まんが☆天国 TOP > まんがのチカラ >  『幸村誠先生』 その2

『幸村誠先生』 その2

初めて描いたまんががデビュー作であるという幸村先生。今回は、そのデビュー作について語ってくださいました。作品への予想外の反響から感じたことや、作品に込めた切実なメッセージについて、そして、そのデビュー作がなんと「あの作品」であるという驚きの事実など、盛りだくさんの内容でお届けします。

<<『幸村誠先生』 その1

『幸村誠先生』 その3>>

お願いだから僕をキモいって言わないで

――22歳まで作品を描き上げることがなかったというお話を先ほどお伺いしましたが、実際に描かれたのはどういう作品で、どんなきっかけだったんですか?

『プラネテス』

幸村:22歳になった頃、当時、守村先生の担当をしておられた金井さんという方から、「ネームを描いてみないか」と勧められたんです。自信も何もなかったんですが、そういうお話をいただけるってことはチャンスなんだろうから、一生懸命やろうと思って描いたのが『プラネテス』です。

――なんと、初めて描いた作品が『プラネテス』だったんですね! 青年誌では珍しい「SF」というモチーフを扱った理由を教えてください。

幸村:昔からSFが大好きだったんですよ。ネームを描くとき、分からないなりに考えて、「まんが」と「SF」っていう、自分が好きなものだけを集めれば、作品になるんじゃないかって思って......。

幸い、そうして描き上げたものを、ほぼそのままの形でモーニングに掲載していただくことになりました。

――初作品が、ほぼそのまま本誌掲載ってのはすごくないですか!?

yukimura0006.jpg

幸村:後で聞いた話なんですが、本当はそういう作品は「新人賞」に回されるらしいんですよ。ただ、たまたま新人賞の締め切りがだいぶ先だったのと、原稿料の方が賞金より安いっていうことがあったせいで、本誌に掲載することになったそうです(笑)。

――それでも、やはり一定水準を超えていたからこその本誌掲載ですよね。掲載後の反応はいかがでしたか?

幸村:僕が記憶する限りまったく無反応だったような......。でも、その時はそんなもんなんだろうなって思ったんですよ。無名の何だかわからないヤツが、突然読み切りを1本描いただけですしね。

――でも、好評だったから、第2話、第3話と続いていくわけですよね。それはきちんと支持されていたからだと思うんですが。

幸村:そうだったのかもしれませんけれど、僕は本当にそういうことに気が回らないし、そもそもそんな余裕もなかったしで、単行本を出していただけるまで、誰も読んでいないんだろうなって、本当にそう思っていました。

――なるほど。しかし、そういう「誰も読んでいない」という中で作品を描き続けていくっていうのは大変ですよね。ご自身の中ではどういうふうにモチベーションを保っていたんですか?

yukimura0005.jpg

幸村:今でもぜんぜん変わりませんけれど、僕は「自分の言いたいこと」を描いてまとめるタイプなんです。もやもやした、うまくまとまらない、でもこれを人に伝えられたらスッキリするだろうなってことが、どなたにもおありになりますよね。それを整理整頓するのが、僕にとっての「まんが」なんです。

ある意味では、人に見せるということよりも、自分の中で整理をつけるためだけに、僕一人の楽しみのために描いていた面が大きかったと思います。プロとしてはまったくお恥ずかしい話なんですが......。

――でも、単行本が発売されるころには、かなり話題になっていましたよね。

幸村:好評をいただけたことには、とても驚かされました。まず「SF」というジャンルが受け入れられないって考えていましたから。なにより僕の、「思っていることをまんがという形にまとめて、それを受け入れてもらおう」っていうスタイルがダメだろうなって思っていたので。

それまでは、自分がずっと考えていたことを人に話すと、たいてい「キモい!」って言われてきたんですよ。���小難しいことを、小利口な顔をして言ってる」とか、嫌われることが多かった。ところがそれをまんがにすると、みんなきちんと聞いてくれる。

――まさに「まんがのチカラ」ですよね。

幸村:そうなんですよ。それで2巻以降くらいからは、もっと踏み込んだことを話しても聞いてもらえるんじゃないだろうかって欲が出てきて、そういう内容をたくさん込めはじめました。

――そんな『プラネテス』全4巻で伝えたかったこととはなんでしょう?

幸村:「お願いだから僕をキモいって言わないでください」っていうことでしょうか。ちゃんと話してみると意外とキモくないですよ、それだけは分かってください、って(笑)。

――個人的に、4巻に掲載されている「男爵」のエピソード(PHASE 17「友達100人できるかな」)が謎だったんですが、なるほど、あの話も、そのテーマをお聞きすると理解できるような気がします。

幸村:あのお話は、「キモい」って言われている人が「悪い」人かどうかは別の話だよってことを描きたかったんでしょうね。それともう1つ、僕は25歳ぐらいまで、長い間思い違いをしていたことがあったんですよ。その間違いに気がついたとき、天地がコロリとひっくり返るような面白さがあって、それをみんなに伝えたいなという気持ちも込めて描いてみました......描いてみたんじゃないかな。

――その「思い違い」とは具体的にはどういうことなんですか?

yukimura0007.jpg

幸村:うーん、うまく言えないんですよね。ただ、自分がバカだったんだなぁっていうことが分かったというか......。あ、もちろん、今、僕が賢いかっていうとそんなことはないんですけど。

えーと、うーん、どう伝えれば良いのかな。これが、もっとうまくまとめられたら、もう少し早くまんがが描けるんだろうな(苦笑)。

――でも、そういうことを一生懸命まとめて、作品にするから完成度が高いんでしょうね。

幸村:そう言っていただけると浮かばれます。ただ、編集者さんは「そんなことはどうでもいいから、早く原稿を完成させろ」っておっしゃるでしょうね、きっと(笑)。

――ところで、先日、小説版『プラネテス』(『家なき鳥、星をこえる』常盤陽/講談社)が発売されましたが、これはどういった経緯で生まれたものなんですか?

『家なき鳥、星をこえる』

幸村:作者の常盤さんは以前からの友人で、大変に能力のある方なんですよ。それで小説化の企画が持ち上がった時、僕の方から彼を推薦させてもらいました。彼にとってはデビュー作ということになるんですが、快諾していただき、小説版『プラネテス』が生まれることになりました。

――読まれてどう思われましたか?

幸村:頼むんじゃなかった、と。だって、僕の描いたものより面白いんですよ(笑)。

アニメ化のときもそう思ったんですけど、別メディアに作り変えられるたびに原作より面白くなるっていうのは、原作者として忸怩たる思いがあるっていうか......。いや、喜ばしいことなんですけれども。

でも、真面目な話、原作を読んだ常盤さんが、それをもとに世界観を広げて、それが僕のところに帰ってくるっていうキャッチボールが本当に面白かったです。しかも、そのデキが最高だというのですから、何一つ言うことはないですよね。大満足です。

――原作者からのおすすめポイントがあればぜひ。

yukimura0008.jpg

幸村:全て素晴らしいんですが、特に冒頭ですね。最初のチャプターをまず読んでください。絶対に先を読み進めたいって思うはず。うまい作家さんはみなさんそうなんでしょうけれども、「つかみ」って言うんですか? 出だしに全てが込められているんですよね。学ばされました。

幸村誠プロフィール

幸村誠(ゆきむらまこと) 1976年、神奈川県生まれ

1999年、週刊モーニングに掲載された読み切り作品『プラネテス』でデビュー。『プラネテス』は好評を受けて不定期連載化し、2002年に星雲賞コミック部門を受賞、2003年にアニメ化されるなど、一般読者からコアなSFファンまで幅広く支持された。2005年からはバイキングをモチーフとした『ヴィンランド・サガ』を連載開始。現在も月刊アフタヌーン誌上にて好評連載中。


「まんがのチカラ」次回予告
次回(2008年1月21日頃掲載予定)は、現在、月刊アフタヌーン誌上にて好評連載中の『ヴィンランド・サガ』が連載開始されるまでの経緯をはじめ、幸村先生のまんが作りの根底にある想いについてや、気になる次回作の意外な構想についても語ってくださいます。幸村先生編最終回、お見逃しなく!

2008年01月14日