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まんてんセレクション

第18回 『こういう人ってたぶん意外といると思う。』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 まんがを読んでいて、自分の過去の体験と同じようなエピソードが描かれていて、びっくりしてしまったことはありませんか......?

 それがもし、恋愛や友情の美しいエピソードだったならば、自分自身の思い出と重ね合わせて、切ない気持ちで胸がいっぱいになったりもするのでしょう。しかし、わたしの場合、そういう発見をするのは、たいてい、子どもの頃の「奇行」にまつわるエピソードだったりするのです!
 「奇行」ネタというのは、まったくの他人事ならば、ただただ笑えるのかもしれませんが、自分も同じようなことをやっていた場合、ちょっと笑うに笑えませんよね......? しかも、わたしの場合、その時には自分がおかしなことをやっているという自覚はまるでなくて、時が経ってから、そうか、あれははたから見れば「奇行」だったのかとようやく気がつくことが多いのです。
 ああ、思い出すだけで、いまだに恥ずかしさに悶絶する過去の自分の言動の数々......。せっかく忘れかけていたのに、まんががきっかけで思い出すなんて! 
 しかし、逆に言えば、自分とよく似た「奇行」が、まんがの中でネタとして描かれていると、思わずドキッとすると同時に、自分以外にも同じようなことをしていた人がいるんだなあ、とちょっぴり安心できたりもします。そんなときは、作者についつい共感してしまったり親近感を抱いてしまったりするのです。もしも、いつか出会うことがあったら、この人とならきっと仲良くなれそうだ、なんて真面目に考えたりして......。
 今回はそんな「奇行」を描いたまんがをご紹介してみたいと思います。

カラスヤサトシ(カラスヤサトシ/講談社)

カラスヤサトシ
『アフタヌーン』にて連載中
●カラスヤサトシ・著
●講談社 既刊3巻
●定価 590円(税込)

 著者名とタイトルが同一の『カラスヤサトシ』。作者自身の現在の日常や過去の体験を面白おかしく描いた4コマまんがです。
 単行本の第1巻を読んで、わたしが思わずのけぞったのは18ページ。小学校に入学するとき、買ってもらったばかりのピカピカのランドセルをじっと見ていたら、どうしようもなく悲しくなってきて、めちゃくちゃに踏んでボロボロにしてしまい、お母さんに思いっきりビンタされたという「私」。
 最後のコマの下に「こういう人は多分、けっこういると思う」というコメントが書いてあるのですが......はーい! 小学校に入った直後、わたしもピカピカのランドセルをボコボコにしてボロボロにしましたよ!! 親に怒られまくりましたよ! 
 どうしてそんな乱暴なことをしてしまったのか、というと、たぶん、このまんがの「私」と同じように、「嬉しい」「悲しい」といった感情の区別がついていなかったというのも一因なのですが、あと、わたしの場合は、女の子だから赤いランドセル、と決まっているのがなんとなく気に入らなかったんですよね......。買い与えたばかりのランドセルをいきなりボロボロにされた両親の心情を思うと、わたしもやっぱり、今さらながらに心が痛みます。
 先日、とあるイベントの打ち上げで、カラスヤサトシさんにお会いする機会がありました。サインをもらおうと思って、持参した『カラスヤサトシ』第1巻のそのページを見せて、
 「実はわたしもランドセルをボロボロにしました......」
 と言ったところ、カラスヤさんに
 「そのランドセル、その後、どうしました?」
 と聞かれました。
 「嫌だったけれど、そのまま6年間使い続けましたよ」
 と正直に答えたら、
 「僕もそうでした! やっぱりそうですよね!」
 とおっしゃって、ニコニコしながらそのページの余白に、サインをしてくださって、ニコニコ笑顔の自画像も書き添えてくれました。
 そのとき、目の前にいたカラスヤさんご本人は、自画像よりもはるかにオトコマエで、さらに、自分と同じランドセルクラッシュ体験持ち、ということもあり、ほんのり胸がときめいてしまったことを、この場で告白しておきます! モテたいのにどうにもモテない、というのが、カラスヤ作品の基本スタン���なのですが、もしかしてそれってギャグのためのキャラ設定なの? むしろひそかにモテモテなのでは?......そんな疑いすらも思わず抱いてしまいました!
 子ども時代から、現在のまんが家生活に至るまでのさまざまなおもしろエピソードが満載の『カラスヤサトシ』。ちょっぴり恥ずかしげに、しかし情容赦なく惜しげもなくネタにされているご自身の「奇行」の数々、読んでいると時々、他人事とは思えなくて、笑うに笑えないことも......。でも、カラスヤさんのような、わたしのような、こういう人はたぶん、けっこういるんですよね!? お願い、誰か、そう言って......!!

僕とポーク(ほしよりこ/マガジンハウス)

僕とポーク
●ほしよりこ・著
●マガジンハウス 全1巻
●定価 1000円(税込)

 前回(第17回)ご紹介した『きょうの猫村さん』のほしよりこによる、表題作「僕とポーク」、その他2編+αが収録された短編集です。鉛筆の柔らかな描線となんとなくノスタルジックな雰囲気は『きょうの猫村さん』と同様ですが、猫村さんのような和み系キャラが不在の『僕とポーク』では、物語中のちょっぴりシニカルな要素が、より明確に描かれているように思えます。
 作品の主人公である「僕」は、食事をほんのちょっとだけ残す、という変な癖があって、毎日のように父母から叱られています。そんなとき、父親がいつも引き合いに出すのは、世界の恵まれない子どもたちの存在です。
 子どもの頃のわたしは、今にして思うと病的なぐらいに偏食かつ少食だったので、家でも学校でもほとんどものが食べられず、いつも叱られてばかりいました。そんなとき、両親や学校の先生が決まって言っていたのは、「作った人に対して申し訳ないと思わないのか」。それから、もうひとつ、「世界には、水も食べ物もなくて、飢えや病に苦しんで死んでいく、かわいそうな子どもたちがたくさんいるのに」という言葉でした。
 そう、わたしは『僕とポーク』の主人公とまったく同じことをさんざん言われていたのです。どうしても食べられないのに、そうやって叱られて、時には泣き出してしまうこともありました。
 主人公の「僕」は考えます。外国に水も飲めない人がいるからといって、どうして自分がご飯を残してはいけないのか? わたしも心の中ではいつもそう考えていたのですが、その問いの答えは思いつかなくて、ひたすら悲しい気持ちになるだけでした。ところが、彼はさらに考えるのです。その人たちにご飯を届けるには一体、どうすればいいのか? そうだ、自分が食べきれなかった分で生きた豚を育てよう、その豚を恵まれない子どもたちに食べてもらおう、と。
 彼の家の近所にはたまたま養豚場がありました。最初はそこから子ブタを盗み出し、自分の家で飼おうとしますが、失敗。しかし、養豚場の主人に自分の思いを話した「僕」は、その豚を自分の豚として育てる許可を得て、「ブーちゃん」と名付け、ブーちゃんに自分が残したご飯を毎日届けるようになります。
 生きた豚を外国の恵まれない子どもたちに届けて食べてもらいたい、という「僕」のアイデアは、いかにも子どもらしい突飛すぎる思いつきです。しかし、「僕」はそのアイデアを実行に移しました。そして、「僕」は「ブーちゃん」に残飯を与えて育て上げるのですが、自分になついている「ブーちゃん」に愛情が芽生えてしまい、どうしても手放すことができません。だから「僕」は、大学生になってからも、年老いた「ブーちゃん」にずっと残飯を届け続けるのです。
 『僕とポーク』は、「僕」と「ブーちゃん」、そしてその周囲の人々の姿を淡々と描いた、何とも言えない不思議な味わいのある作品です。あらあら、「ブーちゃん」のことを考えていたら、わたし、なんだか、トンカツが食べたくなっちゃった......。

 それでは、また次回!

2008年07月15日