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第12回 『下町のロマンティックなチームワーク』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 前回(第11回)ご紹介した『3月のライオン』(羽海野チカ/白泉社)は東京の下町が舞台。白泉社の『3月のライオン』特集ページでは、作中に登場する風景が見られる地点をまとめた「空想お散歩MAP」が公開されています。

 皆さんは、東京の下町について、どんなイメージを持っていますか? 「下町」と言えば......わたしは、何度か歩いたことのある浅草の街並みが、最初に思い浮かびます。それから、下町を舞台にしたフィクションの多くに描かれている、昔ながらの人情味、思わず涙が出てしまいそうになるような人の心の優しさ、温もり、繋がり......そうしたいわゆる「下町」情緒が今も実在するのかどうかは、そこで生まれ育った人でないと、少なくとも、そこにしばらく住んで生活したことのある人でないと、わからないことなのかもしれませんが......。
 今回は、ニューウェイヴであると同時に、「下町」を舞台にしていることが意外にも重要なポイントになっている、そんなまんがをご紹介していきたいと思います。

『荒川アンダーザブリッジ』(中村光/スクウェア・エニックス)

荒川アンダーザブリッジ
『ヤングガンガン』にて連載中
■4/25に最新刊第7巻発売
●中村光・著
●スクウェア・エニックス 既刊6巻
●定価 530円(税込)

 河川敷に住む人々がまんがの中にも登場します。『ハチワンダイバー』(柴田ヨクサル/集英社)のホームレス真剣師・二こ神さんのように、あるいは、『僕といっしょ』(古谷実/講談社)の「ヤングホームレス」たち、すぐ夫・いく夫兄弟やイトキンのように。彼らにとっての河川敷とは、追い込まれて流れ着いた、ギリギリの居場所です。
 『荒川アンダーザブリッジ』の舞台は大きな橋の下とその周辺の河川敷。橋のモデルになっているのは、隅田川にかかる千住大橋とのことですが、作中に描かれているのは、現実とはまったく異なる別世界です。そこでは、河童(自称)の「村長」を中心とする奇妙な住人たちが、自給自足の共同生活を営んでいるのでした。
 雑誌『モーニング2』で連載中の『聖☆おにいさん』(講談社)で大ブレイク中の中村光ですが、『荒川...』のカバー裏の著者近影で、女性であることを初めて知り、なんだかびっくりしてしまいました......。
 主人公は、トップ企業の御曹司として、「他人に借りを作るべからず」という家訓を守り抜き、勝ち組人生を順調に歩んできた市ノ宮行。そんな彼が橋の上でたまたま出会ったのが謎の美少女・ニノ。はからずも河に転落、溺れかけていたところをニノに助けられてしまった行は、命の恩人というヘヴィすぎる借りに動揺して大混乱。すぐにでも恩返しをして貸し借りを相殺しようと必死になっている行に、ニノは自分が金星人であることを告げた上で、「私に恋をさせてくれないか」と提案します。ニノの恋人として、「リク」という呼び名を村長から与えられた行は、その日から河川敷の住人となります。
 河川敷の先住民たちの、想定外の言動に直面するたびに、カルチャーショックで何度でも打ちのめされるリク。だけど、やっぱり、ニノのそばにいたい! やがて、河川敷の一員としてすっかり定着したリクは、勝ち組であろうとすることだけを考えて生きてきた過去の自分が、心の中に閉じ込めてきた感情を発見して、次第に変化していくのでした......。
 時間も空間も、コミカルな永遠の日常の内側にそのまま止まっているようでいて、実はちゃんと前に進んでいる。リク以外の個性的なキャラクターたちにも、過去があるから現在があって、少しずつ変化が生じている。ギャグでありラブコメでもありSFでもあり、思い切り笑っている途中で急になんだか切なくてたまらなくなる。『荒川アンダーザブリッジ』は、そんなちょっと不思議なテイストの作品です。

『GIANT KILLING』(綱本将也、ツジトモ/講談社)

GIANT KILLING
『モーニング』にて連載中
■4/23に最新刊第5巻発売
●綱本将也、ツジトモ・著
●講談社 既刊4巻
●定価 570円(税込)

 『GIANT KILLING(ジャイアントキリング)』はプロチームの監督を主人公にして描かれたサッカーまんがです。自分と同世代のプレイヤーが海外に渡り、引退後には監督になって活躍する、という設定が、今の『モーニング』読者にとって、リアリティのある状況になったからこそ、ようやく登場した作品であり、ありそうでなかったそのストーリーが実に魅力的!
 作品の中心となっているのは、東京・浅草をホームタウンとする、弱小クラブチーム「ETU(イースト・ トウキョウ・ユナイテッド)」。作中の背景には隅田川の河岸や花やしきといった浅草の風景が描きこまれています。町ぐるみの温かな声援に支えられてきたETUですが、チームの低迷が続くうちに、地元サポーターたちの熱気は、ホームスタジアムからもすっかり遠のいてしまっていました。
 そこに突如として現れたのが達海猛、35歳。ETUの黄金時代を築いたかつてのスタープレイヤーにして、ETUを捨てて海外移籍をしたまま、行方不明になっていた男。その彼が、イングランドでの監督として実績を手みやげに、ETUに舞い戻ってきたのです。『ピューと吹く!ジャガー』(うすた京介/集英社)のジャガーさんを彷彿とさせる、一見、何にも考えていないような超マイペース、天然にして天才型の性格の達海。しかし、その余りある才能は、選手として以上に、監督としての能力を秘めていた......!?
 現役時代から彼が愛してやまない試合展開、それが「ジャイアント・キリング」! このマンガのタイトルでありキーワードであるこの言葉、「大物喰い」「大番狂わせ」といった意味の英語で、主にサッカーで使われる用例、だそうです。
 ETUの監督に就任するやいなや、周囲の度肝を抜くやり方で、チームの改革を次々と実行していく達海。「お前ん中のジャイアント・キリングを起こせ」! その一言が、ETUの選手たちはもちろん、チーム関係者やサポーター、さらには日本サッカー界全体にも激震を引き起こしていく......という、サッカー好きならば誰でもワクワクしてしまう、夢のような展開!
 達海の監督就任後、最初のシーズン序盤戦。達海の采配によってETUは生まれ変わることができるのか? その復活の奇跡はまだまだ始まったばかりです!

 『荒川アンダーザブリッジ』は摩訶不思議な村社会、『GIANT KILLING』はサッカーのクラブチーム。そうした斬新な設定を通じて、東京の下町を舞台に描き出されているのは、ある種の運命共同体の姿です。登場人物たちは、各自の仕事を担い、自らが所属する共同体を支えています。彼らは、共同体の中での自分の役割を自覚し、その責任を果たすことによって、生活をしています。生活の手ざわり、仕事の手ごたえ、そういった当たり前だったはずの感覚が、いつのまにか懐かしい夢、ファンタジーとなってしまっている。それが、悲しくも虚しく、何もかもが曖昧で不確かな今のわたしたちのリアル......しかし、確実な感覚を、心のどこかで渇望している。だからこそ、古き良き下町を背景に、人の心が強く正しく美しく繋がれた関係性というものが、まんがの中で多く描かれ、そして、その麗しいチームワークのあり方に、多くの読者が思わず惹きつけられてしまうのではないでしょうか......?

 それでは、また次回!

2008年04月14日