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『幸村誠先生』 その3

幸村先生編最終回となる今回は、現在、月刊アフタヌーン誌上にて好評連載中の『ヴィンランド・サガ』が連載開始されるまでの経緯をはじめ、幸村先生のまんが作りの根底にある想いについてや、気になる次回作の意外な構想についても語ってくださいました。

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これからも「何だろう」が作品作りの原動力

――アフタヌーンで連載中の『ヴィンランド・サガ』について質問させてください。「SF」の次が「バイキング」、しかも週刊誌で(第1話~第16話までは週刊少年マガジンで連載された)、ということに驚かされたんですが、どういう経緯でそうなったんでしょうか?

『ヴィンランド・サガ』

幸村:マガジンに移籍したのは、デビュー当初から一緒にやってくださっていた編集の金井さんが、モーニングからマガジンへ異動されたからですね。「じゃあ、僕も行く」って、本当にそれだけです。

その時、「マガジンは週刊誌だけど大丈夫?」って聞かれたんですけど、なんででしょうか、「そこは何とかなります」とか言ってしまったんですよ。結局、何とかならず、月刊誌のアフタヌーンへ移籍ということになってしまいました(苦笑)。

――週刊化も大きいと思うんですが、青年誌から少年誌に変わったことも大きいですよね。読者層が変わることで心がけたこととか、考えたことはおありですか? 今の子供たちに『北斗の拳』を読んだときの感動を与えたい、とか。

幸村:それは本当に思いましたね。あと、『北斗の拳』級に面白いものが描けるんだったら、きっと僕は大金持ちになれるぞ、とか(笑)。

――たしかに(笑)。ところで『ヴィンランド・サガ』は「SF」以上に珍しい「バイキング」まんがですが、これも「SF」同様、もともとお好きなものだったんですか。

幸村:はい。学生のころから面白い民族だなと思っていました。あの時代背景でまんがを描けたら楽しいだろうなと考えて、『ヴィンランド・サガ』を始めたんです。

ただ、正直言って、僕は乱暴ごとがあまり得意ではないというか、好きではないんです。だから、なんでこんな血みどろまんがを描いたのか、自分でも分からないところもあるんですよ。ケンカはもちろん、ボクシングなどのスポーツでも、やろうという人の気持ちが分からない。

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たくさんの人がいる前で、ぶん殴って、マットに這いつくばらせてって、怖くないですか?

ところが、世の中の男は、大昔からこういうことを進んでやりますよね。もちろん僕にもそういう好戦的な気持ちがないとは言えません。ただ、すごく不思議で......何でこんなことするんだろうって疑問が出てきてしまうんですよ。

その上で、まず思ったのが「戦士って何だろう」ってことですね。 何なんでしょうね、戦う人って......。まずは、これを咀嚼して理解したいと考えました。 『ヴィンランド・サガ』を描き続けながら「戦士」というものを理解していきたいですね。

――最新のエピソードでは「愛」というテーマも出てきましたよね。個人的には「これが描きたかったのか!」と驚かされたんですが。

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幸村:日本人のくせに「愛とは何か?」とか、ほんとはすごく恥ずかしいんですよ。しかも、2年半もやってきて、ようやくテーマらしきものが見えてきたってのもどうなんだって話で(苦笑)。

でも、そういっていただけると踏ん張ってきた甲斐があるというものです。

――ちなみに『ヴィンランド・サガ』は今、構想の何%ぐらい終わってるんですか?

幸村:えーと、20%ぐらいですかね。20巻で収まればいい気がしてます(苦笑)。完結できるのは何年後になることやら......。

――それが終わったあとに描いてみたいモチーフはありますか?

幸村:「バイオレンス」ですかね。いや、「ホラー」かな。

何で人間って、あんなに怖いものが好きなのかな、って思いませんか? 僕、すごい怖がりなんですけど、ホラー映画が大好きなんですよ。テディベアを抱きしめて、「うぎゃー!」って絶叫しながら観てます。我ながらそれが不思議で......きっと、そこに「何か」があるんじゃないかと思っています。

いつになるのか分かりませんけど、次はその「何か」をまんがにしてみたいですね。

その先に僕が何を描いていくのかは、まだ分かりませんが、「○○○って、なんだろう」という気持ちが根底にあるということだけは変わらないと思います。

――最後の質問です。先生が好きな、影響を受けたまんがを1つ教えてください。

『あっかんべェ一休』

幸村:坂口尚先生がアフタヌーンで連載(1993~1996年)していた『あっかんべェ一休』ですね。連載当時は描かれている内容をほとんど理解できなかったんですけど、絵もお話もとにかくすごいんです。今でも、坂口先生は大きな目標の1つですね。

――具体的にどのあたりに感動したんですか?

幸村:『あっかんべェ一休』は、後半になっていくと、一休さんが諸国をふらふら訪れた先々での小さな話の集合体のような感じになっていくんですけど、僕は前半の青春時代のエピソードが好きなんです。中でも、一休さんが入れあげた遊女が、死んじゃうシーンで「今の私は夢なのね」っていうセリフがあるお話にとても惹かれました。当時、その意味なんて全然分からなかったんですけどね(笑)。

――分からないなりに、なにか思うことがあったんでしょうね。

幸村:そういうものってあると思いませんか?

ちょっと話はそれるんですが、僕には、今、1歳半の子どもがおります。親として、その子に何を読ませたり、見せたりしてあげたら良いかってことを考えたとき、1つ、どうしても見せておきたいと思った作品があるんです。やなせたかし先生が原作の『チリンの鈴』ってアニメ映画なんですが、かわいらしい絵柄でありながら、内容がハードなんですよ。

――どういう話なんですか?

牧場で暮らしていたチリンってかわいい子羊が、お母さん羊をウォーっていう狼に食い殺されて、その復讐のために、牧場を抜け出して......って話です。ところが、ウォーに勝つ力を手に入れるために、当のウォーに弟子入りしちゃうんですよ。「僕は、牧場の中で一生を過ごして、たまに狼が来たら黙って食べられるなんて人生はイヤだ!」って。

ところが、修業に修業を積んで強さを手に入れたとき、チリンは、羊だか何だか分からない得体のしれない化け物になってしまっていたんです。

――ちょっと哲学的な内容ですね。

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幸村:これをぜひ、1歳半の息子に見せようと思っています。今すぐに意味が分からなくてもいい。長い時間をかけて咀嚼していくものを与えておきたいんです。

『あっかんべェ一休』は、僕にとって、そういう位置づけの作品でした。誰に言われるともなく、そういう作品に巡りあえたことは幸運だったと思います。

幸村誠プロフィール

幸村誠(ゆきむらまこと) 1976年、神奈川県生まれ

1999年、週刊モーニングに掲載された読み切り作品『プラネテス』でデビュー。『プラネテス』は好評を受けて不定期連載化し、2002年に星雲賞コミック部門を受賞、2003年にアニメ化されるなど、一般読者からコアなSFファンまで幅広く支持された。2005年からはバイキングをモチーフとした『ヴィンランド・サガ』を連載開始。現在も月刊アフタヌーン誌上にて好評連載中。

2008年01月21日