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まんてんセレクション

第27回 『悪魔が来たりて××××』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 「悪魔」の絵を描いてください、と言われたら、みなさんはどんな姿の「悪魔」を描きますか?
 ヤギのような角、コウモリのような翼、目はつり上がり、口には肉食獣のように鋭い牙があり、とがった耳と三角形の尻尾を持っている、そんな半人半獣の「悪魔」を描く人がかなり多いのではないでしょうか。

 そうした「悪魔」のイメージというのは、西洋のキリスト教文化から派生した「デビル(devil)」、「デーモン(demon)」、「サタン(Satan)」などの図像をベースにしたものです。
 外見にそのような特徴をひとつでも持っていて、人間離れした特殊能力を発揮するキャラクターが、まんがの中に登場していたら、そのキャラはほぼ間違いなく「悪魔」です! たとえ、普段の外見が他の人間と変わりなくても、 キャラ本人が私は「悪魔」で××ですから、などと自己申告していたら、あくまでも仮の姿として人間に化けているのであって、本来の姿がきっと別にあるはずなんです!

 ちょうど1年前の第10回『ヴァンパイアの変貌』では、「吸血鬼」が登場するまんがを取り上げましたが、西洋を起源とする「吸血鬼」も「悪魔」も、フィクションにおける設定として、日本においてもすでに完全に定着しています。その設定をどうアレンジするのかは、物語の作者次第。人間をおびやかす危険な存在として、恐怖の対象であったはずの「悪魔」が、宗教からもオカルトからも遠く離れて、ラブロマンスを演じたり、ギャグをやらかしたり......。今回はそうした「悪魔」らしからぬ「悪魔」たちが登場するまんがをご紹介したいと思います。

花と悪魔(音久無/白泉社)

花と悪魔
花とゆめにて連載中
●音久無著
●白泉社 既刊3巻
●定価 各410~420円(税込)

 魔界においては公爵の地位を持つ大悪魔であるビビは、気まぐれから人間界へと移り住み、自邸の門前に捨てられていた人間の赤ん坊を拾います。花のように笑うその女の子を、「はな」と名付けて育ててみることにしたのも、ビビにとってはほんの暇潰しのつもりでした。
 ビビを無邪気に慕いながら成長して14歳になったはな。はなにとっては、大好きなビビに触らせてもらえないこと、触ってもらえないことが何よりも悲しいのです。一方、ビビは、はなが自分に毎日でも手渡そうとする花を、はなが自分に向ける無垢な笑顔を、素直に受け取ることがどうしてもできません。なぜなら、人間界の花は、悪魔が触れると、脆く儚く崩れ去ってしまうから......。ビビは、花のように笑うはなを、悪魔である自分が触れることによって、花と同じように失ってしまうことを恐れていたのです。
 しかし、はなは、ビビにとってはすでに、何よりも大切で愛しい、かけがえのない存在。だからこそ、はなに触れたい、はなを抱きしめたい、というのが、ビビの本心。魔界でも人間界でも、誰にも何にも興味を持たず、倣岸不遜かつ冷酷非情に振る舞ってきたはずのビビが、はなの純粋な笑顔の前ではまるで形無し、はなのためならば必死になって血相を変え、時には幼い子どものように愛らしい表情すらも見せるのです。あーあ、ビビったらもう、いい歳(200歳!)してまるっきりツンデレなんだから!

 『花と悪魔』に登場する悪魔は、タイトルにもはっきり「悪魔」と入っているのに、悪魔そのものというよりも、悪魔と吸血鬼の間のような特徴を与えられています。空を飛ぶときには背中からコウモリめいた翼を広げますが、吸血鬼についてもそのように描かれることがありますし、また、不老長寿、日光を嫌う、触れると花が枯れる、人の生き血を嗜む、などは、悪魔よりもむしろ吸血鬼の特性とされてきたもの。しかし、細部にそうした混乱をはらみつつ、ビビとはなのピュアな愛情をファンタジックに、この上なくかわいらしく描いているところが、『花と悪魔』の面白さでもあります。
 ビビの屋敷はヨーロッパの古いお城のような石造りの建物。そこでは、ビビに付き従っているトーニをはじめ、メイドやシェフとして悪魔が働いています。ビビもはなもヨーロッパ風の服装をしていて、ヨーロッパの貴族のような生活をしているのですが、どうも舞台は明治から大正の日本のような......? 第3話でお月見をし、第4話ではハロウィンパーティーをしたかと思えば、第6話ではお正月になって、みんなで神社に初詣に出かけます。悪魔が初詣って......!! ビビならずとも「意味わかんねーよ」と思わずツッコミたくなりますが、読者であるわたしたちの生活だって、まさにそういう「意味わかんねーよ」な状態であるわけで。そういえば、『聖☆おにいさん』(中村光/講談社)では、ブッダとイエスが立川のアパートで同居していて、神社のお祭りでお神輿を担いで大はしゃぎ、クリスマスにはごちそうを準備してパーティー、大晦日には除夜の鐘を撞(つ)きにお寺に行くんですよね......はいはい、細かいことは気にしない! まんがとして面白ければそれでいいんです!

よんでますよ、アザゼルさん。(久保保久/講談社)

よんでますよ、アザゼルさん。
イブニングにて連載中
●久保保久著
●講談社 既刊2巻
●定価 各560円(税込)

 東京都内の雑居ビルの3階にある芥辺(あくたべ)探偵事務所で事務のアルバイトをしている大学生の女の子、佐隈(さくま)。ある日、芥辺に導かれて、佐隈は「開かずの部屋」へと足を踏み入れます。表向きはただの探偵である芥辺、なんと、その正体は、悪魔を召喚し、使役するという能力を持つ、恐るべき悪魔探偵だったのです! 芥辺が唱えた呪文により、魔界から召喚されて、魔法陣の中へと姿を現わした悪魔が......ちゃぶ台でちんまりと夕食中のアザゼルさん。角がある、翼がある、尻尾がある、でも、三頭身のその姿は犬にそっくり! 彼の職能(特殊能力)は「淫奔」。特技はセクハラ、関西弁で下ネタをのべつまくなしにしゃべりちらします。芥辺に悪魔使いとしての素質を見こまれて、アザゼルとの契約を押しつけられてしまった佐隈。それ以降、彼女の人生は、なりゆきでとんでもない方向へとずんずん突き進んでいくことに......・。 

 アザゼルさん以降、「暴露」のベルゼブブ、「革命」のサラマンダー、「嫉妬」のアンダイン、「暴虐」のモロクなど、続々と登場する悪魔たち。彼らは芥辺が建物全体に張っている結界を一度通過すると、それ以降、人間界にいる間は、魔界における本来の姿ではなく、動物に似た、三頭身の滑稽な姿になってしまいます。しかし、ベルゼブブ曰く、「いくら/プリチーに/見えても/我々は悪魔」! 悪魔の職能の効果に人間は逆らえず、また、悪魔の取り扱い説明書である魔術書「グリモア」の法(ルール)は、悪魔使いにも悪魔にも適用されることになっており、それに違反すれば、恐ろしい罰が下されるのです。最悪の場合には、死に至るよりももっと酷い目に遭うことも......。どんな悪魔も恐れさせ、屈服させてしまうほどの、強力な術者である芥辺が身近にいるとは言っても、何よりも自らの欲望に忠実、隙あらば芥辺の支配下から逃げ出そうと常に企んでいるアザゼルやベルゼブブと契約している悪魔探偵見習いの佐隈は、グリモアと悪魔の恐ろしさを、身をもって何度も体験することになります。

 アザゼルのセクハラのみならず、えげつないネタが過激に頻出する本作。悪魔それぞれの職能も性格もそうとうブラックなのですが、芥辺探偵事務所に持ち込まれる依頼を中心に進むストーリーも毒々しく、そのすみずみまでえぐいネタが満載! 読んでいるといつのまにか忍び笑いが止まらなくなります。だって、第1話の冒頭からして、見覚えのある他の作品のキャラクターたちが、あんなことやこんなことを......! このネタ、怒られませんでしたか、アザゼルさん......? その上、第1話のような、誰が見てもすぐにわかるようなネタだけではなくて、ちょっとマニアックなネタも随所に。ふんどし一丁で下駄履き、腰の刀を抜刀しては時代がかった演説をぶつ憂国の侍、マンダはんの本名はサラマンダー公威(きみたけ)。実はこのファーストネームはとある作家の本名と同じなのです。このネタも、かなりヤバイんじゃないでしょうか、アザゼルさん......?

 それでは、また次回!

2009年03月10日