』から、ストーリー性もある『荒川アンダーザブリッジ』に行って、その後、『聖☆おにいさん』で純粋なギャグにもどったように、またストーリー性のあるまんがを描く可能性もありますね。

あー、でも恋愛モノは絶対にないかな。こればっかりはちょっと描けないですね。苦手です(笑)。

中村光プロフィール

中村光(なかむらひかる) 1984年、静岡県生まれ

2001年、月刊ガンガンWINGにて17歳で商業誌デビュー。翌年同誌においてショートギャグ連載『中村工房』をスタート。2004年からは掲載誌をヤングガンガンに移し、荒川土手に住まう不思議な住人たちの奇妙な生活を描く『荒川アンダーザブリッジ』を連載開始。2006年からはキリストとブッダを主人公にした最聖コメディ『聖☆おにいさん』(セイント☆おにいさん)をモーニング増刊『モーニング・ツー』で連載開始。新鋭ギャグまんが家として急激に注目を集めつつある。


2008年05月26日