まんが☆天国 TOP > まんてんセレクション >  第28回 『おっさんだって生きている』

まんてんセレクション

第28回 『おっさんだって生きている』

木村カナ(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 昨年の流行語のひとつになった「アラフォー」。40歳前後の女性を指す言葉だそうですね。30歳を過ぎて、世間からの「20代のうちに、30代になる前に!」という、さまざまなプレッシャーからようやく解放された、とホッと一息ついたばかりなのに、気がつけば今年で35歳、今度は「アラフォー」の仲間入り......。しかし、世の中のそうした年齢別・世代別のすべてが、まるっきり他人事のような気がする今日この頃です。

 それでも、年齢のことなんかまったく気にならない、と言ったら、嘘になります。頭の白髪もだんだん増えてきていますし......あーあ。
 「アラフォー」の中心となる40歳のことを「不惑」とも言います。『論語』の中の孔子の言葉、「四十にして惑わず」に由来するのだそうです。40歳ともなれば立派な大人、分別もできる、働き盛りでもある、つまりは人生の安定期? わたしだって、かつてはそんな風に思っていました。しかし20歳で成人、その前後で社会人になって、みんながみんな、大人として、その後も同じように年を重ねていくのかと言えば......実はそうではないのかも?
 今回は、40歳を過ぎてから、うっかり新しい人生へと足を踏み入れてしまった、無駄にチャレンジャーな男たち、名前は「黒」なのに精神的にはどうしようもなく「青」臭い主人公が登場するまんがをご紹介します。

『最強伝説 黒沢』(福本伸行/小学館)

最強伝説 黒沢
●福本伸行・著
●小学館
●ビッグコミックス全11巻
●定価 各530円(税込)

 高校卒業以降、建設会社で26年間、地道に働き続けてきた男、黒沢。彼の人生を変えてしまったのは、2002年のワールドカップ。同僚たちとはしゃぎながら、テレビ観戦を楽しんでいた黒沢は、自分の胸の奥がどんどん冷えていくのを感じていました。44歳の誕生日を迎えた彼の心をさらに追い詰めるのは、自分自身のそれまでの人生の単調さ、寂しさ、みじめさ、過去への後悔と未来への不安......。深夜、人恋しさに泣き濡れながら、彼は自らの生き方を変えようと決心し、まずは、職場での人望を得るための努力をはじめるのです。
 現場に缶ビールを差し入れする、仕事帰りに後輩を誘う、みんなの弁当にこっそりアジフライを入れる......すべてが失敗、むしろ逆効果! そういうどん詰まりの、しみったれた苦悩から、黒沢の「最強伝説」は、唐突にはじまります。とは言え、作者はギャンブルまんがの名手・福本伸行! 黒沢のショボイ葛藤も、命がけのギャンブルの緊迫感を描いた傑作、『カイジ』や『アカギ』並みの異常なハイテンションで描写されることによって、意外な迫力を帯びます。福本伸行作品ならではのあの書き文字「ざわ... ざわ...」ももちろん登場。黒沢の滑稽で悲惨な決意と努力は、それまでの平穏な日常を決定的に変質させる抗争、地域の不良少年グループとの果てしなき戦いへと、やがては繋がっていくのでした。
 頑丈であること以外に何の取り柄も持たず、職場では変わり者として敬遠されがち、無骨なルックスと挙動不審ゆえに女性と無縁で独身、唯一の楽しみは安居酒屋でのひとり晩酌、と、格好良いところのちっともない、あまりにもヒーローらしくないヒーローである黒沢。しかし、極限まで追いこまれたときの、彼の熱い魂の雄叫びは、周囲の人々の心を揺さぶり、敵の精神を脅かし、読者に強烈な印象を残すのです。
 そんな黒沢の奇怪なヒーローぶりを大いに笑え! そして、衝撃の結末に泣け!!

『俺はまだ本気出してないだけ』(青野春秋/小学館)

俺はまだ本気出してないだけ
月刊イッキにて連載中
●青野春秋・著
●小学館 既刊3巻
●���価 各620円(税込)

 大黒シズオ、41歳。自分探しを理由に15年勤めた会社に辞表を提出。ファーストフード店でバイトをしながらまんが家を目指しています。
 『最強伝説 黒沢』の主人公・黒沢は、定職はあるけれど、はっきりとした目標を持たず、ひとり暮らしで日々、孤独感にさいなまれています。一方、本作の主人公・シズオは、父と娘という心配してくれる家族がいて、一緒に飲みに行ける友人もいて、まんが家デビューという明確な目標も持ってはいるけれど、編集部への持ちこみはボツの連続、バイト先では若者からバカにされっぱなし。黒沢とシズオ、どちらも世間の40代男性の平均からすれば規格外、うーん......それでも選ぶとしたら、どちらの方がマシな暮らしでしょうか......?
 シズオはひたすら自分に正直に、マイペースに生きているように見えます。彼の言動は、基本的には情けなさ全開で非常にみっともないのですが、時たま、とてつもなく清々しく感じられます。

「いつからだ?/いつのまに俺は、
 こんな『残念な感じ』になっちゃったんだ......!?」(1巻)

 その「残念な感じ」を埋め合わせするかのように、「俺、本気出すわ」と一方的に宣言して、まんがを描き続けるシズオなのですが、しかし!

「......あらん?/てゆーか......
 来ちゃってない? 将来......
 俺、将来中じゃん...... 今。」(2巻)

 このしょっぱさ、もはや苦笑いするしかありません......。
 自分探しの袋小路にはまりこみつつある中年男性が、まんが家デビューを目指している、この『俺はまだ本気出してないだけ』(月刊イッキ連載中)と、夢も希望もはちきれんばかりの少年たちがまんが家になろうとしている『バクマン。』(大場つぐみ・原作、小畑健・作画/集英社 週刊少年ジャンプ連載中)の連載が同時に進行していることが、2009年現在のまんがの面白さであるような気がします。

 それでは、また次回!

2009年04月06日