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まんてんセレクション

第25回 『このまんがで生き延びた!2008年』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 今年も残すところあとわずかとなりました。みなさんにとっての2008年はどんな年でしたか? わたしの2008年は......1日1日がなんだかとてつもなく長いように感じていたのですが、年末の今になって、あらためて振り返ってみると、何もしていないのに、あっという間に1年が過ぎ去っていってしまったような気もしてきました......うーん、これっていったい、どういうことなんでしょうね?

 まんがだって、去年よりもさらにたくさん読んだなあ、と思っていたのに、年末恒例のまんがランキングをチェックしてみると、全然読んでいないまんががいっぱい。ようし、来年はもっとまんがを読むぞーと決意したのですが、わたしの部屋はすでに本でいっぱいだったりして......。大掃除もそりゃあもう大変ですよ! やる前からやる気が失せるぐらいですよ! まったくもう! でもいいんだ、だって、まんがを読むのって、やっぱり楽しいんだもん!

 そんな、まんが大好きなわたしが選ぶ、今年のまんがマイベスト5を、今回はみなさんにひっそりとお伝えしたいと思います。まんががあるから今年もどうにかがんばれました、まんががあれば来年も生きていけます、たぶん......。

『西遊妖猿伝 西域篇』 (諸星大二郎/講談社)

 今年の2月に「栞と紙魚子」シリーズを取り上げたときには、まったく予想もしていなかったんです、まさかまさか、『西遊妖猿伝』の続きを読めるようになる日が、同じ年の内に訪れるだなんて!  『モーニング』のサイトで「10月23日発売、No.47より隔週連載START!」の予告を発見したときは、本当にびっくりしたなあ......。
 『西遊妖猿伝』をはじめて読んだとき、わたしは小学生でした。何度読み返したかもうわからないぐらいだけれど、何回読んでも、この作品は最高に面白くて、その続きがいつでも楽しみ! 『西遊記』をベースに、知識と想像力をダイナミックに駆使して、史実とフィクションを縦横無尽に組み合わせた一大伝奇冒険活劇を、ライフワークとしてずっと描き続けてきた、諸星大二郎は本当にすごいまんが家だし、『西遊妖猿伝』はこの方にしか描けない、まごうことなき傑作であると思います。首を長―くして待ち望んでいた連載再開、こんなにうれしいことはなかなかありません!

西遊妖猿伝

現在「モーニング」にて連載中の『西遊妖猿伝 西域篇』のこれまでが気になる方は、潮出版社から刊行されている『西遊妖猿伝』全16巻も要チェック!

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『GIANT KILLING』 (綱本将也・ツジトモ/講談社)

GIANT KILLING
『モーニング』にて連載中
●綱本将也・ツジトモ著
●講談社 既刊8巻
●定価 570円(税込)

 「わあ....../見える 見える......」(第5巻)
見開きの中に描かれた椿選手のプレイに、ゾクッとするほど魅了され、そして、心励まされました。うわあああああ、がんばれ、バッキー......!!(涙目)
 「重度のチキン(腰抜け)」で、好不調の波が激しいながらも、確実に成長を遂げているミッドフィルダーの椿大介。彼が所属する弱小チームETU(East Tokyo United)の選手たち。そして彼らを見守るサポーターたち。『GIANT KILLING』は、そうしたETUに関わる人々すべてをひっくるめた群像劇となりつつあります。チームワークって何?など、サッカーだけに限定されない問題について、ハッと考えさせられたり、思いがけずヒントをもらったりしたことも。
 主人公は35歳の若き天才��督・達海猛なのですが、彼の選手としての黄金期と、その後、監督になるまでの過去には、まだ描かれていない空白があります。現在、連載では選手たちが活躍するリーグ戦が進行中で、その行方も気になりますが、秘められたままになっている達海の過去が、いつ明らかにされるのかも気になるところです。というか、来年、わたしったら達海監督と同じ年になっちゃうんですよ! このまま現在のペースでストーリーが進行していくと、再来年には確実に、達海の年齢を追い抜いてしまうー!

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『ハチワンダイバー 』(柴田ヨクサル/集英社)

ハチワンダイバー
『週刊ヤングジャンプ』にて連載中
●柴田ヨクサル・著
●集英社 既刊9巻
●定価 530~540円(税込)

 その脅威のハイテンションがちっとも衰えることのない『ハチワンダイバー』、今年も実写ドラマ化などで大いに注目を浴びました。「イナズマみたいなネーム力」(『ハチワンダイバー』第5巻帯掲載の羽海野チカ応援コメントより)は弛緩知らず、いや、それどころか、謎の将棋組織「鬼将会」編に突入してからは、そのパワーをさらなる勢いで炸裂させています。
 しかし、主人公であるはずの、ハチワンダイバーこと菅田の微妙な情けなさもあいかわらずです。でも、まあ、ヒロインのアキバの受け師さんとのラブコメパートが成立するのは、彼のその情けなさがあってこそ、なのですが......。一方、澄野戦における受け師さんの格好良さは実に圧倒的でした!
 「実際の腕力では/男の人に勝てない ...でも 将棋の/腕力は/別よ」(第6巻)
 澄野のセクハラ発言にひるむことなく、そう言い放った彼女の眼光の鋭さ、そして、恐るべき強さ。うおおおおー、カッコイイ!
 今年読んだすべてのまんが、すべての本の中の言葉で、もっとも強烈に印象に残っているのは、実は、『ハチワンダイバー』第8巻に収録されている、澄野の言葉だったりします。ほぼ見開きに近い、2ページにわたる大ゴマはその大半がネームで覆いつくされており、その間に描かれているのは、涙と汗でドロドロの菅田の片目と、彼に語りかけている澄野の顔だけ。
 「戦う時は戦うんだよ 奇声を/あげながら 原始人の/ようにな」(第8巻)
こうした激しい、焦げそうなほどに熱くて、鋭い『ハチワンダイバー』のネームの数々が、わたしの心に、すでにグッサリと刻みこまれています。

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『同級生』(中村明日美子/茜新社)

同級生
●中村明日美子・著
●茜新社 EDGE COMIX 全1巻
●定価 650円(税込)

 普段はBL(ボーイズラブ)をほとんど読まないわたしが、この単行本を手にとったのは、表紙の絵があまりにもきれいだったから。しかも、読んでみると、青春恋愛まんがとしてすごく良質な作品で、これはBLですよ、といったジャンル分けを適用するのが無意味に思えてくるぐらいに、この作品にすっかり魅了されてしまったのです。
 男子校で同じクラスの草壁光(くさかべ・ひかる)と佐条利人(さじょう・りひと)。
 まったくタイプの違う二人が、気がつけばお互いに惹かれあっていて、いつのまにか恋に落ちていた......。主人公である彼らふたりの心の動きが、繊細で美しい線によって、この上なく切なく描き出されていきます。どうしようもなく好きになってしまったけれど、その気持ちをどうしたらいいのか、わからない。しかも、好きになった相手は同性で、何をどうすればいいのか、ますますわからなくなる。ずっと一緒にいたい。でも、一緒にいると、なんだかちょっと苦しくなる。だけど、一緒にいないともっと苦しい。そんな、むずむずするような恋愛初期独特の高揚感は、相手が異性であっても同性であっても、恋をする者ならば誰でも一度は体験する、不思議な感情ではないでしょうか。
 わたしの場合、以前ならば、そうした初々しくて、ちょっともどかしい恋愛感情が描かれているまんがを読むと、ええい、はがゆい!こそばゆい!といった気持ちが先立って、もっとドライな雰囲気の恋愛もののほうが好ましく思えたのですが、近年は逆に、この『同級生』や『君に届け』(椎名軽穂/集英社)のような、初恋や片恋における「好き」という感情の純粋さやナイーブさ、デリケートさが、きらきらとまばゆく、美しく描かれている作品のほうが、やけにグッと来てしまうようになりました。それって一種の加齢現象なのかも?などと、ふと考えずにはおれない今日この頃です......。

『少女漫画』 (松田奈緒子/集英社)

少女漫画
●松田 奈緒子・著
●集英社 クイーンズコミックス 全1巻
●定価 880円(税込)

 涙を流しているキラキラの巨大な目だけが描かれた表紙からしてインパクト大! しかも、この作品は、そのタイトルどおり、「少女まんが」というジャン��そのものを描き出そうとした、非常に野心的なまんがです。言いかえれば、少女まんがを夢中になって読み続けて大人になった、「元少女」の作者が「元少女」の読者たちのために描いた、まんがによる少女まんが批評なのです。批評といっても、論理的に考察が展開される文字中心のまんが評論書と違って、エンターテインメント性十分の連作ストーリーとして描かれているので、楽しみながら読むことができます。しかも、その観点は、ノスタルジーのみにとらわれることなく、シャープでクリア。少女まんがと青年まんがの違いについて、など、まんが制作の現場を日々体感しているプロの実作者ならではの冷徹な洞察には、思わずハッとさせられました。
 池田理代子『ベルサイユのばら』(集英社)、美内すずえ『ガラスの仮面』(白泉社)、魔夜峰央『パタリロ!』(白泉社)、大和和紀『あさきゆめみし』(講談社)、くらもちふさこ『おしゃべり階段』(集英社)という、少女まんがの名作をそれぞれモチーフにした5つのエピソードと、売れない女性まんが家である俵あんの物語によって構成された『少女漫画』。結末直前の、「少女漫画は/いつだって 私を励ましてくれるから」という俵あんの呟きに、やはり「元少女」であるまんが読みとして、大いに共感しました......!

 それでは、皆さんよいお年を!

2008年12月26日