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第23回 『「帯」がでかいよ!!』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 本やまんがを買ったときに付いてくる、キャッチコピーやら推薦文やらが印刷されている、あの「帯(オビ)」と呼ばれる紙、あなたはいつもどうしていますか? そもそも、書店で本やまんがを買うとき、「帯」に書かれている売り文句を、どの程度、参考にしていますか?

 最近は、売り場に置かれている「POP(ポップ)」の宣伝効果が注目を集めていて、どこの書店に行っても「POP」が花盛りですね。著者による直筆「POP」があったり、あるいは、そこの本屋さんで実際に働いている書店員さんが手作りした「POP」があったり......そうした「POP」も参考になるし、見ているととても面白いのですが、本やまんがそのものに最も密着して、いや、密着どころかその一部になって流通する宣伝媒体があの「帯」なのです。つまり、本の作り手(著者、編集者、デザイナー、推薦文の執筆者......)の「この本のココをこう読んでほしい!」という熱い思い入れが、あの1枚の紙に凝縮されているといっても過言ではないのです。とは言っても、売り上げ部数や映像化情報が派手に印刷されているだけの帯が多いのも事実ですが......それはそれでついつい目を奪われてしまうものですよね!
 さて、最初の質問。そんな「帯」を、あなたはいつもどうしていますか? あああー、読むときにじゃまだから捨てちゃうって......? なんてもったいない! 本によっては、帯があるかないかで、古書としての価値が変わるんだそうですよ! そういう妙な思いこみが身についているせいか、どんな本やまんがであっても、わたしには帯を大切にとっておくというクセがあります。読む前にまず帯を取り外して、きちんと折ってから、挟む。しおり代わりにもなりますしね。
 ところが、わたしのそんなちょっとした習慣に挑戦するかのようなブックデザインが、最近、目につくのです......! 本の半分を覆うほどの巨大な帯が! 取り外して、きちんと折って畳んで......はみだします、ちゃんと挟めませんってば......。そう、帯がでかいよ!でかすぎるんだよー!! しかし、一定以上、大きな帯であれば、読むときにひらひらしてじゃまになるということがないので、帯をわざわざ外す必要がない! しかも、スペースが広い分、キャッチコピーの文字数は多く、イラストは大きく、と効果的にデザインされているし、帯をした状態の表紙、帯を外した表紙、カバーを外した表紙、と、一冊で3つの表紙が楽しめるではないですか! 帯やらカバーやらを外してデザインを愛でるのは、いまや、購入者だけに許された特権的な悦びですね、まったく!!!
 今回は大きな帯が印象的だった、かつ、中身も帯に負けずに個性的で面白かった、そんな作品をご紹介しようと思います。

『イノセントブローカー』(加藤山羊/小学館)

イノセントブローカー
イノセントブローカー

●加藤山羊・著
●ビッグコミックススペシャル
小学館 全1巻
●定価 780円(税込)

 真っ青なカバーに赤い帯のコントラストがいきなり鮮烈。帯で温和そうな微笑みを浮かべている男性が、帯を外したカバー表紙では、いじけているような、不気味で暗い表情で、じっとこちらを見つめています。彼がこの作品の主人公の藤井であり、その2つの表情のグロテスクなギャップこそが、この物語のポイントなのです。帯に書かれた文章の中でいちばん大きな文字になっているのがこの一文。
 「あなたは人を、自分を、絶対に信じられますか?」
 『イノセントブローカー』の主人公である藤井は、裏社会で暗躍する「闇のブローカー(仲買人)」。ひとりきりで事務所を営む彼のもとに次々と訪れるワケありの客たち。彼らが藤井に依頼するのは自分の手元にある違法な情報の買い手を探すこと。藤井はその情報をいちばん高く買い取る買い手を見つけ、交渉を担当することによって、仲介の手数料を得るという仕組み。この違法な情報の仲介というシステムを支えているのは相互の「信頼」関係だけであると、客に対して必ず力説する藤井。実は藤井の前職は小学校教員。教え子にトイレ用洗剤を入れた給食を食べさせられて以降、彼の中で、何かが決定的に壊れてしまった。人がまったく信じられなくなり、1年以上、引きこもり生活をした後、闇のブローカーへと転身。その動機について、ひたすら無邪気に相��を信じるしかない状況に自分を追い込みたかったから、と藤井は語ります。実際、彼の仕事ぶりは、客を心から信じているように見える。だが、しかし、客に裏切られたことが判明した場合、そのときに藤井がとる、恐るべき行動とは......?
 最初に客と相対したときの藤井は、一見したところ、柔和で頼りなさそうな印象を与えますし、さらには、給食に洗剤を入れられたときの苦しみの記憶を切々と語るのですから、裏社会での藤井の評判を知らない客は、藤井のことを軽く見てしまいます。ところが藤井は思いのほか有能で、想定していた以上の金額を提示された客は、欲望で目をくらませる。もしも裏切られたとわかったら、違約金を取れるだけ取る、と、藤井ははっきりと警告するのですが、客のほうは途中から、あるいは最初から彼を裏切り、藤井の冷酷非情な取り立て行為を受けることになります。
 しかし、そもそも、藤井が客と自分とに繰り返し言い聞かせる、「人を信じる」とは、いったい、どういう意味なのでしょう......? 藤井は常に自分が客の裏切りにあった被害者として振る舞います。というよりも、自分が被害者であることを常に信じて疑いません。だからこそ、裏切られる前までは相手にひたすら誠意を尽くしますし、一度裏切られた後は、相手をまったく人間扱いしないような取り立てを、報復として行うのです。そうした感覚の持ち主が他人を信じていると本当に言えるのでしょうか? いや、藤井という男は、むしろ、他人をはなからまったく信用していないのではないでしょうか? 藤井も客もどっちもどっちの幼稚な自己中心ぶり、と言ってしまえばそれまでかもしれませんが、そうした藤井の徹底した被害者意識、その歪んだ感覚の発露が、奇妙に味わい深く、スリリングに描かれているのが『イノセントブローカー』という作品です。
 殺伐とした雰囲気が漂う本作ですが、作者はなんと女性、しかも実の姉妹による合作だそうです。お姉さんが原作を担当し、妹さんが作画を担当しているのだそうで......おまけのあとがきまんがも、かなりブラックなんですけれど、どこまでが事実なんでしょうか。というか、お母さんが育児の合間に描いたまんがだったんですね、これって......。

『デボネア・ドライブ』(朝倉世界一/エンターブレイン)

デボネア・ドライブ
デボネア・ドライブ

『月刊コミックビーム』にて連載中
●朝倉世界一・著
●エンターブレイン 既刊1巻
●定価 798円(税込)

 水彩タッチのカラーイラストの帯に斜めに入れられた推薦文の書き手は、よしもとばなな!
 「もう大好きすぎてゲロ吐きそうだ!」
 うおお、なんと物凄い愛情表現なのでしょう!
 いっぽう、帯を外したカバー表紙は白が基調でとてもシンプル。カバーを外した表紙はさらにシンプル、だけど、とても鮮やかなピンク色。この凝ったブックデザインは前作『月は何でも知っているかも』(エンターブレイン)と同じくセキネシンイチ制作室による装幀です。ちなみに『月は何でも知っているかも』のデザインもちょっと変わっているのです。単行本の本体に風景が描かれており、トレーシングペーパーのカバーにバイクで走る人物が描いてあるので、その向こう側に、うっすらと背景が広がっているかのように見えます。また、こちらは当初から帯を作らないことに決めてデザインされたようで、キャッチコピーがカバーに直接印刷されています。
 さて、『デボネア・ドライブ』ですが、この不思議な浮遊感、えもいわれぬ脱力感は何なのでしょうか。近ごろ流行りの「ゆるキャラ」とは一味違う、独特のゆるさなのです。しかもびっくりするほどオシャレ! わたしがはじめて朝倉世界一の作品を読んだのは中学生のとき、昔の『宝島』の連載ででしたが、その頃から、うわあ、めちゃくちゃオシャレなまんがだなあ、と思っていました。当時はもっと60年代っぽい、いかにもモッズなテイストでしたから、よけいに。そういうファッショナブルな作風でジャンル横断的に活躍し、オモチャっぽいテイストを活かして、『フラン県こわい城』(エンターブレイン)『地獄のサラミちゃん』(祥伝社)などのかわいらしいギャグまんがも描いている朝倉世界一ですが、『アポロ』(イースト・プレス)のような、ギャグだけではない名作も描いています。『アポロ』の後半部に漂うニヒリズムは、まるでヌーヴェルヴァーグみたいで、本当に格好良かったなあ......。   
 今回ご紹介する『デボネア・ドライブ』は、その『アポロ』の系統に連なる、朝倉世界一の最新作です。どんなまんがかと言えば......帯によれば「ファンタスティック・ロード・コミック」! アヤシく素敵な旅の仲間はエチゼンくん、モモヤマさん、マリちゃん、会長さん。かつては武闘派ヤクザだったけれども、今ではすっかり年老いて、子どもに戻ってしまったような会長さんを、千葉から津軽の老人ホームへと送り届けるための旅はまだはじまったばかり。かつて会長さんが特注した超大型高級車に乗ってひたすら北をめざすだけ......のはずが、謎の追っ手が!?  さらには死神までもが現われて!? 死神は告げる、「会長さんたちは/いろんなものに/追いかけられて/るんですよ」......彼らの旅はこの先いったいどうなってしまうんだろう? もう何が起こってもちっとも不思議じゃない、ヘンテコな道行き、マジカルでミステリアスな旅路。今後の展開がゆるゆるふわふわと楽しみ。こういう雰囲気、大好きですよ、でもゲロは出ないや......。

 それでは、また次回!

2008年12月03日