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『青木琴美先生』 その4

第3回では初投稿から「Sho-Comi」デビュー前後まで、青木先生の順風満帆なまんが家人生のスタートについて伺いました。最終回ではその後の作品づくりと、大ヒット作となった『僕は妹に恋をする』や『僕の初恋をキミに捧ぐ』などについて伺いました。

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何かが変わる予感。『僕妹』誕生秘話

――前回はデビュー前後までのお話を伺いました。まんが家としては、とても好調な滑り出しで、作品づくりも楽しく進んだのではないですか?

青木:でも2本目の連載で......大コケしたんです(苦笑)。『21世紀のエンゼル』という作品で、保育士の男の子とそのお手伝いをする女子高生の物語でした。4回連載としてスタートしたんですが、もう1話目からおもしろくないのが、自分でもわかっていました。1話目が校了した時点で、この作品はコミックスを出さないことになった、ということを編集さんから聞いて、すごく落ち込みましたね。それ以降の作品は、コメディだったりハートフルだったり、いろいろでした。

――試行錯誤してらっしゃったんですね。

イジワルしないで

青木:そうですね、悩んでました。その次の『イジワルしないで』は、私にとってはまさにコメディ。もともと『らんま1/2』が好きというのもあって、私、本当にコメディが大好きなんですよ。それを5~6回連載したんですが、途中で当時の担当さんからもう少し連載を延長しよう、と言われてすごく嬉しくて、2話くらい描いたら、また延長しようと言われて......そのときに実は、これ以上続けるかどうか、迷ったんです。

いま考えると私の力不足が原因なんですけど、その作品では楽しく読ませるところのテンションと、真剣に恋について悩む部分のバランスが悪かったのか、彼を想って彼女が切ない気持ちになっている場面のネームを自分で作っているときに、もっと描きたいのにページが足りない、もっと掘り下げたいのに手が届かないという感覚がすごくあったんです。コメディ部分はとても楽しく描いているのに、うまく読者に伝え切れていない、という気持ちが強くなって、このまま続けることに迷いがあった。それで当時の担当さんに思いきって、これ以上、面白くなる気がしないので続けるのはやめたほうがいい、って言ったんです。でも立ち去る編集さんの後ろ姿を見て、「ちょっと待って!」って呼び止めて、確か2時間くらい、続けるべきかやめるべきかという話をしたんですね。そうしたら、その方が、「僕は青木さんのもっと違う面がみてみたい。ハッキリ言うけど、コメディでは、しがのさんにかなわないよ」って言ってくださったんです。しがの夷織先生は友人なんですが、しがの先生の作品ってテンションは高いし、キャラクターもかわいいし、「Sho-Comi」でも人気トップだったんですね。で、その瞬間、「やめる!絶対やめる!」って、パキっと見切りつけてやめました。確かにしがの先生にかなうはずないし、あの時点で「やめる」って言った私、偉いな......って今ちょっと思い出したりして(笑)。

――コメディをやめて、青木先生らしい作品づくりに本格的に取り組まれたわけですね。

朝も、昼も、夜も。

青木:次の作品『朝も、昼も、夜も。』では、主人公の女の子が男性恐怖症という設定を考えました。なのに、男の子に恋をするというストーリーで、ちょっと矛盾があったんですね。打ち合わせやネーム作りを重ねるうちに、なぜ彼女が男性恐怖症なのか、というところをしっかり掘り下げないとダメだ、と気付いて、その点を意識して作っていったんです。そうしたら、初めて読者アンケートで1位をとれた。自分で描いていても、キャラクターがしっかり掴めている感覚があったんです。それまではキャラクターの表面をなぞっている感じだったのが、この作品では登場人物それぞれにちゃんと骨があって肉が付いていて、体温がある、という感じがしました。そういうものって作品にも表れて、いい結果につながるんだな、ということをすごく実感できたんです。まんがを描くのがすごく楽しい!と思うようになりました。

――確かな手応えを感じた初めての作品となったわけですね。そして、いよ���よ『僕は妹に恋をする』を連載されるわけですが、この作品はどのような経緯で生み出されたのですか?

僕は妹に恋をする

青木:実はずっと近親相姦モノを描きたかったんです。私が中学生のとき、岡本健一さんと田中美佐子さんの主演で、『禁断の果実』というドラマが放映されていたんですね。けっこうダークな内容で、クスリ漬けになったりして、最後はふたりの死体が手をつないだまま、海の上に浮かんでいるシーンで終わる、というようなドラマだったんですが、私はすごく好きだったんです。といっても、何しろテーマとして深いですし、ネタもないし、自分で描けるとは思っていなかったんです。でも次の連載開始まで時間もないし、思い切って担当さんに提案してみたら、受け入れてくださったんですよ。

――双子という設定も、最初から考えていらっしゃったんですか?

青木:そうですね。近親相姦のテーマなら、双子でやりたいと思っていました。また不思議な感覚なんですけど、これをやったら自分の人生が変わるかもしれないっていう予感があったし、やるなら絶対本気でやらないと描ききれないという想いもありました。でも自信が持てなくて、何度もやっぱりやめよう、と思いました。担当さんと人物相関図を描いて打ち合わせしているときでも、なんだかすごい緊張して、もう手とか震えるんですよ。だけど、ここでやらなければ私の人生が変わらないと思って、結局、言葉に出して「やめたい」とは言わなかったんですよね。その後、雑誌に予告カットが掲載されたのを見て、あぁもうやるしかない、と思い切りました。

――先生にとっても、まさに大きな転換期となったわけですね。連載開始前に抱いた大きな予感については、実際描き始めてから、手応えはありましたか?

aoki0009

青木:実は私、4話目くらいまで主人公の結城頼が嫌いでした(笑)。『朝も、昼も、夜も。』の横溝潤というキャラクターがすごくかわいい男の子で、私は大好きだったんですね。でも頼は潤とはまったく違って素直じゃないし、変な意地悪をするし、暗いし......なんでこんなひねくれてるんだろう、って。でもだんだん、そういう不器用な頼もかわいいなと思うようになったんです。それにヒロインの結城郁がおバカな感じで、私としてはそういう女の子って単純にかわいいなって思うので、描いているうちに二人に愛情が芽生えてきたんです。描いていると、すごく楽しかったですね。ネームを描き終わったら原稿にしなくちゃいけないんですけど、早く次のネームを描きたい、って思うくらいでした。

――まさにノってる感じですね。コミックスなども、早い段階で好評だったようですね。

青木:自分自身が楽しいという気持ちを持って描き続けているうちに、コミックス1巻が好評で、結果にもつながってきたんです。すると欲が出てきて、もっとたくさんの人に読んでもらうためにはどうしたらいいか、を考えるようになりました。いろいろ考えて担当さんに聞いたら、「それは1話1話を大切に描くことだよ」とおっしゃってくれたんです。1話ずつをこだわって描くこと、それを積み重ねることで必ず読者にも通じる......そのことを信じて描き続けてきました。

――売れる作品を作るための特効薬もないし、秘訣があるわけでもない、ということですね。

青木:『僕妹』はそうして描いて、読者に愛された作品なので、この経験があるからこそ、いまも私は絶対に手を抜かないですね。ただ1話ずつをどうがんばればいいのか、実は具体的にはよくわからないんですけど(笑)。意識だけはいつも強く持っています。

――先生の描かれるキャラクターが魅力的な理由が分かる気がします。キャラクター作りをどうされているんでしょうか?

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青木:一番重要なのは、本当に存在する人、と思ってキャラクターを考えることですね。例えばまんがに登場した時点で16歳なら、その彼女は16年間の人生を経ているわけで、そうしたこともきちんと踏まえてキャラクターを考えますね。以前はキャラクター作りもサラリと流したところもあって、そういった作品を読み直すと、今では違和感を感じることがありますね。『僕妹』では、最初から頼が郁に冷たく接しているんですけど、それも男の子が好きな女の子とひとつ屋根の下で生活してたら、優しくなんてできるわけない、と思ったからなんです。生々しいから描きませんでしたけど、トイレなんかはどうしてたのか、とか、心中ではすごい黒い葛藤があるはずで、彼の精一杯があの態度なんですよ。

――その代わり、郁はかなりおバカですよね。

青木:郁はふつうの兄妹だと思っていますから、特別意識しないですね。役割的にも頼が思い悩むぶん、郁は何も考えない子じゃないと、泥沼になってしまうし(笑)。あまり悲劇的な演出にはしたくなかったんですよね。すごく純粋に好きな人がいる、それがこの人っていう、ただの恋物語にしたかったんです。郁が「私たちの関係って、禁断」と意識しすぎちゃうと、ふたりがその関係性に酔っているように見えちゃう。読む側からすると、そういうキャラクターには引いてしまったり、反感を持ったりするんじゃないかな、と思うんです。だって本当に悪いと思っているのなら即刻やめるべきだし(笑)。兄妹の恋が禁断だと言われる。じゃあ何故、禁断と言われるのか。子供を作らなければいいのか。そんな風に軽く考えて、近親相姦をおかしてしまう時期があってもいいと思ったし。そういった時期を経て、駄目なんだと実感していく...という部分も描きたかったですしね。

――『僕の初恋をキミに捧ぐ』については、いかがですか? 主人公はもちろん、その親のキャラクターもすごくしっかり描かれていて、びっくりしました。

青木:キャラクター作りの根本は同じですね。主人公の垣野内逞は心臓に持病を持っているわけですが、実際にいる人間と思って描くと、自然と病気を抱えた逞はこんなふうに育っているだろう、とか、設定が出来上がってきます。それに、この作品では病気のことや病気の子どもを持つ親御さんのこととか、すごくたくさん調べました。親のキャラクターについては、実は読者にとっては興味ないことかもしれないと思いつつ、作品では自分の思い描いた世界を描ききることが一番だと思っているので、私が必要と判断したものについては描こう!と思いました。『僕妹』では、親の恋愛についても描いていますし、『僕キミ』では、逞の病気のことがあったので、やはり親の描写は外せなかったですね。

――それでは最後に、近作の特徴でもある主人公たちの結末を読者の想像に委ねる形のラスト・シーンについて教えていただけますか?

青木:『僕妹』に関しては、やはりリアリティを追求すると、兄妹ふたりで生きていくってないな、と。郁はそれで幸せと言うだろうけど、たぶん頼は思わないんですよ。図書館で2人が出会うラスト・シーンも、当初は、出会わせないつもりでした。双子として生まれ落ちた時一番最初に出会った2人が、最後には近くにいるのに出会えない。人の縁って奇跡だと思ったし、そういう惨いところもあると思った。でもそういうすれ違いを描くのは、2人を応援してきてくれた読者の皆さんにとって辛いかなと思って、じゃあ、出会いそうで...というところで、暗転。真っ黒のページで終わろうと思ったんですよ。映画みたいで格好いいかなとも思ったし。でも最終回直前の自分のホームページへのファンの方からの書き込みを見たら、これは真っ黒で終わることはできないな、と思ったんです(笑)。出会わせなければと。やっぱりエンターテインメントですからね。でも、そこから先の続きの話は、絶対に蛇足だと思った。だってあのラストシーンこそが、私にとっては、蛇足というか、カーテンコールだったので。ストーリーとしては、郁が別れの後打ちのめされて、でも頼の思いを知って1人で立てる人間になろうと立ち上がる瞬間にもう終わってるわけですから。

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『僕キミ』に関しては、完全に私のエゴなんですけど、「死んだんだ」とか「生きたんだ」という感想を読者の人に持ってほしくなかったんですよね。とかく結果に焦点が行きがちなんですけど、12巻まで描いてきたのは、「死ぬか生きるか」という結果を描く為じゃない。だってそれは、どちらでもいいことですから。今じゃなかったとしても、人は全員等しく死ぬわけですし。そうではなくて、明日死ぬかもしれないという瞬間に、何を思うのか。何をするのか。それこそが12巻かけて積み重ねてきた逞という男の子の人生の物語だと思った。でも、結果を描いてしまうと、否応なしにその結果だけが1人歩きしてしまう。それをどうしても避けたかったんです。

青木琴美プロフィール

青木琴美(あおきことみ) 1980年、愛媛県生まれ

1998年『99のナ・ミ・ダ』(少女コミック(現:Sho-Comi)11月号増刊)でデビュー。嵐・松本潤主演、ヒロイン・榮倉奈々で映画化された『僕は妹に恋をする』などヒット作は多数、著作発行累計は、1500万部を超える。『僕の初恋をキミに捧ぐ』で、第53回小学館漫画賞受賞。同作は、2009年井上真央主演で、映画化が控えている。現在、新連載『カノジョは嘘を愛しすぎてる』を準備中。


2009年01月26日