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まんてんセレクション

第10回 『ヴァンパイアの変貌』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 前回(第9回)で、「ゴシック/ゴス」の系譜の一部としてご紹介した「吸血鬼」。
 ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』(Dracula , 1897)以降、現在に至るまで、人間に襲いかかり、その生血を飲みほす「吸血鬼(vampire)」と呼ばれる怪物のイメージは、文学・演劇・映画・まんが・アニメ......といったありとあらゆるジャンルに、さまざまに変奏されながら、長らく巣食ってきました。

 日光に弱い、ニンニクが苦手、鏡に映らない、などの、数多くの弱点を抱えつつも、その不老不死の生命力は未だに健在......どころか、あいかわらずの大人気! 気高くも美しく、残酷で危険な夜の種族である「吸血鬼」という存在の不思議な魅力は、まったく衰えることなく、現代のわたしたちの心を暗闇へと惹きつけてやみません。

DOLL
『LaLa』にて連載中
4月からアニメスタート!
●樋野まつり・著
●白泉社 既刊6巻
●定価 410円(税込)

 まんがの世界も見回してみれば「吸血鬼」でいつもいっぱい!
 現在、連載中の人気作品から例を挙げるとすれば、『ロザリオとバンパイア』(池田晃久/集英社)、『ヴァンパイア騎士(ナイト)』(樋野まつり/白泉社)......どちらもタイトルの通りに「吸血鬼」が登場するこの2作品。『ロザリオとバンパイア』のヒロインでありバンパイアである赤夜萌香(あかしやモカ)はとびっきりの美少女、『ヴァンパイア騎士』のナイト・クラスの生徒(実は全員ヴァンパイア!)たちはびっくりするほどの美形、と、「吸血鬼」=容姿端麗という特徴が、どちらの作品でも強調されています。

 また主人公は人間であること、舞台が人里から離れた全寮制で男女共学の高校であること、そして、コメディかシリアスかの違いはありますが、主人公と「吸血鬼」の恋愛が描かれていること、なども共通点だったりします。つまり、こんな「吸血鬼」が同じクラスにいたらきっと好きになっちゃう!こんな「吸血鬼」にだったら血を吸われちゃってもいいかも?それどころか、自分から血をあげたくなっちゃうかも!?......というアブナイ気持ちになってしまうところがポイントなのでしょう。特に、『ヴァンパイア騎士』のヒロインである優姫が血を吸われているシーンには、普通のキスシーンを目にしたときよりもなんだか胸がドキドキしてしまうような、危うくて背徳的な雰囲気が満ち溢れています......。
 『ロザリオとバンパイア』『ヴァンパイア騎士』以外にも、「吸血鬼」が登場するまんがはたくさんありますが、その中から今、個人的に気に入っている・気になっている2作品を、今回はご紹介したいと思います。

『HELLSING(ヘルシング)』(平野耕太/少年画報社)

DOLL
『月刊YOUNG KING OURs』にて連載中
●平野耕太・著
●少年画報社 既刊9巻
●定価 520~530円(税込)

 冒頭で言及した「吸血鬼」小説の古典、ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』。この小説が、『HELLSING』では、虚構ではなく史実として、設定の中に組み込まれています。
 『吸血鬼ドラキュラ』において、ヴァンパイア・ハンターとして活躍したヘルシング教授(Van Helsing)以降、歴史の裏側で吸血鬼との闘争を繰り広げてきた、英国王室の特務機関「ヘルシング(HELLSING・王立国教騎士団)」。現在の長官はヘルシング教授の末裔であるインテグラです。彼女に従僕として仕え、吸血鬼を狩る唯一無比にして最強の吸血鬼が、この物語のヒーローであるアーカード(Alucard)! 吸血鬼事件に巻き込まれ、アーカードによって、彼を主人とする吸血鬼にされてしまった婦警・セラス、ヘルシング家の執事・ウォルターを含めた「ヘルシング」機関に迫り来る最大の危機とは......?! 第2次世界大戦の悪夢が現代に甦ったとき、ロンドンは恐るべき魔都となる......!
 アニメ化され、日本のみならず、海外でも絶大な人気を得ている『HELLSING』。何といっても、主人公であるアーカードが魅力的なのです。だらりと伸びた両手に大きな2丁拳銃、全身黒ずくめのアーカードの、不気味な表情、ヤバイ目、奇妙に細長くてぐにゃぐにゃしたシルエット、傍若無人な言動、超人的なアクション、とにかくすべてが不穏でカッコイイのです。しかも圧倒的に強い! 強すぎる!
 さらに、この作品全体の魅力を支えているのは、その独特な言葉の選び方でしょう。物語が進むにつれ、言葉の力によってテンションがぐんぐん上昇していきます。アーカードの傲岸不遜な振る舞いもそうだし、ロンドンに攻め入る「ミレニアム」大隊指揮官・少佐による演説(「諸君/私は戦争が/好きだ」......)やら何やら、完全にイッちゃっていて、かつ、印象に残る名ゼリフが多数......。
 そして少佐の異常な陰謀によって、すべてがただひたすらに狂っていく。巨大化した「ミレニアム」の狂気が標的とするのが、「ヘルシング」であり、その鬼札であるアーカード。彼の恐るべき正体がその戦いの最中で明らかになっていきます。
 かつては人間でありながらも、人間の限界を踏み越えてしまった化物、それがアーカードという「吸血鬼」です。彼を倒そうとするのも人間ならば、彼が命令を要求するのも、命令に従って戦い、守り抜こうとするのも、また人間です。彼は、人間の生命と記憶そのものである血液を、自分の体内に取り込むことによって、長い年月を生き延びてきたのです。
 自分を倒すのは、自分と同じ化物ではなくて、人間でなければならない、と、アーカードは絶叫します。インテグラは、人間として、主人として、アーカードに命令を下します。
 「見敵必殺(サーチアンドデストロイ)!!」
 戦争だ! 破壊だ! 虐殺だ!
 ロンドンは壊滅状態、もはやこの世の地獄です。今もそこで「ヘルシング」の、アーカードの、戦いは続いています。その戦いの果てに何があるのか? 真の敵は一体、誰なのか?......物語はまさに最終決戦に突入中、その結末を見届けるべく、気長に待ちたいと思います!

『昭和不老不死伝説バンパイア』(徳弘正也/集英社)

DOLL
『スーパージャンプ』にて続編『近未来不老不死伝説バンパイア』を連載中
●徳弘正也・著
●集英社 全5巻
●定価 550円(税込)

 「バンパイア」と自ら名乗る謎の美女・マリア。「覚醒者」として彼女に選ばれたことで、冴えない高校生だった昇平の生活は一変してしまいます。「覚醒者」とは、自らの生存のための戦いのパートナーとしてマリアが選ぶ存在のこと。「バンパイア」を自称してはいますが、マリアは人間の血液を必要としないので、厳密に言えば、彼女は「吸血鬼」ではありません。しかし、それ以外の、不老不死をはじめとする人間にはない数々の能力や並外れた美貌、といった特徴は、確かに「バンパイア」を自称するにふさわしいものと言えます。そもそも、「ヴァンパイア(vampire)」という単語に含まれている"vamp"とは、男をたぶらかす妖婦、魔性の女のことですから......。ちなみに、マリアの現在の職業は、浅草のストリッパーという設定になっています。
 マリアが敵視するのは、マリアの生命力の秘密を狙う組織、もしくは、マリアを使って社会を変えようと目論む組織です。マリアにとっては、どちらの集団も、マリアを自分たちにとって都合よく利用することだけが目的である以上、彼女の生存を脅かす存在でしかありません。だからこそ、そのような組織と遭遇するたびに、マリアは「覚醒者」を見つけ出し、その助力を得て、敵と見なした組織を壊滅に追い込んできました。マリア自身の説明によれば、それは彼女自身が生き延びるための知恵であり、そうした戦いとは彼女の生存本能の発露なのです。長い長いその人生を通じて、マリアは同じような戦いを過去に何度も経験してきました。
 しかし、この現代において、マリアを狩り出し、その肉体の神秘を手に入れようとする人間たちの思惑は、マリアの体験に基づく予想をはるかに上回る、あまりにも複雑で巨大なものでした。その陰謀は、全世界規模にまで膨れ上がっており、最新のテクノロジーが投入・駆使された包囲網の中で、マリアのすべては、すでに完全な監視下に置かれていたのです。いつしか真剣に愛し合うようになったマリアと昇平。マリアの特殊能力を狙う人間たちの大きすぎる欲望から、ふたりは逃げ切ることができるのか......!?
 カバー折り返しに書かれた作者のコメントによると、この『昭和不老不死伝説バンパイア』は、社会的・思想的なメッセージを、まんがを通じて描こうとした作品だそうです。現代日本が抱えている問題点に繰り返し言及すると同時に、宗教や戦争といった大きな問題にも踏み込んでいます。しかし、シリアス一辺倒の作品では決してありません。『マトリックス』なアクション、『AKIRA』な超能力も描き込みつつ、純愛物語でもあり、と、エンターテインメント性が非常に高いのです。しかも、作者自身、自分の持ち味であるエロとギャグは絶対に欠かさないぞー!!!という姿勢を保っていて、どんな大真面目なシーンにも必ずお約束なシモネタが挿入されている......! 真剣に考えさせられるかと思えば、不意に訪れる脱力系の笑い......そのミスマッチのバランス感覚が面白い! 実に気概に満ち溢れた問題作だと感じました。その気概は、現在連載中の続篇『近未来不老不死伝説バンパイア』にもしっかりと受け継がれているので、要チェック!

 それでは、また次回!

2008年03月10日