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まんてんセレクション

第16回 『望めばそこがパラダイス!?』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 前回(第15回)では、まんがの中の架空の「部」が舞台になっている作品を紹介しましたが、まんがならではと言えば、部活動ばかりではなく、クラス、いや、学校全体が、
 「こんな学校はまんがの中だけでしかありえない!」
 と驚いてしまうような「学園もの」がいくらでもあります。

魁!!男塾

 その好例が、今年、実写映画が公開されて話題になった『魁!!男塾』(宮下あきら/集英社)でしょう。いわく、男の中の男を育てるための超スパルタ教育を実施、壮絶にして過激すぎる鍛錬の場こそが「男塾」なのである!
 当初は筆頭・剣桃太郎を中心に「男塾」一号生たちの生活がコミカルに描かれていたはずが、いつのまにか命がけの武闘トーナメント戦がメインになり......という、恐るべき破天荒ストーリー。でも、そのハイテンションなハチャメチャぶりが常軌を逸していて面白いからこそ、名作として長らく読まれ続けているわけです。
 「学園もの」における学校の描写には、限りなく現実に近い学校が一方にあり、もう一方には、『魁!!男塾』のような荒唐無稽な学校があります。今回は現実離れした設定の学校が登場し、かつ、そこでの学校生活を「パラダイス」として描いている作品をご紹介します。

天上天下(てんじょうてんげ)(大暮維人/集英社)

天上天下
『ウルトラジャンプ』にて連載中
●大暮維人・著
●集英社 既刊18巻
●定価 530円(税込)

 「そこは 戦国だった」
 『天上天下』の冒頭に置かれ、その後も繰り返し登場するこのフレーズ、「戦国」には「パラダイス」というルビがふられています。
 『天上天下』の舞台となっているのは、学内最強の執行部が支配する「統道学園」。そこに入学した「爆拳(ナックル・ボム)」こと凪 宗一郎(なぎ そういちろう)とボブ牧原のコンビが、学園をシメるべく暴れ出したところから物語ははじまります。
 向かうところ敵なしとばかりにイキがっていた彼らを、あっさり打ち負かした柔剣部、棗真夜・亜夜の美少女姉妹と高柳らをめぐるラブコメ? かと思いきや、物語が進むにつれて、設定がどんどん膨れ上がっていき、彼ら柔剣部メンバーを中心とする登場人物たちが、強さを追い求めて戦い続ける宿命を背負った存在であることが、次第に明確になっていきます。
 「あれー!? こういうお話だったの?」......そんなツッコミはこのまんがに関してはまったく無粋! というか、一度読みはじめたら、細かいことを気にしている余裕なんかありません! 途中から突如、過去へ過去へと遡っていくストーリー構成もきっと気にならない、はず。だって、絵がとってもキレイで、スピード感がバツグンなのですから。
 女子はカワイイ、男子はカッコイイ! 続々と登場してバトルを繰り広げる魅力的なキャラクターたち、そして彼らが心・技・体、とりわけ拳と剣を駆使して戦う姿には思わずうっとりです。そうした華麗なアクションシーンこそがこの作品の魅力なのだと思うのです。
 わたしが大好きで何度も読み返してしまうのは、18巻の亜夜vs. 屍(かばね)の一騎打ち。作中で「異能者」と呼ばれている特殊能力の持ち主であるふたりの戦いは物凄い迫力、そして、やたらと切ない......。「真の強さとは何なのか?」「誰のために、何のために、戦うのか?」を自問自答しながら、決して絶望することなく剣を振るい続ける亜夜は、ひどく可憐で美しい。
 亜夜が、そして、多くの人々が待ち望んでいる、戦いの果てにみんなの笑顔が溢れる時代、「戦国(パラダイス)」は学園に再び訪れるのか......? 最後の決戦に向けて、亜夜たちの戦いはまだまだ続きます。

極東学園天国(日本橋ヨヲコ/講談社)

極東学園天国
『週刊ヤングマガジン』にて掲載(連載終了)
●日本橋ヨヲコ・著
●講談社 全4巻
●定価 530円(税込)

 近未来の日本を思わせる設定の「極東」と呼ばれる国がこの作品の舞台。そこでは「懲学令」によって高校までが義務教育化され、青少年は厳しい管理体制下に置かれています。他の高校で問題を起こした生徒が収容されるのが、全寮制の「私立五色台学園」。ここに一度入学した生徒は卒業まで学校外に出ることは許されず、いわば、問題児の隔離施設としての役割を果たしています。
 その2年甲組に転校してきたのが、平賀信号(ひらがしんご)。極東最難関のエリート校「国立高城高校」からやってきた彼は、まっすぐな気性で、パッと見は人当たりが良くて穏やかだが、実は一度キレると手がつけられないハイパワーの持ち主。問題児だらけなのに生徒による自治が標榜されている治外法権の五色台学園で、彼はどう生きるのか、そして、何を見つけるのか......?
 現時点での日本橋ヨヲコの代表作は『極東学園天国』だ、とわたしは考えています。まんがを描く高校生男子二人組が主人公の前作『G戦場ヘヴンズドア』(小学館)も、現在『イブニング』で連載中のバレーボールまんが『少女ファイト』(講談社)も本当に素晴らしい作品で、特に『少女ファイト』については、このままいけば『極天』をはるかに凌駕する傑作になるだろう、という予感がじわじわとあるのですが......。
 日本橋ヨヲコは、「青春」という主題を、身震いするほど残酷に、この上なく美しく描き続けている、という点においては、間違いなく稀有の作家です。だけど、作品の内外で表出されている作者のメッセージにうまくシンクロできないときもあって......それらがきっぱりと強い言葉であるからこそ、心のどこかに引っかかって、いつまでも考えこまされてしまったりもするのです。
 たとえば、学園にやってきた当日に、シンゴが言い放ち、周囲の生徒たちの心を一瞬にしてわしづかみにした一言。
 「いやだなあと思うこと そのままにしてたら たましいが腐るから」
 『極天』全体を貫き、『G戦場ヘヴンズドア』『少女ファイト』にも引き継がれている作者のテーゼが、ここに要約されています。その言葉は確かに正しい。でも、強くて賢いシンゴのように、その信条を実践することが、いつも、誰にとっても正しくて、必ず良い結果に繋がる、とは限らないのではないでしょうか。自分の「たましい」を守るためにやったことが、期せずして他人の「たましい」を傷つけたり壊したりしてしまうことだってあります。「いやだなあ」という気持ちは真実であっても、それが思いこみや勘違いから生まれた衝動的な感情だった場合には、単なるひとりよがりになりかねません。
 『極東学園天国』は、第3部が予告されながらも、第2部で完結となってしまった作品なので、その終わり方はきれいにまとまった結末とは決して言えません。しかし、まだ終わっていないというその感覚、これから続いていくようなその感覚が、わたしにはどうしようもなく愛おしいのです。
 4巻の終わりでシンゴは笑いながらこう言います。
 「じゃあ また オレたちで/天国 作ろうよ」
 北野武監督『キッズ・リターン』に出てくる「バカヤロウ、まだ始まっちゃいねえよ」というセリフを髣髴とさせるその言葉、それこそがまさしく「青春」の気分に他ならない、と思うのです。
 『極天』に登場するやや荒削りながらもどうしようもなく魅力的なキャラたち、シンゴとシンゴの仲間であるリーチや山金(やまがね)、城戸先輩たちのその後を想像してみるのも楽しいですよ!

 年齢だけは大人になってしまった今になって、「学園もの」を読むたびに気になるのは、学校が舞台である以上は当然のことながら、学校が物語の中心になっているので、まるで学校以外の場所が世界に存在していないかのように描かれていることです。
 そういえば、小学校から高校までの期間には、わたしにとっても、学校が生活のすべてでした。特に高校生の頃は、学校が退屈でたまらなかったので、それだけでもう、この世のどこにも身の置きどころがないような気すらもしていました。でも時間が経ち、過去の自分を振り返ってみて思うのは、居場所というのは自分自身で作り出すもので、実は学校以外の場所を自分はちゃんと見つけていたんじゃないのかなあ、ということだったりします。たとえ、学校がどんなにつまらなかったとしても、学校以外の居場所もこの世のどこかにきっとあるはず。そしてそこが、自分にとっていちばん大切な場所=パラダイスになるはず......今ではそんな風に思っています。

 それでは、また次回!

2008年06月10日