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『鬼頭莫宏先生』 その2

今回の「まんがのチカラ」は、鬼頭先生の連載デビュー作『ヴァンデミエールの翼』から『なるたる』にいたる経緯と、その制作の裏側、そして、鬼頭先生の絵に対する思いについても語っていただきました。

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『ヴァンデミエールの翼』~『なるたる』まで

――先生の連載デビュー作となる『ヴァンデミエールの翼』はどういったところから発想した作品なんですか?

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鬼頭:あれは、なんというか、こう......、考え抜いた揚げ句にできたというものではなくて、なにか流れでできちゃったというか、そういう作品です。

――流れで?

鬼頭:さっき話した中学校時代の友人の1人が、同人活動を続けていて、彼がアンソロジー本(ある主題に基づいた作品を集めた選集)みたいなものを作る際に、依頼されて作ったお話が元になっているんですよ。そのお題が「アンドロイド」で。

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当時の僕が「アンドロイド」から思い起こすものをいろいろと盛り込んでいったら『ヴァンデミエールの右手』になりました。

で、『ヴァンデミエールの翼』の後半あたりから、アフタヌーンの編集さんと「次は不定期ではなくて連載狙いで企画を立てましょう」ということになって、そして企画を立て始めて「いけるな」という段階のところで、きくち先生のところは抜けさせてもらって......。

――それが『なるたる』なんですね? ところで、また同じ質問になりますが、『なるたる』はどういう発想から生まれた作品なんですか?

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鬼頭:『ヴァンデミエールの翼』もそうなんですが、当時の僕にとって「キャラクター」というのは、ストーリーを転がすための道具でしかなかったんです。描きたいお話が先にあって、そのために必要なキャラクターを後から作るという形ですね。

で、それを見ていた編集さんから「今度はキャラクターを先に作ってくれ」と言われたんですよ。まずキャラクターを作っておいて、そのキャラクターでストーリーを転がしていくというやり方を1回試してみようって。

――なるほど。一番最初に作ったキャラクターはやはり主人公のシイナですか?

鬼頭:いや、違います。最初に考えたキャラクターは実際の連載時には原形をとどめていません。

キャラクターを作ってからストーリーラインを考えると、やっぱり無理がでてくるんですよ。整合性が取れなくなるんですね。僕の場合、そういうときはキャラクターを作り直すので、『なるたる』に関しては、最初に考えたキャラクターは登場していません。

......結局、お話に合わせてキャラクターを作るといういつものやり方になっちゃってますね(笑)。

でも、発想の始まりが「キャラクター」であったのは間違いないです。

――そんなふうにして生まれた『なるたる』ですが、読者の反応はいかがでしたか?

鬼頭:最初のころは比較的良かったですね。

――「最初のころは」ですか? それは、またどうしてですか?

鬼頭:僕が逆に聞きたいというか、僕が知りたいんですけど(笑)。

――後半になるにしたがって、徐々に残酷になっていくというか、結構感情移入していたキャラクターがとんでもないことになっていくあたりに、やはり反感が���ったんでしょうか?

鬼頭:うーん......。そのあたりは、よく分からないです。もう少し絵のうまい人が描いていたら、もうちょっと変わったのかなと思わなくはないですけど、あの当時はあれが限界だったので、仕方がないなと思っています。

――先生は絵にコンプレックスがあるんですか?

鬼頭:あります、あります、すごくあります(笑)。

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絵に関しては、あまり類型的になるのがイヤだと思う反面、特殊な描き方もしたくなかったんですよ。絵柄で作家としての方向性を限定されたくなかったんですね。だから、そういう特殊な部分をそぎ落としていこうと考えていたのですが、それが思うようにうまくいかなかったというか......。本当は青年まんが誌で描きつつ、少年まんが誌でも通用するような絵柄でもありたかったんですけどね。

自分としては、もう少しやれるつもりだったんですけど、意外と不器用だったな、と。

――先生が理想とされる絵を描かれているまんが家さんはいらっしゃいますか?

鬼頭:自分じゃない人なら、だいたいそう思いますけどね(笑)。アフタヌーンはとくに絵の上手な人が多いので困りましたね。

今、『ぼくらの』を連載しているIKKI(小学館)で言えば、松本次郎先生(『フリージア』など)がすごいと思います。松本先生の作品を見ていると、本当に気持ちよさそうなんですよ。無い物ねだりなんですけど、ああいう描き方ができたら、自分はどうなったんだろうとか考えますね。

あと、志村貴子先生(『放浪息子』など)も素晴らしいですね。

志村先生の描いたページ左右2枚を開いた状態で見ると、「こんな普通ぽい絵柄で、普通のコマ割りなのに、なんでこんなに魅力的なんだろう。なにが違うのだろう」って思います。志村先生の作品には、言語化できない「何か」がありますね。

――えー、話がそれたので、少し戻しますね。『なるたる』は、そのストーリー展開が話題になりましたが、あの展開は、最初から決まっていたんですか?

鬼頭:そうですね。ほぼ80%ぐらい決まっていました。

――それでは、各界に衝撃を与えたというあのエンディングも最初から決まっていた?

鬼頭:そうですね。あれがいちばん読み違えていたというか......。僕は後半の方でボタンのかけ違いを2カ所くらいやっちゃっていると思っています。でもあのラストに関しては「これでいいよな」と思っていたんですよ。ところが実際はすごい賛否両論で......。絶対に落とせるプロポーズの言葉を言ったはずなのにおかしいな、と(苦笑)。あれ以来、自分で自分の感覚が信用できなくなりました(笑)。

――ちなみに、いちファンとして興味があるんですけど、「2カ所のかけ違い」というのは具体的に言うと?

鬼頭:1カ所は宮子とシイナの関係が薄かったところですね。本当はもう少しちゃんとからませておかないといけなかった。もう1カ所は、最後の方なんですけど、須藤さんが核ミサイルを落とすのはお父さんの飛行場じゃなくちゃ駄目だったということ。

――それは自分でも「失敗したな」と思われたんですね。

鬼頭:いや、失敗というより、その時思いつけなかったことが、残念でした。

――ちなみに『なるたる』はアニメ化されましたが、それについてはどのように感じられましたか?

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鬼頭:ありがたいですよね。アニメ化には多くの人のいろいろな思惑があると思うんですが、自分の作品が、そういう中で何かの役に立つと思ってもらえたことは素直にうれしかったです。

あと、シイナの声を真田アサミさんにやってもらえたのが良かったですね。イメージとは違ったんですけど、むしろこっちの方が良いなと思わされました。

鬼頭莫宏プロフィール

鬼頭莫宏(きとうもひろ) 1966年、愛知県生まれ。

1987年、少年サンデーにて読み切り『残暑』でデビュー。1994年に『三丁目交差点 電信柱の上の彼女』が少年チャンピオン新人漫画賞入選。1995年、アフタヌーンで『ヴァンデミエールの右手』が四季賞準入選。同作品はその後、『ヴァンデミエールの翼』としてシリーズ連載化し、2年にわたり不定期掲載される。1998年には同誌において初連載『なるたる』をスタート。2004年からは『ぼくらの』で活動の場をIKKIに移す。『なるたる』『ぼくらの』は共にテレビアニメ化もされた。繊細で残酷な、ある意味で相反する要素を合わせ持つ作風が、コアなまんがファンを中心に高く評価されている。


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「まんがのチカラ」次回予告
次回(2007年10月15日頃掲載予定)は、いよいよ、あの衝撃作『ぼくらの』の登場です。今後の展開だけでなく、アニメ版や小説版への思いも語っていただきました。そして最後には、鬼頭先生がまんがを描く上でのスタンスも・・・。お楽しみに!

2007年10月01日