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第6回 『五十嵐大介ワンダーランド』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 先日、NHK「BSマンガ夜話」が久々に放送されましたが、ご覧になりましたか? 今回の放送の2日目では、五十嵐大介の『魔女』(小学館)が取り上げられていました。

魔女
『月刊IKKI』にて掲載(現在休載中)。
●五十嵐大介・著
●小学館 1~2集
●定価  660円(税込)

 実は『魔女』を読んで以来、すっかり五十嵐大介ファンになってしまっているわたし。大好きな作品である『魔女』について、「BSマンガ夜話」でどんなトークが交わされるのか、とっても気になって、番組開始時間にテレビの前に座りました。
 推薦したまんが家・いしかわじゅんはもちろん、夏目房之介も大絶賛していたのは、五十嵐大介の圧倒的な画力。そして、番組中で明かされていて、思わずびっくりしたのは、五十嵐大介の緻密な絵が、まんがを描くときに通常使用されている付けペンではなくて、ボールペンで描かれている、という事実でした。
 自分でまんがを描かないわたしには、画材として使用されているペンの違いというのは、パッと見ただけではまったくわかりません。でも、そういう指摘を聞いてから、『魔女』を読み直してみると、その高密度な絵が、自分が日常的に使っているものと同じ、ボールペンという筆記用具で描かれているんだ、と思うと、あらためてびっくりしてしまいました。

 今年8月、『魔女』に引き続いて、月刊『IKKI』(小学館)に連載されている『海獣の子供』の1・2巻、さらに『カボチャの冒険』(竹書房)の単行本3冊が、ほぼ同時に発売されました。この機会にぜひご紹介したいと思います。

『カボチャの冒険』(竹書房)

カボチャの冒険
『まんがくらぶ』などに掲載(連載終了)。
●五十嵐大介・著
●竹書房 全1巻
●定価 690円(税込)

 『カボチャの冒険』は、五十嵐大介が山暮らしをしていた時期の生活を、飼い猫であるカボチャを中心に描いたネコまんが! 活き活きと描かれたカボチャがすごくかわいくて、ネコ好きとしてはまさにたまらない作品です。
 絵の中に、愛が満ち溢れているのが、良い。とても良いのです。
 わたしは『カボチャの冒険』を枕元に置いていて、もう何度も何度も、繰り返し読んでいます。読むたびに、なんとなーく気持ちがホッとして、心が休まるんですよね......。
 そんなことをしているのは、自分だけかと思っていたら、夏目房之介さんも『カボチャの冒険』が大好きで、わたしと同じように、枕元の本棚に『カボチャの冒険』が常に置いてあるのだと、「BSマンガ夜話」で照れくさそうに笑いながら言っていたので、ウワー、仲間がいた!となんだか嬉しくなりました。カボチャかわいいよカボチャ!!!

『海獣の子供』(小学館)

海獣の子供
『月刊IKKI』にて連載中。
●五十嵐大介・著
●小学館 既刊2巻
●定価 750円(税込)

 『海獣の子供』は五十嵐大介初の長篇作品です。『カボチャの冒険』が和み系なのとは対照的に、『海獣の子供』は、『魔女』と同様に、不穏な雰囲気を付き纏わせながら、異世界を描き出すファンタジー。1・2巻は導入部、壮大な物語はまだ始まったばかり......。
 まんがの絵の上手下手、という議論がありますが、五十嵐大介の圧倒的な絵の力、驚嘆に値する上手さを証明する要素の1つとして、「BSマンガ夜話」番組内で指摘されていたのは、本来ならば見えないはずのもの、絶対に誰も見たことがないはずものを、説得力と存在感を持たせて、まんがのコマの連続の中で描き切っている、という点でした。
 『魔女』におけるその例として挙げられていたのは、「第2抄 KUARUPU」に登場する密林の中の精霊です。『海獣の子供』において、同様の例を指摘するとすれば、海の中、特に深海の描写でしょう。
 海の中で生まれ育ったという不思議な少年たち、「海」と「空」。彼らと出会い、心を通わせる、ヒロインの「琉花」。彼女は、子供の頃に、水族館で「海の幽霊」を見た、という奇妙な記憶を持っていました。
 彼らと彼女が出会ったその前後、世界中の海で異変が起き、水族館から魚が消えるという怪現象が頻発していました。断片的に挿入されるそれらのエピソードは、いったいどんな繋がりを、どのような意味を持っているのか? その秘密を体現し、唯一、把握していると思われる「空」は、突然、謎の光を発しながら、海中に没していきます。海岸にひとり取り残された「琉花」が見たものは......?!
 ぞわぞわするような真っ黒な不安を残す場面で、『海獣の子供』の第2巻は終わっています。この2巻のラストシーンは、その先に何が待ち構えているのか、とても怖くて、でも、その続きは、3巻を待って、どうしても確かめなくてはいけない、そんな複雑な気持ちにさせられました。
 2007年に読んだまんがの中から、わたしにとってのベストを選び出すとしたら、いろいろと悩ましいのですが、やっぱり、この『海獣の子供』を挙げたいと思います。2巻までの完成度がすでに素晴らしすぎること、そして、これから描かれていくはずの、深遠なる物語への期待を込めて。

 それでは、また次回!

2007年12月25日