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第21回 『夏が去れば思い出す』

木村カナさん(文筆業)

 こんにちは、木村カナです。

 みなさんは今年の夏休みをどのように過ごされたのでしょうか? 楽しい思い出はできましたか?

 わたしはといえば......特に何もありませんでした。そもそもまとまった夏休みがなかったし、その上、あの猛暑ですっかり夏バテ、あれはツラかったなあ......旅行にも行かず、花火大会などの夏ならではのイベントにも行かず。ああ、お気に入りのあの浴衣、今年は一回も着てないよー!
 夏らしさをほとんど味わうことなしに、このまま秋に突入してしまうなんて、なんだか悲しいな......。だからせめて、夏を印象的に描いたまんがをご紹介して、夏の気分を今さらながらに噛みしめたいと思います。

『STAY―ああ今年の夏も何もなかったわ』(西炯子/小学館)

STAY―ああ今年の夏も何もなかったわ
■フラワーコミックス
●西炯子・著
●小学館 『STAY』シリーズ全7巻
●定価 530円(税込)

 女子校の演劇部員たちの群像劇、といえば、2度目の実写映画版の公開を控えた吉田秋生の名作『櫻の園』が思い浮かびます。『櫻の園』の季節は春でしたが、『STAY』の季節は夏、舞台は鹿児島。演劇部に所属している女の子たちが夏休みにそれぞれ体験した出来事を、オムニバス形式で描いています。
 各話のヒロインたちの夏休みに起こるのは、ほんのちょっとしたエピソード。夏といえばステキな男の子と出会って恋愛! そんなめくるめく夏のイメージを、彼女たちだって一応抱いてはいるし、ほのかな期待だってなかったわけではないのです。でも、彼女たち自身の夏の思い出は......?
 たとえば第1話「STAY」の主人公・玉井由美は女子短大でのサマースクーリングに参加します。長身の由美は、演劇部でいつも男役を担当し、同性である女の子からモテモテなのですが、実はとっても乙女チックな性格。「男の子みたいにカッコイイ!」と女の子からキャーキャー騒がれたり、憧れられたりすることが、本当はつらいのです。そんな由美の心を見抜いたのが、スクーリング参加者の中で、ひとりだけ大人びた雰囲気があった刈川エリ。最終日のコンパで、タキシードを着るつもりだった由美に、エリがそっと手渡したのは、フリルのついた華やかなパーティードレスでした......。
 夏休みの終わる間際、演劇部のミーティングで顔を合わせた彼女たちは、それぞれの夏の記憶を思い出して(由美が思い浮かべているのは『女装』した自分の姿!)、ふっとため息をつきます。そして、みんなの心の中でいつしか共有されているのがこの言葉。
 「...ああ ...今年の夏も 何もなかったわ...」
 まあ、そんなものですよね、思春期の夏休みなんて! あんなにワクワクして、とっても待ち遠しかったのに、たいていは期待はずれで......。だけど、恋愛の要素はゼロだったのだとしても、どんなにしょぼくて情けなくても、本人にとっては決して忘れられない、特別な体験なのです。「今年の夏も何もなかったわ」という脱力感がある一方で、彼女たちの中で何かが変わったことは確かですし、演劇部とその周辺にもにわかに変化が訪れるのでした。
 『STAY』は、夏休みの最終日で終わっていますが、ここで完結ではなく、その後、後日談を含めた「STAY」シリーズが描き継がれました。『STAY』の登場人物の中でも、際立って個性的で印象に残る女の子、山王みちる。過激に知的で超マイペースな文化系女子である彼女に出会い、うっかり心惹かれてしまった、空回りしがちなエリート男子、佐藤敦士。『STAY』では恋愛未満の微妙な関係にとどまっていた、アンバランスなこのふたりですが、彼らのその後が気になったら、続編『STAYプラス お手々つないで』『STAYラブリー 少年』の3冊もぜひチェック!

『SEX』(上條淳士/小学館)

SEX
■ヤングサンデーコミックス
●上條淳士・著
●小学館 全7巻
●定価 530��~590円(税込)

 とびきりスタイリッシュな画風で読者を魅了してやまない上條淳士の作品。その中でもこの『SEX』はまさに伝説の1作です。何しろ、2色刷りの最初の2巻だけを手元に置いたまま、いやもう、待ちました、ひたすら待たされました......連載開始が1988年、連載完結が1992年、単行本の最終巻が発売されたのが2005年!
 連載が始まったころ、『SEX』というタイトルが照れくさくて発音できなかった中学生のわたしが、新装版の単行本をようやく買い揃えたときにはすでに30代。主人公であるカホやナツの年齢は早々に追い抜いてしまい、脇役のモデルになっているミュージシャンたち、ジョー・ストラマーもフレディ・マーキュリーもすでに世を去り......しかし、そんなブランクを置いて読んだのに、そのブランクを感じさせない、ほとんど古びていない魅力がある、この『SEX』は実に不思議な作品だと思います。
 沖縄、福生、横須賀、そして再び沖縄......舞台として描かれているのはいずれも米軍基地のある街。年齢不詳・経歴不詳の謎の少年・ユキに共犯者として選ばれたナツとカホは幼なじみ。危険をかえりみることなく、ヤクザやマフィアとも対等にわたりあい、大金をガッポリとせしめる、彼ら3人のチームを中心としたクライム・アクションが展開されます。
 全編を通じて、夏の印象がやけに濃厚なのは、沖縄の風景がたくさん描きこまれているからなのか、それとも、抜群のスタイルを誇る美少女・カホの素肌の露出度がやたらと高いせいなのでしょうか......?
 『SEX』に描かれている、あまりにも端正な背景と人物は、その描線のクールさとは裏腹に、奇妙な熱を放射しています。突き抜けるような青空、眩しすぎる白い陽射し。その熱い光と風の中を疾走するユキ、ナツ、カホ。恋愛でもなければ友情でもない、不思議な絆で結びついている彼ら3人には、真夏の空気がよく似合う。
 『SEX』で描かれているのは、結末に向かって収束していく、ありきたりの物語ではなくて、はじまりも終わりもない、その激烈な一瞬の連続である、そんな気がするのでした。
 「カッコイイって 事はどのくらい カッコ悪いか 知ってるか?」
 ユキはそう言っていたけれど......真夏の中の一瞬を永遠に生き続ける、ユキ・ナツ・カホ、コイツら、やっぱり、あまりにもカッコよすぎ!

 それでは、また次回!

2008年09月08日