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第2回 『残酷時代劇まんがにおける美意識』

木村カナさん(文筆業)

■怖がりゆえの怖いもの見たさ...
 こんにちは、木村カナです。怖がりやのくせに、怪奇、恐怖、狂気、苦痛、残酷......そういう傾向をはらんだ表現物に、ついつい心惹かれてしまうのです。

 初登場の前回は、爽やかな青春の汗が光るスポーツまんがをご紹介しましたが、今回は一転、時代劇まんが、しかも、情緒と人情味が漂うしっとり系統の作品ではなくて、酸鼻をきわめるバイオレンス描写がぎっしりの作品を取り上げたいと思います。

■『シグルイ』(南條範夫原作・山口貴由画/秋田書店)

シグルイ

 ドロドロに血みどろの表紙、「このまんがは絶対にヤバイ!」という不穏な雰囲気を思いっきり発している『シグルイ』。表紙からしてすでにヤバイんですが、中身はもっとヤバイんです......!
 原作は、かつて時代小説界に「残酷」ブームを巻き起こした南條範夫の『駿河城御前試合』(徳間書店刊)。駿河大納言忠長の御前で行われた十一番の真剣試合を描いた作品です。これをベースに、「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」の一文でも有名な、江戸時代中期に出され、武士道を説き、武士のバイブルとなった『葉隠』への共感と理解をふまえて、山口貴由が描き出しているのが、この『シグルイ』という作品。なお、『シグルイ』というタイトルは、『葉隠』にある「武士道とは死狂いなり」という一文に由来するそうです。
 冒頭で登場するのは、駿府城での前代未聞の真剣試合において、立ち合ったふたりの剣士、藤木源之助と伊良子清玄。そして、彼らそれぞれに付き従った美女、三重といく。四人の間で絡み合った因縁とは?!......「虎眼流」、その当主であった濃尾無双とうたわれた剣客・岩本虎眼。この狂暴の老剣客を中心とした過去の確執が、その発端である伊良子清玄の虎眼流入門まで遡って、そこから描かれていくことになります。

■『無限の住人』(沙村広明/講談社)


無限の住人

 「百人斬り」の異名を持つ凄腕の賞金首であり、さらに、体内に「血栓蟲」を寄生させられたことにより、不老不死の肉体となった万次は、失った妹の面影を宿した凛の願いを聞き入れて、彼女の仇討ちの用心棒となります。ふたりが追うのは太平の世に戦国の剣を甦らせようとする「逸刀流」、その若き統主・天津影久。
 天津たちは自ら起こした「逸刀流」の実力を世に知らしめるために、江戸の剣術道場を次々と襲って併合していました。そして宿年の怨敵「無天一流」の道場主であった凛の父親も、「逸刀流」の襲撃を受けて、力及ばずに一刀両断にされてしまったのでした。
 「逸刀流」の剣士たちと壮絶な斬り合いを繰り広げる万次。切られたり刺されたり分解されたりしつつも、不死者ゆえの回復力を発揮して、万次は戦い続けます、妹の代わりに凛を守り抜くために......。

■残酷時代劇の美意識
 『シグルイ』も『無限の住人』も、斬った斬られたの血生臭い時代劇まんがで、その肉体描写が残酷で凄惨です。特に『シグルイ』の人体損傷の描写はあまりにも凄まじい。血液はもちろん、皮膚、筋肉、骨、さらには内臓までもが、露出して、破壊されて、飛び散って......リアルな迫力に溢れすぎです!

 『シグルイ』の原作者である南條範夫の談話「残酷について」が、『シグルイ』第一巻巻末に収録されていますが、その中で南條はこう語っています。「人間の感情が極端にはしるところに残酷はうまれる」。
 この談話は時代小説というジャンルとその動機について語られたものですが、広く解釈すると「残酷を描きたい・読みたい・見たい」、そういった欲望もまた残酷を生み出す、極端な感情そのものであると同時に、程度の差こそあれ、誰もが持っている感覚ですし、それを研ぎ澄ませることで、ある種の美意識へと昇華することもあると思います。(もちろん、残酷への欲望があんまり行き過ぎるとただの危ない人、実践にまで及んだら、すなわち犯罪ですけれども......。)

 『無限の住人』の絵柄に漂う独特の、艶めかしい雰囲気が、わたしはかなり好きです。特に、立ち回りの決めゴマ、見開きの鉛筆画が、カッコイイ!と思うのですが、たいていは、現実的にはありえないぐらいに不自然な体勢である上に、そこでは人体が盛大に切り刻まれて血が思いっ切り噴き出している。
 もしも、そんな惨殺死体が転がっているのを目の当たりにしたら、ショックのあまり、どうにかなっちゃうんじゃないだろうか、と思うのですが、そんな光景は現実にはまずありえない、と頭のどこかで勝手に判断しているから、カッコイイ!などと、のんきに眺めていられるのかもしれませんね。

 それでは、また次回......。

2007年10月01日