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第4回 『トンデモ三国志まんがの快楽原則』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 四方田犬彦『漫画原論』(ちくま文庫)という本の中で、日本のまんがの歴史とその多様性を語った興味深い論考を見つけました。その題材として取り上げられていたのが、『西遊記』。この中国古典の物語が、日本のまんがの中でどう描かれてきたか、について分析・検討しているのですが、それと同様に......いや、もしかしたらそれ以上に、日本のまんが界に大きな影響力を与えた作品として『三国志』が挙げられるのではないでしょうか。

 日本でもすでに幅広く親しまれている『三国志』。そのベースとなっているのは、中国の歴史書『三国志』と小説『三国志演義』です。このうち『三国志演義』をもとに大衆向けの歴史小説『三国志』を書いたのが、『宮本武蔵』などの著作で人気の国民作家、吉川英治でした。そしてこれを原作にまんがを描いたのが横山光輝。この横山光輝の『三国志』(潮出版社)こそが、これからご紹介する、「三国志まんが」の原点であり、スタンダードであると言えるでしょう。
 わたしと同世代(1970年代生まれ)なら、横山光輝『三国志』を中学生の頃に読んだ、という記憶がある男性は、けっこう多いはず。世代論を続けると、NHKの『人形劇 三国志』を子どもの頃にテレビで見ていた、という人も、かなりいるのではないでしょうか。ちなみに、わたしが『三国志』に興味を持つようになったきっかけも、『人形劇 三国志』でした。その興味の延長で、コーエーのゲーム『三国志』シリーズ・『三国無双』シリーズもプレイしました。
 小説・まんが・テレビ番組・ゲーム......各メディアに「三国志」を題材とした人気作品が現れたことによって、学校の授業ではほんの概略しか習わないはずの『三国志』が、今ではひじょうに身近に感じられ、また追随する「三国志まんが」が数多く誕生し、わたしたち読者を楽しませてくれる背景ともなっています。

横山光輝『三国志』以降の「三国志まんが」としては、次のような作品があります。

本宮ひろし『天地を喰らう』(集英社)
ジャンプ連載開始時、そのあまりのエロさが小学生の私には衝撃でした。
山原義人『龍狼伝』(講談社)
中学生カップルが三国時代にタイムスリップして大活躍!
王欣太『蒼天航路』(講談社)
「乱世の奸雄」として悪役にされてきた曹操(そうそう)を主人公に据え、魅力的に描いた作品。
諏訪緑『諸葛孔明 時の地平線』(小学館)
少女まんが誌に連載。
宇多川友恵『猫さんごくし にゃー』(コーエー )
ほのぼの猫まんがとしてウェブ連載中。
鈴木次郎『まじかる無双天使 突き刺せ!!呂布子ちゃん』(スクウェア・エニックス)
萌え系魔女っ子ギャグの作品。

 四方田犬彦氏が『西遊記』で論じた「日本の漫画の多様性」は、「三国志まんが」においても同じことがいえると思います。今回は、上記のほかにも数ある「三国志まんが」の中から、特に個性的な2作品をご紹介したいと思います。

『覇―LOAD―』(武論尊・池上遼一/小学館)

覇―LOAD―
『ビッグコミックスペリオール』連載。
●武論尊原作/池上遼一著
●小学館 既刊9巻
●定価  530円~550円(税込)

 「"超"三国志」という副題がつけられているだけあって、何もかもがハイパーに荒唐無稽な「三国志」。なにしろ、日本人がいきなり劉備(りゅうび)に「なって」しまうのですから!
��劉備玄徳は、魏・呉・蜀の三国のうち、蜀を建国した実在の大英雄。『三国志演義』では、主人公的な扱いとなっており、そこでの記述をもとに、誰からも好かれる正義のヒーロー、というイメージが定着しています。
 武論尊原作としては、日本人がジンギス・カンに「なって」しまう、という『王狼』『王狼伝』(『ベルセルク』の三浦健太郎が作画を担当)がすでにありますが、そちらでは、ジンギス・カン=源義経説とタイムスリップという設定が、プロットを支える補助線になっていました。しかし、『覇―LOAD―』のストーリーは、もっと強引かつ過激に展開していきます。
 倭国を統一した邪馬台国の女王・卑弥呼の信頼を一身に受ける奴国の勇将・燎宇(りょうう)。しかし、燎宇の熱き志はすでに倭国にはなく、かつて渡った大陸にあった。あの後漢という国で、自らの漢としての「覇」を極めてみせる! そんな大いなる野望を胸に倭国を離れ、単身、大陸へと渡った燎宇が出会ったのが、劉備・関羽(かんう)・張飛(ちょうひ)の三兄弟。
 ところが、この本物の劉備が、従来の劉備のイメージに反して、凶悪にして無慈悲、実は関羽にも張飛にも嫌われている、という極悪キャラ。この劉備を見限って成敗した燎宇が劉備に成り代わり、燎宇の漢ぶりに感服した関羽・張飛と、あらためて桃園の誓いを立てる......エエーッ!?
 この発端だけでも十分にトンデモでビックリなのですが、さらにこの後も、驚きの展開が次々と。趙雲(ちょううん)が早々に登場したかと思えば、なんだか不自然なルックス。だって、どう見ても、池上遼一描くところの美女の顔をしている......と思ったら、やっぱり女なんですよ! 男のふりをするためには、男装だけじゃ無理があることを本人が自覚しているらしく、なぜか付け髭をしてるんですよ! それが逆に不自然に見えるのに、作品内では、このヒゲがちゃんと通用していて、完全に男性として扱われている趙雲、という不思議。しかも、この趙雲が、劉備に想いを寄せつつも、やむをえない状況で呂布(りょふ)に抱かれてしまい、できちゃった子どもを関羽が引き取って、その男児が関平(かんぺい)を名乗る、という......。エエエエエーッ!?
 既刊の単行本で描かれているのは董卓(とうたく)の専制まで。この董卓も、これまでの単に残虐なだけの董卓像とは一味違い、ほとんど近代的とも言えるような、独自の政治思想に衝き動かされている権力者として、かなり斬新に描かれています。董卓の暴政といえば『三国志』においてはまだまだ序盤。これから一体、どんな"超"展開が待ち受けているのか、楽しみすぎます!

『一騎当千』(塩崎雄二/ワニブックス)

一騎当千
『月刊コミックガム』連載。
■第13巻が初回限定フィギュア付きで販売中。
●塩崎雄二・著
●ワニブックス 既刊13巻
●定価  945円(税込)

 千八百年前の中国における乱世を描いた『三国志』の世界は基本的に男社会。そもそも、メインになっているのが、前線に出て戦う勇猛な武将たちですから、彼らに献策をする軍師も含めて、とにかく男だらけ。信頼関係も敵対関係も、すべてが男同士の絆です。
 ところが、この『一騎当千』の舞台になっているのは現代日本の関東、登場人物は美少女だらけ!......こう説明してしまうと、それなのに「三国志まんが」って?と疑問に思われても仕方がないのですが、これもまさしく「三国志まんが」。だって、彼女たちは、『三国志』の英雄たちの名前を本名として名乗り、戦いに明け暮れる日々を送っているのですから。
 『三国志』の群雄の魂を封じた勾玉が日本に流れ着き、その継承者は「闘士」と呼ばれる特別な存在として、最強を目指して戦うことを運命づけられている、というのが、『一騎当千』の登場人物たちの基本設定。勾玉が先なのか、それとも、名前が先なのか? というツッコミはさておいて、主人公は孫策伯符(そんさくはくふ)なのであります。爆乳で天然ボケの女子高生です。その孫策伯符が、伝説の覇王として天下を取るべく、南陽学院(千葉・呉)に転入。物語の流れとしては『三国志』のエピソードを盛り込みつつも、チラリズムと言うにはサービス過剰すぎる露出の連続、グロ描写も時々ありの、バトル、バトル、またバトル! その結果、曹操孟徳を擁する許昌学院(神奈川・魏)、劉備玄徳を擁する成都学園(埼玉・蜀)の三国鼎立(?)状況となり、最新巻では、ついに赤壁の戦いが開始されました......って、このあらすじからして、ハチャメチャにトンデモですね!
 美少女キャラなのは主人公の孫策だけではありません。劉備・関羽・張飛の義兄弟もみんな女の子! 趙雲も女の子! 孔明(こうめい)と司馬懿(しばい)も両方とも女の子! しかも、美少女キャラには、いわゆる萌え属性が、それぞれ添付されているのです......。
 主要キャラの一人である呂蒙子明(りょもうしめい)なんかは、『エヴァ』の綾波レイそっくりのルックスにメイド服を着用し、キレまくりながら関節技を決めまくる、という設定だったりします。ああもう、かわいい女の子がいっぱい!......というか、新たに登場する闘士が、だんだん女の子ばっかりになっちゃっている気がするんですが?!?

 倭人、すなわち日本人が劉備となって、大陸統一を目指してしまう『覇―LOAD―』にせよ、史実では早世した孫策が美少女に変換されて活躍する『一騎当千』にせよ、『三国志』という素材を用いると同時に、読者がすでに持っている『三国志』についての従来の知識やイメージを覆すような、奇想天外なアイデアをまんがにしています。
 『三国志』プラスアルファ。そのアルファの部分に、超伝奇であろうと美少女バトルアクションであろうと、どんな要素でも補完することができてしまう、という点に、歴史上に実在した『三国志』の英雄たちと彼らが織り成したとされるエピソードの魅力、その懐の深さをまずは感じ入るべきかと。そして、すでに述べたような日本のまんがの多様性、そして、その根源にある想像力の貪欲さって、物凄いエネルギーがあるなあ、とつくづく実感せずにはおれません。
 「日本人が『三国志』の世界で活躍するとしたら?」「『三国志』の世界を現代日本に移すとしたら?」「あの武将が男ではなくて女だったとしたら?」「あの主従関係が恋愛感情に基づくものだったら?」......原典が視点を変えて描かれるだけではなく、原典から引き出された、本来ならばありえないような「もしも......」の欲望が、まんがとして描かれることによって、作品内において実現される。そのように、自由奔放な想像力を糧にして、既存の物語である『三国志』が次々と意外な形に変奏されていく、もはや何でもあり!な、その様相が面白くて、それも「三国志まんが」を読む楽しみのひとつであるように思えます。

 それでは、また次回!

2007年11月14日