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まんてんセレクション

第9回 『黒はさだめ、さだめはゴス。』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 キーワードは「死」「暗黒」「怪奇幻想」、合言葉は「耽美」「残酷」「可憐」......「ゴシック/ゴス」という言葉で語られる美意識や趣味嗜好の系譜があります。

ジョジョの奇妙な冒険
『週刊少年ジャンプ』にて掲載(連載終了)
■現在、第七部『STILL BOLL RUN』を『ウルトラジャンプ』にて連載中
●荒木飛呂彦・著
●集英社 全63巻
● 『ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン』 全17巻
● 『STILL BOLL RUN』 既刊14巻
●定価 410円(税込)

 「ゴシック/ゴス」とは、もともとヨーロッパにおいて、建築や美術の様式を表す用語でした。その用語が文学のジャンル定義にも使用されるようになり、現在では、映画や音楽、ファッションなど、文化のさまざまな事象に対して、さらに広く用いられるようになっています。そうした「ゴシック/ゴス」的美意識の歴史的な文脈については、『ゴシック・スピリット』(高原英理/朝日新聞社)など、「ゴシック/ゴス」評論書が何冊か出版されていますので、興味のある方はそれらを紐解いてみるとよいでしょう。
 まんがにおいても「ゴシック/ゴス」の要素がしばしば見受けられます。たとえば、『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦/集英社)の第1部の舞台は19世紀のイギリス。エミリ・ブロンテ『嵐が丘』を思わせるジョースター家とディオの関係や、敵として吸血鬼が登場する点に、ゴシック文学からの影響が非常に顕著であることは、つとに指摘されています。

 「ゴシックロリータ(ゴスロリ)」という言葉を聞いたことはありませんか? 特定のブランドを中心として黒を基調にコーディネイトされた独特のファッション、および、それを身に纏った女の子がそのように呼ばれます。現代日本における「ゴシック/ゴス」的な美意識を突出して体現している存在が彼女たちです。
 ゴスロリなルックスのキャラクターが登場する、あるいは、ゴスロリ女子に好んで読まれていそうな、「ゴシック/ゴス」まんがの作家として、楠本まき、三原ミツカズ、藤原薫などがいます。そういえば、まんてんセレクションで、高橋美里さんがすでに紹介(第8回)されている『黒執事』(枢やな/スクウェアエニックス)も、「ゴシック/ゴス」のセンスが実に濃厚! 
 今回は、絵やストーリー、ファッションセンスが、「ゴシック/ゴス」の系譜に位置付けられる、そんなまんがをご紹介したいと思います......。

『おまえが世界をこわしたいなら』(藤原薫/祥伝社)

おまえが世界をこわしたいなら
●藤原薫・著
●祥伝社 上下巻
●定価 1260円(税込)

 「あそこだけ/なんというか.../美しいな!」......藤原薫の絵の繊細な美しさに、まずは酔い痴れてほしい! 端正な顔立ち、大きな目、華奢な身体のキャラたちは、あたかも球体関節人形のようです。カラーの色使いもとてもきれい。作者の美意識が隅々まで行き渡っているのが感じられます。
 そして、この作品で描かれているのは吸血鬼。吸血鬼は、ゴシック文学によって取り上げられて以降、世界的な伝播を果たし、また、「ゴシック/ゴス」の系譜における定番となったモチーフです。
 「バンパネラ」を描いた萩尾望都の名作『ポーの一族』(小学館刊)の舞台はヨーロッパでしたが、『おまえが世界をこわしたいなら』の舞台は現代の日本。ヒロインの小泉環奈は、東京・青山のハンバーガーショップでアルバイトをしているごく普通の高校生です。近頃は��イト先に来る「あの人」のことが気になって仕方がありません。「これはやっぱり恋......?」。
 一方、環奈の「あの人」こと東条蓮も、彼の宿命の女・セシルに生き写しである環奈の存在を気にしています。蓮は、元々はヨーロッパの貴族の子息でしたが、セシルによって吸血体質とされた後、人の血を必要とする不老の肉体を持て余しながら、いつしか日本に流れ着き、偽名を用いて大学生になりすまし、命を奪わない方法で血を調達しつつ、ひっそりと生活していたのでした。
 ある夜、交通事故に遭った環奈の命を救うために、蓮はやむをえず環奈を自分たちの仲間にしてしまいます。ちょうど同じ頃、東京では、血液が抜き取られるという猟奇殺人が続発、その容疑者として蓮は警察にマークされます。果たして連続殺人事件の真犯人とは? セシルとは一体、何者だったのか? そして、環奈と蓮が運命的に出会ったその意味とは......? 
 サスペンス仕立ての物語は息をつく間もなく一気に展開し、衝撃のラストへと走り出します。恐ろしいほどに強く、激しくも悲しい、永遠の恋物語、それが『おまえが世界をこわしたいなら』です。

『DOLL』(三原ミツカズ/祥伝社)

DOLL
『FEEL YOUNG』にて掲載(連載終了)
●三原ミツカズ・著
●祥伝社 全6巻
●定価 950~970円(税込)

 ストーリーの中心にいるのは、三原ミツカズのデビュー単行本『集積回路のヒマワリ』(祥伝社刊)の表題作から登場している召使いアンドロイドたち。「人間には絶対服従」とプログラミングされており、命ぜられるがままによく働き、そしてあまりにも美しいアンドロイドたちを「ドール」と改めて名付け、彼らと人間がともに生きる近未来の日本を描いた作品です。
 作品には人間と「ドール」、男女の区別なく、ファッショナブルに描かれたキャラクターが次々と登場します。感情を一切持たない、機械であるはずの「ドール」が、時として、生身の人間よりもずっと人間らしく、優しく温かな存在に見えてくるのはなぜでしょうか......?
 前半の1-3巻は連作短篇集といった趣ですが、後半の4-6巻では、「集積回路のヒマワリ」も含む、それまでの「ドール」をめぐる多くのエピソードが、伏線として見事に機能して、ひとつの大団円を迎えます。
 ゴスロリテイストがその個性として印象的な三原ミツカズですが、プロットの構成も実に巧み。クールな目線で、いわゆる「いい話」の要素と手法を使っていてもべたつかずにドライに、その逆にエログロのエグさをさらりと処理して、エンターテインメントとして小気味良く纏め上げています。
 さらに、サイバーパンクな感性を活かしながらも、クールであると同時に、あるいはクールであるからこそ、「やりきれない」「切ない」「いとおしい」といった繊細な感情を、実に美しく、鮮やかに描き出しています。
 その点については、エンバーミングという現実的で難しい題材に取り組み、昨年、テレビドラマ化もされた近作である『死化粧師』よりも、近未来SFである『DOLL』の方が、作品としての完成度が、より高かったように私には思えました。

 それでは、また次回!

2008年02月26日