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『庄司陽子先生』 その5

世代を超えて読み継がれる感動的ストーリー『生徒諸君!』。 今回は、かの名作がいかにして生まれたのかを明かす裏ストーリーを紹介。また、完結後20年を経て始まった続編『生徒諸君! 教師編』についても秘話を公開。 もちろん絶賛放映中のテレビドラマについてもエールを送っていただきました!

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『生徒諸君!』誕生物語

---- 大ヒットとなった、先生の代表作『生徒諸君!』(1977年~1984年)が、どのような経緯で始まったのかを教えてください。

庄司:それまで週刊少女フレンドで連載していた『虹の航路』(1976年~1977年)が終わって、次に何を描くかを考えたとき、私が子供時代に憧れたような胸躍るまんがを描きたいと思ったんです。

生徒諸君!

というのも当時の少女まんがって、ちょっとテーマが大人びすぎていて、キャラクターもアンニュイというか、文学的というか、とにかく全体的に重かったんですね。でも、私は子供にはもっと元気ハツラツなまんがを読んでもらいたかった。読んだ子供にドキドキしてほしい、もっと夢見てほしい、楽しい気持ちになってほしい、そう考えたんです。

それですぐに始めたくて40ページ×10回の連載を打診したんですよ。その時は、『虹の航路』の連載を32回ちゃんと続けて終わらせていたので大丈夫だろうと思っていたんですが、編集部からは30ページ×10回しかあげられないという返事(苦笑)。その時、正直「あっ、ヤバい!」って思いましたね。また期待されていない(笑)。

虹の航路

それが、ある先生の病気で誌面が空いてしまったので、連載が急発進になってしまったり、他誌からも急に連載を頼まれたり、すごいバタバタしたスタートだったんですよ。もちろん他誌の連載も手を抜けませんから、全部1位を獲るつもりで描いて、実際に獲って......大殺界の歳だったんですけど、信じられないでしょう?

---- ほとんど意地ですよね(笑)。しかし『生徒諸君!』は最初は10回で終わる予定だったんですか。......意外です。

庄司:最初は、『風の又三郎』みたいに、ヒューッとやってきて、ガーッっと学園をかき回して、風のように去っていくみたいな話にしたかったんですよ。子供なんだから、せせこましく、いじましくしてないで、もっと元気になろうよってメッセージを送りたかった。

で、そういう内容で10回分の内容を考えていたんですが、1回目が掲載された直後に反響の大きさから継続が決まっちゃって、大わらわですよ!(笑)。続けるために、あわてて設定を肉付けし始めました。

---- 当初の設定になかったもので、長期連載になる際に付け加えたものにはどういうものがありましたか?

庄司:ナッキーの素性は何も考えていませんでしたね。転校してきた理由すら決めてなかった。10回で終わるなら別に理由もいらないかな、って思っていたんですよ。私自身が転校族だったので、転校をあんまり特別なことだと思っていなかったし。

でも、続けていくにはそういうわけにもいかないので、「この子はどこから来たのかな?」とか、「こういう子が生まれる家庭環境ってどんななんだろう?」とか、さかのぼって考えていって、親のネグレクト(育児放棄)で孤独を背負っていたり、不治の病の姉がいるとか、ちょっと複雑な家庭環境にしてみました。

---- ナッキーが先生になるという終わり方もその時に決めたんですか?

庄司:全然! だって本当は中学校を卒業したところで終わるつもりだったんですから(笑)。でも、やめさせてくれなかったんで、仕方なく卒業式の回で「完 なーんちゃって! 続く」って書いたんですよ。本当はあそこで終わるのが理想でしたね。

生徒諸君!第3巻「完 なーんちゃって! 続く」

---- さて、『生徒諸君!』と言えば、ナッキーが岩崎君と沖田君、どっちと結ばれるかという話題が大盛り上がりでした。私の周りの女性陣は圧倒的に沖田派が多かったんですが。

庄司:岩崎君の方が現実的な人間なんですけど、女の子には沖田君がよく見えちゃうんです。それは分かってました(笑)。登場させた時点で、死ぬって運命が決まっていた子だから、いくらでも美化できましたしね。欠点と言えば内気なことくらいだけれど、それだって女の子からしたら許される欠点だし。

---- 沖田君は、最初から死ぬ予定だったんですね! あの壮絶な死に様も決めていた���ですか?

庄司:それは決まってませんでした。高校に入った後、この子が運動やるんだったら山だろうなって。そして、山の魅力に取り憑かれて命すら捧げてしまうっていうところが、どこかで彼のナッキーへの想いと被ってると思ったんですよ。

ただ、死ぬことが決まっていたとはいえ、やはり実際にそのシーンに至ってみると辛いものがありました。そこで、関わったスタッフ全員で、葬送の儀っていうのをやったんです。みんなでベタをかわりばんこに入れていくことで、沖田君の死を悼みました。

---- 読者からの反応もすさまじかったそうですね。

庄司:それはもう、ものすごかったですよ! 山で遭難したあたりで、沖田君の死を察知した読者から「殺さないで!」って手紙が大量に届いたり......。でも、雑誌が出るころって、もう先の原稿が終わるころじゃないですか。だから、もう沖田君のそのシーンは、描き終わってしまっていたんですよね。

---- 亡くなったあとの反応もすごそうですね。

庄司:やっぱり、責められましたね。

でも、人間って生きていくうちに、いろいろな体験をするわけですよ。その事件のなかに、「友達の死」だってあるかもしれない。突然、交通事故でいなくなってしまうというようなことは、誰にでも可能性があるわけです。

初音が暴行されたこともそうですよね。絶対にありえない話ではない。

---- あの事件も衝撃的でした。多くの読者がショックを受けたと思います。

庄司:実は、あれについては編集長に反対されたんです。この展開はまずいって。

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でも、私は『生徒諸君!』で、悪たれ団の子供達の人生を全部描くにあたり、それぞれが乗り越える試練を与えたかった。辛いことを乗り越えると、その分強くなれるじゃないですか。だから、そこで負けちゃダメだって思うんですよね。そして、その後、ナッキーは沖田君の死と向き合えるようになり、初音は日本一のお母さんになった。

私にだっていろいろありましたよ。でも、なんとか乗り越えてきた。負けちゃダメだ、逃げちゃダメだって頑張ってきたんです。

例えば、昔、経理のトラブルで大赤字になってしまったことがありました。お金を持ち逃げされて、本当にどうしようもない状態になってしまった。なのに家は維持しないといけないし、母もいるし、アシスタントの子たちの生活も守らないといけない。そんなとき、「こういうまんがを描けば儲かるよ」っていう誘惑があったんですが、それに負けてはならないと思った。描きたいまんがで勝負して、それでダメだったら諦めよう、まんが家を辞めようって覚悟で正面から乗り越えたんです。

---- 確かに『生徒諸君!』で起こるさまざまな事件は、全て、他人が救ってくれるというより、当事者が自分の力で乗り越えていくというかたちで解決していきます。そこには、そういう先生の気持ちが込められていたんですね。

庄司:やっぱり逃げちゃダメだって言いたかったんですよ。

---- 『生徒諸君!』を読んでいて感じるのが、ナッキー達の若くて純粋な価値感とは別に、対立する大人の側にも事情や理由、信念があることに触れていること。これも意図的におやりになったんですか?

庄司:子供なりの理屈ってのは分かるつもりなんですが、やっぱり社会においての秩序や親の理屈もそれとは別にありますよね。それはどちらも正しいってことをきちんと認識しないといけないと思うんですよ。どっちかが正しいっていうお話にしちゃうと、どこかで歪んでしまう。

そして、そういうことは、大人がきちんと説明してあげないといけない。例えば、性教育なんかは、大人が逃げてしまいがちなことですが、私はきちんと教えるべきだと思うんですよ。

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実際、私は甥や姪に、セックスはお互いの合意があって、きちんと避妊さえしていれば、決して悪いコトじゃないと教えています。暗い部屋で変な本持って、一人でマスターべーションしているより、ずっと良いかもしれない。でも、リスクは絶対にあるし、いざというときは女の子の側が全部背負うことになるということもちゃんと理解させます。

また、その時は「真剣」で、「リスクを負っても良い」と考えていても、まだ10代の子供が、死ぬまでの人生の1/4又は1/3も生きていない人間が、どうして今の恋愛が一番だと言えるのか、そういうことも考えるように促しますね。

でも、親たちにそういうことの必要性を話すと、怖くて無理とか、恥ずかしいとか言うんですよ。でも子供の価値観ときちんと向き合うっていうのは、大人の使命。だから、私としては、そういう気持ちも込めて『生徒諸君!』を描いていたところもあるんですよ。

庄司陽子プロフィール

庄司陽子(しょうじようこ) 1950年、千葉県生まれ。

1968年デビュー。講談社、週刊少女フレンドを中心に多数の作品を執筆し、デビュー10年目となる1977年に『生徒諸君!』を連載開始。第2回講談社漫画賞少女部門を受賞したほか、2度のテレビドラマ化や映画化、アニメ化など、絶大な支持を集めた。近年はレディース誌に活動の場を移し、2003年から『生徒諸君!』の続編となる『生徒諸君! 教師編』を連載開始(現在も連載中)。2006年には、性同一性障害を扱った『G.I.D』で青年誌進出も果たしている。今年でデビュー40周年。そのほかの代表作に『セイントアダムス』『Let's 豪徳寺』『サンクチュアリ』『I′S』『ルシフェル』などがある。


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2007年06月08日