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第20回 『町でうわさの天狗のあの娘』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 前回(第19回)ご紹介した山岸凉子の作品に、「神かくし」というタイトルの時代劇ミステリーがあります。その続編であり現代を舞台にした短編が「神入山」。ピクニックに出かけた山の中、「神隠し」の言い伝えが話題になったのをきっかけに、天狗に関する伝承をあれこれ考察していた少年少女たちが最後に出会ったのは......!? その結末の一コマだけで背筋にゾワッと寒気が走る、これまた実に怖いお話です。

 ところで、その「天狗」といえばみなさんはどんな姿を思い浮かべますか? 深山に住み、山伏姿で、真っ赤な顔、高い鼻、背中には翼。そうした人間に近い様子なのがいわゆる天狗(大天狗)で、鳥に近い見た目なのは烏天狗(小天狗)と呼ばれて、区別されています。だけど、名前に含まれている漢字は、なぜか「狗(いぬ)」。その名称の起源は中国の文献に求められるそうなのですが、日本においては、山の神様として神社に祭られているかと思えば、「神隠し」のように人間に悪さをする妖怪として扱われているなど、いろいろと謎の多い存在が天狗なのです。
 一般的には想像上の怪物とされ、昔話の世界の住人である天狗ですが、今回は、現代を生きる天狗の女の子がヒロインとして活躍する、一風変わったまんがを取り上げてみたいと思います。

町でうわさの天狗の子(岩本ナオ/小学館)

町でうわさの天狗の子
『月刊flowers』にて連載
●岩本ナオ・著
●小学館 既刊2巻
●定価 420円(税込)

 主人公の秋姫(あきひめ)のお父さんは緑峰山に住む天狗の康徳(こうとく)坊様。でも、お母さんは人間なので、普段は緑峰山のふもとの町で、お母さんと一緒に暮らしています。見た目はごく普通の女子中学生である秋姫ですが、トラックを軽々と持ち上げてしまうほどの怪力の持ち主! この怪力、実はお父さん譲りの天狗パワーのひとつなのでした。
 お父さんや幼なじみの瞬ちゃんたちは、秋姫が中学を卒業したら、お山に入って修行をして、立派な天狗になることを期待しているけれど、秋姫本人の希望は高校進学。ひそかに想いを寄せてきた同級生のタケルくんと同じ高校に通いたい! できれば大好きなタケルくんとお付き合いして一緒に登下校したい! そんないじらしくて甘酸っぱい夢を胸に秘めて、どうにか高校生になった秋姫なのですが、新しいクラスメイトたちとうまく付き合えなかったり、電車や学校の中でいきなり変なモノが見えてしまったり......秋姫の高校生活、けっこう前途多難の予感!?
 豊かな自然と昔ながらの伝承が今も息づいている、山々に囲まれた土地を舞台にしたストーリーそのものは、ほのぼのとした正統派の学園ラブコメディなのですが、そこに天狗という非現実的な設定が導入されていて、何とも言えない不思議な雰囲気がかもし出されています。天狗と人間のハーフである秋姫は、本当は普通の人間の女の子として生活したいのに、天狗としての超能力も生まれつき身についているので、その能力をどう扱っていいものやらと、しょっちゅう困ったり悩んだりしています。
 そして、元々は人間だけれども、修行をして天狗になろうとしている、ぶっきらぼうだけどしっかり者の瞬ちゃん。「次郎坊」瞬ちゃんは、緑峰山の天狗ファミリーの弟分として、「太郎坊」秋姫をいつも見守り、秋姫のピンチには必ず駆けつけて、秋姫を助けてくれます。秋姫の片思いの相手はイケメンで人気者のタケルくんなのですが、実は秋姫、頼りがいのある瞬ちゃんの存在も、かなり気になっているみたい。しかし、瞬ちゃんが秋姫のことをどう思っているのかは、まだよくわかりません......。
 天狗の神通力に目覚めつつある秋姫は無事に高校生活をエンジョイできるのか? 秋姫・タケルくん・瞬ちゃん、三人の関係の行方はどうなっちゃうの? 『町でうわさの天狗の子』は、不思議がいっぱいで、独特のヘンテコな魅力にあふれた青春群像劇です。

大日本天狗党絵詞��黒田硫黄/講談社)

大日本天狗党絵詞
『月刊アフタヌーン』にて掲載(連載終了)
●黒田硫黄・著
●講談社 全4巻
●定価 530円(税込)

 15年前、小学校の入学式の日に、満開の桜の木の下で師匠と出会い、そのまま天狗になってしまったシノブ。天狗である師匠の見た目はメガネにスーツのダンディなおじさんです。
 長らく師匠に付き従ってきたシノブですが、天狗としての力はいまだに身についておらず、師匠とともに街をさまようだけのみじめなホームレス生活に疑問を抱き始めていました。
 しかし、ある晩、ついに空を飛べるようになったシノブは、ふと気がつくと、かつての自宅の屋根の上にいました。家に帰りたい、もう一度、家族と一緒に普通の生活がしたい、その一心で玄関の扉を必死に叩いたシノブですが、シノブの父母はすでに亡くなって、家族は弟のとしのりだけになっており、その上、師匠が送った身代わりの泥人形が、15年間、シノブとしてその家で暮らしていたのでした。
 天狗の力にようやく覚醒したのに、人間としての生活をあきらめきれずに、本来の我が家である高間家の周辺をうろつくシノブ。身代わりであるはずの泥人形が、本物のシノブと似ても似つかないことに気付き、不審に思ってその様子を見に行った師匠は、シノブのおじの視線に射抜かれて錯乱してしまいます。シノブのおじである高間教授は邪眼と呼ばれる超能力の持ち主だったのです。
 邪眼の脅威におびえる師匠は、自らの弟子を中心とする「大日本天狗党」を突如結成し、日本各地に散らばり、世を忍びながら細々と生き延びている天狗たちの団結を呼びかけます。師匠の召集に呼応して、歴史上の大天狗「Z氏」が出現したのをきっかけに、天狗と人間の両方を巻きこんで、日本全土を揺るがす大騒動が勃発......?!
 奇才としてすでに高い評価を受けている、黒田硫黄の最初の連載作品がこの『大日本天狗党絵詞』です。実質的なデビュー作でありながらも、絵にもストーリーにもその個性はすでに全開、一度読んだら二度と忘れられなくなる強烈な魅力がみなぎっています。はじめて読んだとき、こんなにも何もかもが圧倒的な作品をいきなり描いてしまう、抜群のその才能に、心が震えて以来、わたしはすっかり黒田硫黄ファンになってしまいました!
 ヨーロッパを舞台に、自転車ロードレースの人間模様を描いて、映画『アンダルシアの夏』としてアニメ化されたシリーズを含む短編集『茄子』、テレビドラマ化された『セクシーボイスアンドロボ』などももちろん面白く、傑作であることは間違いないのですが、わたしはこの『大日本天狗党絵詞』が、今でもやっぱりいちばん好きです。もう何回読んだかわからないぐらい、そして、何度読み直しても新鮮で、本気で素晴らしいと感じる、完璧に大好きなまんがのひとつです!

 それでは、また次回!

2008年08月28日