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第24回 『毎日が本番のお仕事!』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 12月の別名は「師走(しわす)」。何かと慌ただしい年末、あまりの忙しさに先生だって思わず廊下を走っちゃいます!......この言葉を見聞きするとそんなイメージがいつも思い浮かびます。といっても、「師走」の語源としては、忙しくなる「師」というのはお坊さんのことであって、学校の先生ではないのだそうですが......。

 それにしてもニュースなどを見ていると、現代の教育現場は、年がら年中、難しい問題が常に山積みのようですね。学校で教わる子どもの側の問題のみならず、学校に子どもを通わせている親の側の問題、いわゆる「モンスターペアレント」についての話題も目につきます。さらには、教える側である先生の不祥事の報道も後をたちません。昨今の教育問題についての、ピリピリした雰囲気のニュースを見るたびに、自分が教わる側だった頃の学校でも、いろいろな事件や問題が起こっていたのに、今に比べればまだのんびりしていたかも?と、思うぐらいです。
 現在のわたしの身近にいる学校の先生たちは、みんなすごく真面目で物知りで、さすがだなあ、と感じ入ってしまうような人ばかりなのですが、仕事はやっぱりとっても大変そうです。日々の授業をするだけでも準備からして大変なのに、学校の行事があったり、部活の指導があったり、と、休日返上が当たり前の忙しさ、しかも何かにつけてストレスの種が尽きなさそうな職場......! プレッシャーに弱いわたしなんかは話を聞いているだけで、お腹が痛くなってくるような過酷さです。
 だけど、「教師」という仕事にやりがいを感じている人の表情というのは、疲れを感じさせることなく、むしろいきいきと輝いて見えるので、つくづく、学校の先生って不思議で素敵な職業だなあ......などと、今さらながら、ちょっと憧れたりもするのでした。

 前回でご紹介した『イノセントブローカー』(加藤山羊/小学館)の藤井や、『さよなら絶望先生』(久米田康治/講談社)の主人公である糸色望のように、「人として軸がぶれている」先生が、まんがの中だけではなく、現実にも相当多いのだとしても、一方で、一生その出会いが忘れられない、大切な記憶になる、そんな素晴らしい先生がいるのもまた事実です。今回は、そうした先生が主人公のまんがをご紹介しようと思います。

『ハガネの女』(深谷かほる/集英社)

ハガネの女
『YOU』にて連載中
●深谷かほる・著
●集英社 既刊2巻
●定価 420~440円(税込)
●最新刊3巻が12月19日発売!

 主人公である芳賀稲子の学生時代からのあだ名は「ハガネ」。いざという時に、何にも負けない強さと優しさを発揮することができる、そんな性格の彼女にとって、小学校教師という仕事はまさに天職である、といっても過言ではないでしょう。
 結婚のため、一度は学校を辞めたハガネでしたが、結婚が破談となってしまったところに、ちょうど友人の教師から相談を受けたこともあり、臨時採用の教員として、再び学校に戻ることになりました。
 ハガネが受け持つことになったのは、公立小学校の4年さくら組。隣のクラスの担任である、友人の先崎がハガネに打ち明けたさくら組の問題とは、わずか1年半の間に担任が3人、次々と学校を辞めていってしまったこと。一見したところ、ごくごく普通のクラスで、不登校の子が2人いる以外には、そんなに大きな問題を抱えているようには見えません。しかし、担任となった3人もの教師が再起不能になったのも事実なのです。教室の中で、一体何が起こっているのか......? 4人目の担任として着任したハガネが、さくら組の子どもたちと向き合うことになります。
 小学校の先生は、全教科を担当するのが原則なので、毎日がとにかく大忙し! その多忙な日々の中で、ハガネはさくら組の問題点を見つけ出し、解決しなければなりません。学校内で動くだけでなく、家庭訪問などを通じて、保護者との連携を何とか作ろうと試みるハガネですが、クラスに共働きの保護者が多いこともあって、なかなかうまくいきません。
 それでも、クラスの中でいじめられっ子になりかかっていた広と、その母親の証言をきっかけに、ハガネはさくら組の問題の真相へと迫っていきます。さくら組が抱えている問題とは、ハガネや先崎といった教師サイドの予想をはるかに上回った、複雑で深刻なものでした。子どもたち��内面は、大人の一方的な思いこみではなかなか理解しがたく、その上、大人である親も教師も、それぞれに問題を抱えこんでいたのです。ハガネもまた、勘違いから失敗をしてしまい、反省をし、謝罪もし......しかし、ハガネの身を挺した奮闘によって、さくら組には大きな変化がもたらされるのでした。
 ハガネというキャラクターの、人間としての、そして教師としての最大の魅力は、強靭な精神力以上に、相手の言葉に虚心に耳を傾けようとする、その態度だと思います。相手が大人であっても子どもであっても、その存在を受け入れて、話をきちんと聞いてから、自分の判断を決め、対応を考える。もしも自分が間違いを犯したら、その非を認めて、素直に頭を下げて謝る。誠心誠意、と一言で言ってしまうと、当たり前で簡単な心構えのようですが、本気で実践するのは、なかなか難しいことだと思います。
 35歳、結婚話がご破算になって独身、教員といっても臨時採用であるハガネ、実は自分の人生の先行きにちょっぴり不安を感じていたりもするのですが......こんな素敵な女性、なかなかいませんよー! 問題クラスだったさくら組をガラリと生まれ変わらせてしまう、そのポジティブなパワーは、読者であるわたしの目にも眩しく、美しく光り輝いて見えます。

『鈴木先生』(武富健治/双葉社)

鈴木先生
『漫画アクション』にて連載中
●武富健治・著
●双葉社 既刊6巻
●定価 860円(税込)

 読む前に表紙を見て、これはきっと学校の先生が主人公のギャグまんがなのだ!と、なぜか確信していたのですが、読んでみたら、実際には全然違いました......。いえ、ある意味、すごく笑えるまんがであるのですが、おそらくは読者を笑わせることを意図して描かれた作品ではありませんし、何よりも鈴木先生本人が、いつだっていたって真剣、全力で本気なのです......!
 主人公である鈴木先生は中学校の国語教師、2―Aの担任であり、メガネとループタイがトレードマーク。生徒からは慕われ、職員室では一目置かれ、最近になって麻美さんという恋人もできたばかり。そんな鈴木先生のクラスで次々と起こる、ちょっとした、しかし当事者たちにとっては非常に重大で深刻な事件を中心に、ストーリーが展開されていきます。
 1巻を最初に読んだときの感想は......「キモいよ! 鈴木先生!!」でした。どうしてそういう印象を持ったのかというと、クラスの女子、小川に並々ならぬ執着を感じて、悶々とする鈴木先生の姿が描かれているからです。個人的に気に入っている女子生徒、という範囲を飛び越えて、ヌードの小川が登場する夢を見てしまって、ひとりで延々と煩悶する鈴木先生......。
 「男の人をキモいって言う女は最低だ」というのが鈴木先生の指導のひとつで、それは確かに正論なのかもしれないのですが、キモいものはキモいんです!とやっぱり言いたい! 小川への思いは、やがて鈴木先生の心の中で美しく昇華されていくのですけれども、それはそれでちょっとなあ......と、正直、感じてしまうようなプロセスだったりするのでした。
 もしも、中学生のときのわたしが鈴木先生のクラスにいたら、ものすごく反抗的に振る舞ってしまいそうな気がしてなりません。でも、そんな風に考えるのは、本当なら見えないはずの、ほとんど喜劇と化しているような鈴木先生の内面のドラマを見てしまっているからなのでしょう。心の中では脂汗をダラダラかきつつも、常に生徒たちと真摯に対話を続けようとするのが、教師としての鈴木先生なのですから。その心の中の葛藤をまったく知らなければ、真面目で誠実な良い先生として、好感だって抱けるのかもしれません......。
 些細に見える問題に関しても、必死に考え抜いて、論理を一貫させようと努めながら、言葉を用いることが、鈴木先生の最大の武器です。ぎりぎりまで考え抜いて、自分の肉体や感情も含めて、すべてを言語化すること。他人の感情の流れを読み切って周囲の状況をコントロールすること。対話や交渉や説得といったコミュニケーションの手段を尽くして人間関係を乗り切ること。その上で自分の職務を全うすること、常に引き裂かれながらも決して壊れずに。そのような鈴木先生の方法論は、いまを生きるためのひとつの処方でもあるようにも思えます。

 それでは、また次回!

2008年12月15日