まんが☆天国 TOP > まんがのチカラ >  『青木琴美先生』 その2

『青木琴美先生』 その2

前回は『僕の初恋をキミに捧ぐ』の映画についてお話を伺いましたが、ファンとしては新作も気になるところ。着々と準備を進めていらっしゃるという新作の舞台はなんと芸能界! 果たして、どんなお話になるのでしょうか?

<<『青木琴美先生』 その1

『青木琴美先生』 その3>>

新作の舞台はキラキラの芸能界?

――『僕の初恋をキミに捧ぐ』は『僕は妹に恋をする』のスピンオフとしてスタートしましたが、新作はまったく違う作品になると伺っています。どのような内容になるのでしょうか?

青木:芸能界を舞台にした作品なんですが、はじめに構想していたものって、かなりダークでシリアスなものだったんです。才能のある人、ない人とか。というのも、実は私自身、まんがを描いていて、自分では才能がないと思う瞬間が多いんですよ。才能あるな、と思う人と一緒に話したり、仕事をしたりすると、私とその人の差が歴然としているんです。で、それをその人に伝えると、そんなことあるわけねーだろ、って言われるんですけど、私としてはすごくうらやましいと思ったり、あーゆーふうになれたらいいな、と思うし、劣等感を持ったり。無いものねだりをしてしまう。そういうことを、芸能界という華やかな世界を舞台に描こうかな、と思っていたんです。それでサウンドプロデューサーのIKOMANさんにお会いしてお話を聞いたりしていたんですが、そのうちに、私が最初に考えていたものより、もっと明るく面白く、メリハリのきいたものを作れそうだなと思うようになったんですよ。

――サウンドプロデューサーに取材されているということは、音楽も関係してくるのでしょうか?

青木:そうですね。

――ということは、主人公がミュージシャンだったりとか...?

aoki0003

青木:実は、最初に新連載の予告を掲載するときに、男の子は超売れっ子ミュージシャンって設定にしようと思ったら、自分ですごく恥ずかしくなってしまって......。自分が描く男の子がステージに上がって、よくミュージシャンがステージで言うような、かっこいいけいど、普通なら言わないようなすごいコトを言って、ファンの子たちに「きゃーっ!」って返されてニヤってしたりするのを想像したら、すごい恥ずかしーーい!って思っちゃったんですよ(笑)。それに私は自分の絵にもコンプレックスがあって、ちょっとクセが強かったりとか、絶対キメたい場面でハズしがちだったりとかがあったりするんです。それなのに、売れっ子ミュージシャンだとキメキメで描かなくちゃいけない...という思いこみに一時囚われてしまて...。自分が描くカッコイイアーティストってなんだそれ、って失笑しちゃいました(笑)。それで設定を変えて、男の子は、プロデューサーで、20代。女の子は、幼なじみ達とバンド活動をしている16歳。という2人を主人公にしようと今は考えています。

――キメキメの男の子(笑)は何回か描かれたんですか?

青木:描いたんですけど、「恥ずかしい」、「なんか寒い」って、思ちゃって。それで、その時は私自身がバンドにハマったことがないからいけないのかな、とか、悩んでしまったんです。でも、そもそも自分が恥ずかしいと思うものを、ムリヤリ描く意味があるのか?って考えるようになってきたんですね。例えば『僕妹』は近親相姦という危ない設定だったんですけれど、恥ずかしくはなくて、本当に楽しんで描けたんですよね。それを思い出して、恥ずかしいと思いながら描くのは間違っている、ということに気が付いて。じゃ、どういう立場の人なら自分が本当に楽しんで描けるのかな、と考えたら、表舞台のミュージシャンではなくて、裏方のプロデューサーだったんですね。なおかつ、そのキャラクターが表舞台に出るのが好きじゃない性格なら、もっといいだろうと。

――なるほど。でもそんなに悩まれたのに、芸能界を舞台にした理由はなんだったんですか?

aoki0004

青木:キラキラした芸能界ものって「sho-comi」の王道だと思うんです。それを一度手がけてみたかったんですよね。でも、Sho-Comi王道の芸能界ものっていうと、ファンに対してカッコよくアピールする男の子とか、お洒落な女の子が出てくるのが定番なんですけど、それは私より上手く描ける作家さんは他にもたくさんいらっしゃるので、正直少し迷いました。ただ自分が読者だったとき、実は芸能界もののまんがが大好きだったんですよ(笑)。キラキラしていて、誰からも好かれているアイドルの彼が自分だけを想ってくれている、という優越感。私自身がすごく楽しませてもらっていたので、やっぱり挑戦してみたい、と思ったんです。でもキラキラした芸能界を描くのは、自分には向いてないので、夢は夢のままにしておいて、とか考えたりしたんですが、そういうキラキラしたものではない、私にしか描けない今までのSho-Comiテイストとは違う芸能界ものもあるのではないか、と思ようになって、挑戦してみることにしたんです。

――私も先生の描かれる芸能界ものを是非読んでみたいです! ところで、子どもの頃、夢中になった、芸能界を舞台にしたまんがは何だったんですか?

青木:北川みゆき先生の『亜未!ノンストップ』ですね。夢いっぱいの内容で、大好きだったんです。北川先生が描くキャラクターってとてもかわいいんですよ。

――普通の女の子が、トップアイドルになっていく正に夢いっぱいのお話ですよね。そういえば、『亜未!ノンストップ』の主人公・亜未には天性の才能があるという設定でしたが、先ほど先生のお話の中にも才能の話がありましたね。先生から見て、この人は才能があるという方はいらっしゃいますか?

青木:天才だな、と思うのは、しがの夷織さん(『ガ・マ・ンできない』など)なんですけど。彼女はすごく頭が柔らかくて、何というか跳躍力みたいなものがあるんです。例えばネームにしても、彼女の場合、3時間くらいで、わーっと出来できちゃう。そうして出来たものがすごく突き抜けてて、面白いんです。ぶっとんでるというか...。一度「どうやってネームを作ってるの?」って聞いたことがあるんですけど、そしたら「頭で考えてない」って......この人、天才だ、って思いましたね。彼女は天才な分、乗ってる時とそうでない時の差が激しいんですけど。親友でありライバルなんではっきりいいます(笑)! キレてる時の彼女の作品は、本当に凄いです。

aoki0005

私の場合、本当にひとコマひとコマ、緊張しながらこれは必要か、そうでないかを考えながら、じっくり練って、積み重ねて、やっと最後までたどり着ける、っていうタイプなんですね。すごく頭が固いので、一稿目は割と理路整然としてるというか...。なんか変にマジメに作っちゃうんですよ。でも、論理的に組み立てられた話って誰でも思いつくというか...、整合性をつけるって、才能ではなく論理じゃないですか。そんなんじゃ駄目だと思って、どこか一カ所でも、跳躍力のある発想が欲しいといつも七転八倒するハメになるんです。それで、頭の中である程度、絵やストーリーの展開ができてても、いざ紙の上に落とすときになると、またいろいろ考えるタイプなので、ネーム1枚に1時間はかかってしまうんです。...いや、ちょっといい格好しました。もっとかかります(苦笑)。

――なるほど。でも逆に言うと、ネームをすごく緻密に作っていらっしゃるということですよね。『僕妹』などを読むと、作品への思い入れが伝わってくるようです。

青木:あの作品は初掲載が2003年なんですが、もう、自分が描いたものじゃないみたいなんですよね~。今読んでみると、私、若いなぁ~って(笑)。でも、すごく楽しく描いているのが、自分にもわかるんですよ。そういう作家のテンションって、必ず読者に伝わると思うんです。具体的にあのコマがどう、という反応があるわけじゃないですけど。自分がこだわったりがんばったりしたぶん、読者が受け止めてくれると信じているので、それを裏切りたくないと思うし、長く続けていくためには、自分のまんががきちんとしていないといけないな、と思います。コツコツとやらなくちゃ、と。

――取材もされているというお話でしたね。取材によって芸能界、音楽業界に対する認識は変わりましたか?

青木:これまでのSho-Comiの芸能界ものって、ひょんなことから歌手になる、というパターンが多かったと思うんですけれど、取材をしてみると、やはり歌手になる人は「やる気」と「なる気」があって、努力していて...「ひょんなことからなる」なんてことは絶対にありえない、と編集さんと話し合ったりしました。

「ひょんなことからなる」という発想自体は、すごくぶっとんでて、そこが夢いっぱいで、そういう話はそういう話でとてもいいと思うんですけどね。でも、なにせ頭が固いので(笑)、私はそういう話は描けないなと思ったんですよ。

あと取材して思ったのは、当たり前なんですけど、何かひとつのことに一生懸命取り組んでいる人って、どこの世界でも同じなんだな、と。それは、まんがの世界も一緒なんですよ。がんばっている人が感じる気持ちとか、何が嬉しいかとか、どんなことに傷つくかとか、すごくリンクしていているんです。ですから、芸能界ものとはいえ、物語の中のキャラクターの感情というのは、私が今まで取り組んだまんがの世界で感じた気持ちとかが、きちんと通用するのではないか、と思っています。だから怖いけれど、楽しんで新作を描けるんじゃないかなと思っています。

――新作も丁寧なラブストーリーが期待できますね!

aoki0006

青木:そうですね。プロデューサーの男の子と、バンド活動をしている女の子、この2人の恋愛が主軸になるんですが、「この関係が周りにばれちゃ大変」という展開は考えていないんです。プロデューサーが、プロデュースを手がける相手を好きになるってことは、けっこうシビアなんじゃないかと思うんですよね。相手の個性を尊重しようとしても、自分が強く出てしまったり、とか。何を与えて、何を失うのか。葛藤があると思うんです。その辺りのギリギリな感じを上手く描けるといいな、と思います。

青木琴美プロフィール

青木琴美(あおきことみ) 1980年、愛媛県生まれ

1998年『99のナ・ミ・ダ』(少女コミック(現:Sho-Comi)11月号増刊)でデビュー。嵐・松本潤主演、ヒロイン・榮倉奈々で映画化された『僕は妹に恋をする』などヒット作は多数、著作発行累計は、1500万部を超える。『僕の初恋をキミに捧ぐ』で、第53回小学館漫画賞受賞。同作は、2009年井上真央主演で、映画化が控えている。現在、新連載『カノジョは嘘を愛しすぎてる』を準備中。


「まんがのチカラ」次回予告
青木先生の作品といえば、誌面から息使いさえ聞こえてくるような、生き生きとしたキャラクターの描写が印象的です。次回は、青木先生がまんが家を目指したきっかけや少女時代に親しんだ作品、またデビュー前後のエピソードなどについてお伺いします。次回は2009年1月19日(月)公開予定。お見逃し無く!

2009年01月13日