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『石川雅之先生』 その2

紆余曲折を経て始まった『週刊石川雅之』の連載。そして、さらなる紆余曲折を経て始まる『もやしもん』の連載。今回は、「非常にキツかった」という『週刊石川雅之』の連載裏話から、膨大な取材を行ったという『もやしもん』の誕生秘話までをお送りします。

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『もやしもん』誕生秘話

――前回に引き続き、『週刊石川雅之』についてお話を聞かせてください。『週刊石川雅之』は、全11話のオムニバス形式作品ですが、こういう形になったのはどうしてなんですか?

週刊石川雅之

石川:当時のモーニング編集長が自分の作品を気に入ってくれたのがきっかけらしいんですが…。そのあたりは当時から担当してくださっていた編集者の松下さんの方が詳しいと思います。

(『もやしもん』担当編集者の松下さん登場)

松下:当時の編集長が「やる気のあるヤツは拒まず」というタイプであったことが何より大きかったですね。やる気さえあれば新人でもOKという人だったんですよ。

その上で、当時のモーニングが長期連載ばかりになってしまっていて、読者的にも切れ味の良い読み切り作品が求められていたという事情もありました。

――当時のモーニングというと、『ジパング』(かわぐちかいじ先生)や『島耕作シリーズ』(弘兼憲史先生)など、確かに大物連載が目白押しという感じでしたね。

松下:そんな中で、隙間を狙ったのが『週刊石川雅之』なんですよ。11本の短期集中連載になったのは、経験の浅い新人だから「連載」はムリだろうけど、「連作」ならできるだろうから、とりあえずそこからやってみようということだったそうです。

――準備期間はどれくらいあったんですか?

石川:ぜんぜんなかったんですよ。第1回目が掲載されて、その3ヶ月後には第2回目が載って、その10週間後には終わってないといけない。それまでずっとダラダラやってきたので、完全に未知の領域ですよ。もう、何もかもが初めて。

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第1回目が載った時には、松下さんから「始まっちゃったぞ、さぁ逃げろ!」って、脅かされました(笑)そして、実際すごくキツかった。今だから言ってしまうと、後半の方の話なんて、トイレの中で、ドアの向こうのテレビから聞こえてきた一言で作ったとか、そんなのばかりなんですよ。

ただ、これで一気に訓練されたという面はあったと思いますね。貴重な経験でした。

――読者からしてみると、どれも完成度の高い素晴らしい作品だと感じられたんですが、実際は大変だったんですね。読者からの反応はいかがでしたか?

石川:いや、全然ですよ。単行本も全然売れませんでしたし。

――ええ? それはすごく意外です。

松下:詳しい数字は覚えていないんですけど、刷ったうちの半分以上が戻って来ちゃって、怒られたことは覚えています(笑)。『もやしもん』が連載されてから、ちょっとずつ売れ始めて、重版もかかりましたけど、それまでは全然だったんですよ。ファンレターも来てなかったはず。

――でも、この作品に惹かれた人は多いと思うんですよね。映像化もされましたが(第6話『WILD BOYS BLUES』が、大岡俊彦監督によりドラマ化)、どういった経緯だったんですか?

石川:僕のところにメールが来て、ドラマ化していい?って聞かれたので、いいよと返した。それだけです。だから特に原作者として映像化に参加したということではないです。監督さんに会ってすらいない(笑)。その後、また同じ監督さんから『彼女の告白』(第1話)を映像化したいというお話をいただいたんですが、それも、自由にやってくださいって感じで、僕は全く関わっていないです。

――そうだったんですね。ところで、『週���石川雅之』連載終了後、しばらく作品を見かけなくなりましたけれども……。

石川:描いてはいたんですよ。そのころにはアルバイトも辞めて、まんが家一本に絞って真面目にやっていました。ただ、ずっとボツが続いていただけで(笑)。あと、担当の松下さんがモーニングの編集部から、新創刊雑誌の部署に異動になってしまったことも大きかったのかもしれませんね。

――その新雑誌とは、イブニングのことですよね。

石川:そうですね。僕もイブニングで一緒にやらせてほしいと申し出て、移ることになりました。ただ、松下さんも創刊時はすごく忙しかったので、僕ばかりにかまってもいられず、時間ばかりが過ぎていくという感じになってしまって……。

――そこから『もやしもん』がどのように生まれたのかを教えてください。

石川:イブニング側から提示された連載企画案の中に、「農大物語」というのがあったんです。企画案といっても「農大を舞台にしたお話」くらいの内容だったんですけど。

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実は僕の実家が、大阪府立大学の農学部の近くにあって、何となく農大が身近なものだったんですね。聞けば、松下さんも自宅が東京農大の近くで……じゃあ、ちょっと見に行ってみようか、って話になったんですよ。

――どこかの農大に「農大を舞台にしたまんがを描きたいので取材させてください」という形で申し込んだんですか?

石川:いや、大学の周りをうろついたり、学生さんを捕まえて話を聞いたりとか、そんな感じですね。父兄のふりして、ちょっと中に入ってみたり(笑)。実際に大学に正式な形で取材したのは、2巻が発売されたころくらいじゃないかな。

――え? じゃあ、1巻冒頭に描かれている大学遠景やキャンパスの様子などは、完全に想像の産物なんですか?

石川:もし資料があって、それを丸写しにしたのなら、どこの大学がモデルなのかをハッキリ言います。『もやしもん』の舞台は架空の農大ですから、全部自分で考えていますよ。もちろん「農大の中に慰霊碑がある」とか、細かい部分のリアリティをあげるために、参考にしている点はありますけどね。

――実際の資料を元にしたり、専門家のアドバイスを受けて描いているわけではない、と。

石川:そうですね。そもそも大学のリアルな話も、先生達に聞くより、学生さんに聞いた方が面白いんですよ。先生に話を聞くと、どうしても「農大ではこんなことを教えています」みたいな内容になってしまいますけど、実際の学生は大学の面白かったところを振り返ったとき、「あの授業が面白かった」なんて話さないでしょう? 僕が描きたかったのは生徒の話だったので、そちらを優先しました。

――何人くらいの学生さんに話を聞いたんですか?

石川:いっぱい、とにかくいっぱいですよ。数なんて覚えてないくらいたくさんです。学生さんだけじゃなく、OBとか、いろいろな人に話を聞きました。大学の近くの飲み屋さんに行って、そこに来る子たちに片っ端から声をかけたりとか。

調べもせず想像だけで描くのは嫌いなんですよ。だから、リアルを教えてくれそうな人にとにかく話を聞きましたね。

――『もやしもん』を初めて読んだとき、あまりに描写がしっかりしていたので、石川先生は農大の出身なのかと思ったんですが、そういうことではなかったんですね。あれはしっかりとした取材のたまものだと。

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石川:まんが家は、みなさんそういうふうに作品を作っていると思いますよ。たとえば、しげの秀一先生(『頭文字〈イニシャル〉D』など)が、まんがを描くために、実際に毎週峠を攻めているわけじゃないでしょう? きちんと取材をして、それをふくらませてまんがにしているはず。それと一緒ですよ。

11月7日 新増刊誌『good!アフタヌーン』登場!!

モーニングから始まり、アフタヌーン、イブニングと拡大してきた講談社の青年コミック誌に新たな一冊が加わります。その名も『good!アフタヌーン』。すでに各所で大々的に告知が始まっていますから、皆さんはもうご存じですよね?

石川先生の新作『純潔のマリア』を筆頭に、全20作品=650ページという超豪華ラインナップが早くも話題に。その魅惑の作品群については公式ウェブサイトを参照のこと。「え? あの先生が?」と驚愕すること請け合いですよ!!

まんがファンならば興奮せずにはいられない、今年最大のビッグ&ニューウェーブ。 発売日は11月7日(金)。以後、隔月刊で定期刊行予定です!!

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上野の森でオリゼーたちに会える?
「菌類のふしぎ -きのことカビと仲間たち」開催中!!

現在、東京は上野公園の国立科学博物館において、菌類にスポットを当てた『もやしもん』全面協力の展覧会が実施中です。日本初公開となる太古のきのこや光るきのこなど、500点以上の標本や資料が大集合!! もちろん「もやしもん」キャラが、“リアルもやしもん”ワールドをナビゲートしてくれますよ。

開催期間は2008年10月11日から2009年1月12日まで。
「もやしもん」を通じて菌に興味をもった皆さん! これは行かねば!!

>>公式サイトはこちらから

石川雅之プロフィール

石川雅之(いしかわまさゆき) 1974年、大阪府生まれ

1997年、別冊ヤングマガジン掲載『日本政府直轄機動戦隊コームインV』でデビュー。1999年、『神の棲む山』でちばてつや賞準入選。2002年『週刊石川雅之』連載などを経て、2004年『もやしもん』イブニング誌上にて連載開始。農大という舞台や、菌が見える主人公などといったユニークな設定によって一躍人気作家に。極度にデフォルメされた「菌」のキャラクターは多くの女性ファンも獲得した(2007年にはアニメ化も実現)。2008年11月7日発売の新増刊誌『good!アフタヌーン』にて新作『純潔のマリア』を連載開始。


「まんがのチカラ」次回予告
菌に関するたくさんの豆知識、単行本の個性的な欄外アオリ、他誌・他作品への出張出演と、話題豊富な『もやしもん』。そんな『もやしもん』を制作する上での、石川先生の取材術、欄外アオリを書く担当編集者の遊び心、講談社の懐の深さなど裏話を次回大公開。公開予定は2008年10月24日(金)。お楽しみに!

2008年10月20日