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『柴田ヨクサル先生』 その4

駒を描いているだけでも楽しい。それほどまでに柴田先生が愛する将棋に今、危機が迫っている! 将棋人口の減少や第三の勢力の台頭…。そんな中、子どもの将棋人口増加のために、『ハチワンダイバー』で注意している点があるとか。それは一体何なのか…? 先生の将棋への思いをたっぷりとお届けします。

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『ハチワンダイバー』でもっと多くの人に将棋を指してもらいたい

――前回、連載直後に本物の真剣師からお手紙をいただいたという話をお聞きしましたが、『ハチワンダイバー』執筆にあたって、実際に、真剣師の方に取材などはされたんでしょうか?

柴田:真剣師の方にはお会いしていないんですよ。やっぱりほら……いけないことじゃないですか(笑)。だから、取材といえば、連載前に新宿の某所まで指しに行ったくらいです。いまじゃ、“ああいうこと”をしているのは新宿ぐらいじゃないんですかね。

――そこには、どういう方が集まっているんですか?

柴田:やっぱり年配の方が多いですね。2人のアシスタントと行ったんですけど、僕らが一番若いくらいでしたよ。そこで独特のやさぐれた雰囲気を体験してきました。

――アシスタントさんも将棋を指されるんですか?

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柴田:そうですね。2人とも指しますね。僕が「やれ!やれ!」って強く勧めた面もあるんですけど。仕事中は、ずっと「囲碁将棋チャンネル」つけっぱなしですしですし、将棋漬けですよ(笑)。

――先生はホントに将棋がお好きなんですね。

柴田:見ているだけで楽しいんですよ。小学生のころ、生まれて初めて将棋の駒を見たとき、変な話なんですが、すごく美しいなって思ってしまったんです。形といい、黒光りする漆の文字といい……かっこいいじゃないですか。

ちょっと視点がおかしいんですよ。マニアックというか、ヘンタイっぽいですよね。だから、駒を描いているだけでも楽しいですよ。「ああ、この角度から描くとかっこいいな」とか(笑)。

……ところで、あなたは将棋指さないんですか?

――実は最近、『ハチワンダイバー』の影響でやり始めたんですよ。小学生の時に教えてもらったのでルールは知っていたんですね。ただ、すごく久しぶりにやったものですから、とんでもないヘボ将棋で、2~3手先を読むくらいで大混乱ですね。

柴田:いや、最初はもう、ぜんぜん3手も読めれば充分ですよ。これからやればやるほど面白くなるんで、ぜひ続けてください。脳のトレーニングにもなりますしね。脳トレのゲームをやるよりずっと良いですよ! すごい元気ですからね、将棋やってるおじいさんとか。

――最近の若い人は、将棋のルールも知らないことが多いですよね。

柴田:どうしてもテレビゲームの方に行っちゃいますからね。僕が子どものころも、『スーパーマリオ』が出たとき、一気に将棋人口が減りました(笑)。テレビゲームの登場で、半分になったとまで言われているんですよ。僕はゲームよりも、絶対に将棋の方が面白いと思うんですけどね。

――『ハチワンダイバー』のおかげで、将棋に興味を持った人は増えていると思いますよ。

柴田:本当にそうなるとうれしいですね。特に、子どもですよ。子どもにもっと将棋を指してほしい。だから、実は『ハチワンダイバー』では、エッチなシーンを控えめにしているんですよ。

――ええ、そうなんですか!?

柴田:僕は、ヒロインを最後の最後で裸にするのが大好きなんですけど、今回はそれを封印しようかと思っています。お子様にも安心して楽しんでいただける『ハチワンダイバー』ということで(笑)。

いや、この先どうなるかは分かりませんけどね。やっぱり脱がせたくなっちゃうかもしれない(笑)。やっぱり大きいオッパイは良いですよ。本当はおしりの方が好きなんですけど。

――えー……話があやしい方向に行ってしまいそうなので(笑)、次の質問にうつらせていただきます。『ハチワンダイバー』を読んで将棋に興味を持った人に、柴田先生がオススメする“次に読むべき作品”を教えてください。

柴田:『聖(さとし)の青春』と『将棋の子』ですね。ともに大崎善生先生のノンフィクション小説です。

特に『聖の青春』がね、村山聖っていう……もう長くは生きられないって宣告された実在の棋士が、どうしても名人になりたいって、それこそ死ぬ気で戦う話なんですよ。これが、もう痛々しくて……これを読まずして何を読むって感じですよ!!

――『聖の青春』も『将棋の子』も、まんが化されていますよね(『聖-天才・羽生が恐れた男』山本おさむ先生、『将棋の子』菊地昭夫先生)。
ところでまんがと言えば、古巣ヤングアニマルで連載中の『3月のライオン』(羽海野チカ先生)はお読みになっていますよね。やっぱりライバルと考えておいでなんですか?

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柴田:もちろん読んでます。ただ、「ライバル」というより「同志」ですね。『ハチワンダイバー』や『3月のライオン』など、将棋を扱ったまんががもっと増えてほしいと思っているんですよ。「将棋」という文字が、できるだけ多くのメディアに出てほしい。

いま、将棋業界は多くの危機にさらされているんです。人気も低迷していて、先日、2誌ある専門誌の片方が休刊になってしまいました。僕らの作品によって、将棋人気が少しでも回復するのであれば、本当にうれしく思います。

本当に皆さん、将棋を指してみてください。今ならネットで簡単に相手も探せますし、絶対に損はさせませんよ!!

――ここまで普及に助力されていると、将棋業界にとっても頼もしい存在ですよね。感謝状が贈られてきたりしてもバチは当たらないのでは?(笑)

柴田:いやいや、そんな(笑)。でも、将棋業界は、すごく応援してくれているんですよ。それがとてもうれしいですね。『ハチワンダイバー』は真剣師っていう違法な存在が主人公なので、どちらかというと怒られると思っていましたから。

――「プロ棋士をぶっ倒せ!!」的な話ですもんね。実際、真剣師が、現役プロ棋士を破るというシーンもありました。

柴田:でも僕にとってプロ棋士は「神」なんです。だから、プロに戦いを挑む真剣師に対して「なんてこというんだ!」とか「ふざけんな!」って怒りながら描いてますよ(笑)。プロ棋士が負けちゃった時なんて、すごく悲痛な気持ちになりましたし。

3月のライオン

プロは本当は圧倒的に強いんですよ。一昔前はアマチュアなんかでは全然刃が立たなかったほどで。ただ、最近はアマチュアも強くなってきましたね。というのも、ギリギリでプロになれなかった元奨励会の人たちが、ある時期からアマチュアの棋戦にでるようになって、全体のレベルが跳ね上がったんです。

――現実世界も『ハチワンダイバー』のようになってきているんですね。

柴田:そうです。それでアマチュアの大会でタイトルを獲ると、プロも参加する「竜王戦」という大会の予選に出る権利がもらえるんですよ。この「竜王戦」のすごいところが、巨大なトーナメントで「一番強いヤツを決めようよ!」ってところ。「名人戦」は最短でも5年かかるんですが、竜王戦なら1年でトップに立てる。今の渡辺竜王は21歳でタイトルを獲得して、今もまだ竜王(史上初の四連覇)なんですが、そういうことが起こりえるんですね。若手やアマチュアでもベテランのプロに勝つチャンスが与えられている。

――巨大トーナメントとか、まるっきり少年ジャンプの世界じゃないですか(笑)。

柴田:プロがアマチュアに負けることも、実際に起こっていますしね。あと、ジャンプ的というと、もう1つ、第三の勢力ってのが台頭してきているんです。

――「第三の勢力」ですか? それは燃える展開ですね!

柴田:それがコンピュータ。このあいだ、トップクラスのアマチュア棋士2人に勝っちゃったんですよ。アマチュアのトップだと、プロ四段くらいの実力はあるんですよ。それがコンピュータに負けてしまった。ショックでしたね……。ついにそういう時代がやってきたのだなと思わされました。

ソフトを作った人たちが、「もう、あと5年もあればプロのA級棋士にも勝ってみせる」とか豪語しているんです。実際、詰みがある形なら、コンピュータは強いんですよ。プロでも分からないような、三十何手詰めとかでも解いちゃいますから怖いですね。

――笑っていられない勢力ですね。

柴田:笑っていられませんね。だから今じゃ、プロはコンピュータと指しちゃだめだってことになっています。万が一を防ぎたいということだと思うんですが。

――でも、そんな状況においても、プロ棋士は先生にとっての「神」なんですね?

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柴田:もう本当に「神」ですよ。菅田がプロ棋士と戦うのはまだまだ先の予定ですが、今の彼では勝てません。まだまだです。そこに向けて、僕も菅田も力を貯めている段階ですね。この先の展開に期待していてください。

柴田ヨクサルプロフィール

柴田ヨクサル(しばたよくさる) 1972年、北海道生まれ

1992年、ヤングアニマルにて『谷仮面』でデビュー。学園ギャグまんがの主人公がなぜか仮面をかぶっているという独特の設定が話題となった。その後同誌で格闘まんが『エアマスター』を約10年にわたり長期連載し、テレビアニメ化もされた。現在は活動の場ををヤ���グジャンプにうつし、将棋まんが『ハチワンダイバー』を連載中。魅力的なキャラクターやスピード感のあるテンポの良い展開が、将棋を知らない層からも支持を集めている。


2008年08月04日